風呂場 前編
言われたとおり優騎は意気揚々と風呂場へ向かった。
何事も考えず、そこが『男湯』だと信じ込みながら戸を開き脱衣場で着替える。
その際に籠へ目が行く。
「は?」
明らかに女ものと思われる下着、黒のショーツだった。
他のかごにも同様にそういった傾向があり優騎は冷や汗をだらだらと流す。
先刻、自分は風呂場を聞いた優騎。
優騎自身は『男湯』を聞いたつもりでいたはずだった。
「まさかここは女――」
そう思い至ったとき風呂のスライド式の戸口が開いた。
きれいな赤髪をしめらせて白いきれいなうなじから胸元へ落ちる水のしずく。
胸元部分と下腹部をタオルで隠していても女性としての体つきが妖艶さを醸し出す。
赤髪の美女と優騎は数秒間固まった。
赤髪の美女を優騎は見覚えがあったか状況が状況なだけにすぐは出てこない。
彼女の背後から女お声がほどなくして聞こえ始める。
「でさー」「うそですよね?」「それが‥‥アリシア聖騎士長胴いたしましたか?」
3人の青、黒、茶の髪をしたこれまた美女がタオルで同様に体を覆い隠しながらあらわれる。
3人も同時に裸体姿の優騎を目の当たりにして顔を青ざめさせていく。
とどめとばかりに――
「お姉さま方、一体固まられてどうなされたという――」
先刻それは優騎が見とれたメイドだった。
そのメイド姿の彼女を見て優騎は男としての部分が熱を帯び始めた。
瞬間に女たちの悲鳴が上がり、アリシアが飛び出した。
優騎を着替えの入ったかごが収納された棚側に押しやり、首を腕で拘束させ、苦しくもだえる。
股間を容赦なく握りつぶさんばかりに添えられて殺気に満ちた視線を送る。
「貴様、よもや本性を現しましたですね!」
「ぐへぇ‥‥あぁ‥‥‥ぐぅ」
何も答えられない優騎。
股間が握りつぶされてしまう可能性がある。
必死に腕をタップしてゆっくりと出来るだけ言葉を紡いだ。
「俺‥‥ただ‥‥風呂‥‥に」
「風呂にただ入りですか? 覗きに来たの間違いではないですか! おそらくそれに付け込み私たちを犯そうとまで考えていたに違いない!」
「ち‥‥がう」
「このまま急症握りつぶして殺す! 王女様には私たちの裸体をのぞくために侵入したふとどき者だったとお伝えしてくと!」
強くされてく感触が始まり優騎は意識を遠のかせてく。
「あのー、お姉さまちょっとお待ちください」
仲裁するようにアリシアの首を拘束してる右手にそっと、オッドアイの少女――ユークリア・ミューテシアの手が触れた。
「ユーリ?」
「たぶん、彼の言ってることは本当かと‥‥」
「だとしても女聖騎士の裸を見たこいつは万死に値――」
風呂場の扉が開き新たな人が表れた。
「神聖な風呂場で騒がしいと思えば何をしてるか‥‥」
「あれー、そのひとー今日新入りで来た『聖騎士』さんじゃないですかー」
「ああ、先ほどの」
二人の女性、一人は黒髪の美人騎士で一人はロリっこ巨乳美少女メイド。
名前を優騎は思い出す。
(サクヤ・イカヤそれにユリア・ミッシェル)
絞り出した記憶も今では薄れゆく意識の渦でかき消される。
「そのものが何か無粋な真似を働いたのか?」
「私たちの裸をのぞかれたのです! 戸を開いてみたらこの者がいて!」
サクヤは目を細め、彼の姿を見る。
「戸を開いてみたら彼はどこにいた? 別に戸のすぐそばでいたわけではなかろう。私は先刻手合わせしたからわかるが彼は覗きなどとぶしな真似をする男ではない」
「サクヤ、あなたはこの人物の肩を持つのですか?」
「そうではない。真実を申してるのだ。どうにもアリシア殿が一方的に彼を痛めつけてる姿が我には映っているのだが」
