聖騎士訓練 前編
おまたせいたしました。
再開です。
小鳥のさえずりで目を覚ます。
「ん‥‥ふぁぁ」
伸びをしながら見慣れない部屋に目を瞬き、「どこだここ?」と疑問を感じた。
すぐに自分のいる場所がどこか思い出した。
そう、ここは異世界の『ローズ大国』とかいう王城の一室。
自分のために設けられた部屋であった。
「あれ? 俺‥‥昨日は風呂場で‥‥」
すぐに風呂の出来事をおもいだした。
しかし、体を洗ったところの部分までは思い出せるがそれ以降の記憶が思い出せない。
「どうやって部屋に戻ったんだっけ?」
一生懸命考えるも思い出せはしない。
やけに肌寒さを感じて自分の体を見ればパンツ一枚の姿で眠っていたようだった。
しかも、なぜだろうか。布団が湿っている。
――コンコンとノックオンが部屋に響いた。
「優騎様起きていますか。お食事の用意ができております」
昨日、優騎のメイドとなった彼女――ユークリアの声が聞こえた。
扉が開かれる。
「ちょっとま――」
優騎はストップをかけようと声を上げるも遅い。
彼女は入ってきて朝食を乗せた皿のカートを引きずって部屋に入った。
優騎の姿を見下ろして悲鳴を上げるでもなく無表情にボソリ。
「変態」
「ちがう! 俺は着替えるつもりだった! おまえが俺の言葉を言う前に入ってきたんだ! つーか、服はどこだ!」
優騎は昨日の記憶を頼りにしても、思い当たるはずもない。
風呂の途中から意識を失いでもしたかのように記憶がない。
「ああ、あなたの洋服ならそこのタンスにしまいましたよ。風呂場でのぼせたあなたをサクヤ様が運んでらっしゃいまして――――私がちょうどあなたの部屋で就寝準備をしてるさなかの出来事でしたから良かったものの‥‥それでも着替えさせるのに一苦労しました。全く呆れるかたですねのぼせるとか子供ですか」
優騎は彼女の言葉を聞いて昨日の記憶をすべて思い出した。
そう、昨日の夜、サクヤ・イカヤ。彼女と何故か混浴する羽目になりセクハラまがいの行為を受け意識を失ったのだった。
「くぅ‥‥」
気恥ずかしさがとたんにこみ上げ顔を覆い隠す。
「なにきもちわるいこうどうをなさってるのですか? 」
「おい、お前俺のメイドなら主に対してその暴言はないんじゃないのか?」
「私はあなたのメイドではありません。あくまで仮のメイドですので実質私はローズ王女殿下のメイドです。ですから、あなたに対して暴言は許されます」
「て、テメェ」
このメイドうざい。
「では、私はこれで。配膳の方ですが廊下に出しておいてください。あと、9時からアリシア様が来場してらっしますので騎士訓練の準備をあらかじめしておいてください」
「は? 訓練? なんのはな――」
優騎の疑問に答える気は皆無の様子で彼女は颯爽と部屋から出ていった。
扉を開け廊下を見て確認したが彼女はとっくにいなかった。
「なんなんだよ」
仕方なく、わけもわからん状況では有りつつも言われたタンスの中をみて着替えを見つけ、例の漆黒の衣服とプロテクトアーマーに身を包む。
そのまま食事をして言われた通りのことを行った。
*****
しばらくして、アリシア・ミューテシア、この王国の聖騎士の長を名乗る彼女が来訪してきた。
彼女の後に続けるように優騎は王城内の廊下を歩く。
時折メイド達が黄色い声を上げてアリシアに見惚れる様子が伺えた。
(こいつ人気あるのか?)