アリシアがそっと拘束をほどき股間に添えた手を振り払い後になって自分の犯した行動に衝撃を起こし、風呂場へ舞い戻っていく。
風呂の方から叫びと同時に水の音が聞こえた。
その間に下着をはき、他の彼女たちもいそいそと着替える。
数秒後彼女が濡れた体を滴らせながら戻ってる。
優騎は背を向けて彼女の着替えを見ないよう心掛ける。
「それで、実際、ユウキ殿は覗きをされにこちらへ?」
「いや、俺は風呂に入りに来たんだ。サクヤさんあんたに言われたとおりの場所に来てそしたら事故でばったりだよ」
「やはりそうか。我の説明不足だったようだ」
アリシアや他のメンツが目を細める。
「どういうことです? サクヤ、あなたいつかれとお話なされたんですか?」
「つい先ほどだ。手合わせをしたと申しただろう。そのあとに彼が風呂を所望し場所がわからんと申したからおしえたまでだ」
「申し訳ありません、お姉さま。私の説明不足でもあります」
「ユーリまで何を言ってるんですか?」
淡々と彼女、優騎のお付きのメイド、ユークリアがしゃべりだす。
「ユウキ様には食事や明日の日程などは教えたのですが彼の身だしなみの悪さがゆえに風呂を所望する性格ではないと思いまして風呂の入浴時間の説明をいたしませんでした。ユウキ様は一度説明をお聞きなさらなかったものですから少々意地悪な形をとてしまったのも正直なところではあります」
「ユーリ」
ユークリアの愛称でアリシアはその頭に手を置いた。
「あなたのせいではありません。一度説明を聞かなかったとはどういうことですユウキ?」
「あー、いやーぼっとしてて――てか、風呂の入浴時間があるなら説明をしてほしかったぞ! 勝手に風呂入らない汚い人間扱いするなよ!」
「何を言うんだか。あなたは顔や体を見ても汚い人間でしょう」
「さすがです。お姉さま。見る目あります」
真顔でアリシア、ユーリシアはぐさりと来る言葉を告げた。
いろいろ言いたいことがあるのだが周りの過半数以上が同意するように頷いてたので反論しようがなかった。
「ともかく、これにて解決したのだな」
締めくくるようにサクヤが申し立てる。
「そうですね。彼はどうやら入浴時間を知らずに来たということはわかったので今回のことは見逃します。ですからあなたも――」
アリシアがアイアンホールドを優騎にくらわす状態でずいっと顔を寄せた。
怒りをにじませた笑顔をうかべる。
「先ほどの見たことをすべて忘れることです。いいですね、キジョウユウウキ」
「りょ、りょうかい」
圧倒的な迫力に頬をひきつらせながらきっと、恨みがましくメイドを見る。
メイドは素知らぬ顔で風呂場から出て行った。
「くそー、つーか入浴時間っていつだよ」
「男の入浴時間は20時から21時までの1時間のみだ。我も先ほどは説明の補足をしなくて悪かったな。あのとき聞いてきたときに貴様が入浴時間を知らないことを悟ってやればよかったのだが」
サクヤは平然としながら着替えを始めていたのでおもわず優騎は目を剥いて声を荒げた。
「も、もうしわけねえ!すぐ出るよ!」
「何を申す。我は見られて損するような体つきをしてはいない。一緒に入ればよい。ユリア殿、貴様もよいな」
「はいー、私はサクヤ様お付きのメイドですのでーサクヤ様の指示に従います―」
「あ、いやでもな、年頃の男女が混浴ってのはいろいろとまずいって――」
「我と一緒に風呂はいやか?」
パンツとさらしを巻いた姿だけとなった彼女は身を寄せ腕をからめてくる。
なんでこんなに積極的なんだろうか。
「あ、いやとかじゃねえぞ。けどよぉー常識的って言うのか‥‥」
「ユウキ殿は風呂に入りに来たのだろう? ならば良いじゃないか」
「‥‥‥‥わかりました」
結局、優騎は潔く服を脱ぎ捨てた。