たしかに、女性としてはかっこいい部分がある。
男である優騎の目から見ても一目瞭然。
アリシアと勇気がやっとのことでたどり着いた場所は裏庭のクソ広い敷地。
そこでは数多くの騎士たちが切磋琢磨し剣を交差させていた。
「全部隊注目!」
騎士一同が腕を止め、アリシアと優騎に目線を向ける。
そのなかにはサクヤの姿もあった。
「本日からリリア第1王女殿下の命令により彼、キジョウユウキを第1聖騎士大隊の隊員として迎え入れることとなります」
その言葉を聞いて周りがざわついた。
「あのー、アリシア隊長正気ですか? 聞いた話だと彼は名の知れぬ一般市民だとか。そのようなものが最初から一軍とはどういうことですか?」
一人の騎士を先頭にしてまわりも「そうだそうだ」と反論を唱え出す。
「確かにあなたがたの気持ちも分かります。ですが、これはリリア王女が決めたことです。反論は認められません」
「でも、納得いきませんよ。一軍の実力があるという証明を見せてもらわないと」
「わかっております。ですので、今回彼には一度テストを受けさせます」
優騎は目を向き彼女を見つめた。
ほくそ笑む彼女がこちらを見た。
「私もタダでユウキあなたを認めるわけにはいきません。ですので、今から私が指名する代表選手5~1軍の聖騎士と戦ってもらいます。その者たちに勝利したらあなたを聖騎士として迎え入れましょう」
「あのさー、別に俺は聖騎士になんかなりたくないっていうか‥‥」
「やっておりますわね」
優騎が批判を述べた直後に一人の女性の声が聞こえた。
背後を振り向くと純白のドレスと頭にティアラを乗せた気品あふれる美女、リリア・ローズがそこにはいた。
「リリア王女殿下、何用でございますか? このような場所に? なにか重要な案件でもございますか?」
ひれ伏しながらアリシアは彼女へ問いただす。
「いえ、あなたのことだからどうせ彼を試すことをするであろうと思いまして私も一目だけでも彼の実力を拝見しにまいった次第ですわ」
周りはその言葉でひれ伏しながらも「王女殿下がわざわざ」「どんだけきにいられてんだよ?」「噂だと助けたとかいう話だが‥‥」ざわつかせた。
「それから、ユウキあなたは今この世界では迷子なのですわよね?」
「ああ」
「でしたら、あなたは聖騎士になるべきですわよ」
「はあ? 迷子と何が関係あんだよ? 俺はならねえぞ」
「ありますわ。もし、聖騎士にならないというのならあなたをこの城から追い出しますわ。助けた恩義はありますけど無職を雇うことは致しませんもの。何かしらの役にたってもらいませんと」
「うぐ」
根っからのひきこもり人生によって無職ロードを突き進んだ優騎には厳しい言葉。
就職試験というやつだ。
(確かにこの世界で生きてくには今の状態が一番安定するんだろうが騎士なんてゴメンだ。ここがい世界なのは理解してるし、確かにでてったところで生きくのは困難だろうな)
歯噛みしながら優騎は息を吸い込み吐き出す。
「武器を貸してくれよ。俺は手持ちの武器がない」
「うふふっ」
王女は策にはめたりといったような表情を作る。
嬉しそうに見学する姿勢。
「私の剣を貸します。一度でも負ければその場で終了です」
「わかった」
優騎はアリシアから模造の白銀のロングブレードを受け取った。
「では、まずは最下位の聖騎士団の5軍から‥‥ムスフ」
「ふぁってん! ふぁいのでばんふぁってん!」
彼女に呼ばれ出てきたのはガタイが大きく歯が欠けたデコボコ顔の大男。
体に纏う白銀甲冑もあなぼこだらけでいかにも弱そうな雑魚キャラ。
ゲームのアニメでいえば、サブキャラの中でも序盤に出てくる盗賊キャラレベル。
「まずは彼と対戦を受けてください」
「はぁ‥‥わかったよ」
優騎は一度も喧嘩などしたことはない。
けれど、ここ最近のあの見えた世界を頼り戦う決意をする。
衣食住のために――――
「では、始め!」
前中後の3部編の話となります。
ここから落ちこぼれの意味をなしていこうと思います