グランド王国内部戦争 後編
自転車にでも追突されたかのような衝撃が体中を巡った。
その痛みが優騎を目覚めさせた。
目覚めた視界に最初に移りこんだ光景はどこぞの裏庭のコテージかテラスの場所で戦うクリュルッハと数時間ほど前優騎が殺したはずのサクヤを拷問してた女だ。
「いったい何が起こってるんだ‥‥」
クリュルッハの連続した刺突を軽い身のこなしで回避していく拷問官の女。
まるで、軟体動物さながらのような動き方は実に気持ち悪かった。
腕が蛇のようにしなりクリュルッハの首をカウンターのように狙う彼女。
彼女の手には例のごとく不気味な溶液の入った注射器が握られている。
「そうは‥‥いかない!」
クリュルッハは見事に後方に剣を振りかぶった。
彼女にはそれでもあたらない。
軟体的な動きに俊敏性。
まるで、蛇のような女である。
「くふふっ‥‥ひさしぶりにからだがほてちゃった‥‥いひひ」
薄気味悪く唇を引きつらせ笑う。
クリュルッハが目を研ぎ澄ませて彼女の動きを注意深く観察してるのがうかがえた。
ふいに彼女が足をぐらつかせ膝をついた。
なにごとかと目を疑った。
「やっと‥‥いひひ効いてきたわねぇん」
「ちゃんと‥‥よけた‥‥はずです」
「どこをみてそういってるのかしらねぇん」
彼女が手に持っていたのは二本の注射器。
優騎にも最初は一本に見えた。
だが、彼女が握っていたのは二本であった。
その一本は中身が空っぽ。つまり、クリュルッハに打ち込んだのだろう。
ついには力尽きたクリュルッハの姿を見て優騎は苦痛の顔を浮かべる。
「さあ、じわりじわりと苦しんでいってねぇん、いひひ」
拷問官の女が腰から歪曲した特殊な刀身を持つ短剣を取り出した。
(あれはなんだ?)
その見たこともないような不気味な短剣に目を奪われてる間にもその剣はクリュルッハに迫る。
「まずい!」
優騎は体をたたき起こした。
その姿を拷問官の女は気づいた。
「あらぁ、お目覚めなっちゃったのぉん。眠ってる身体をいたぶろうかとぉ思ったのにねぇん」
「彼女に近づくなよクソアマ」
「いひひっ」
いうことを聞かずに彼女はそのまま剣を振りかざした。
身体が思うように動かず悩んだ。
『主。魔法をお使いください』
唐突に記憶に鮮明によみがえるゲームの時の記憶。
たしか、体力ゲージが残り10くらいの際に身体を増強させる魔法があった。
名前は――
「――リヴァイン」
途端に体の奥底からみなぎるエネルギー。
一気に足を地に踏み込みクリュルッハの前まで跳躍し拷問官の女の腹をレミアスで切り付けた。
「ぎゃぁああああああああああ!」
女の絶叫が上がる。
血まみれの腹を抑えながらたたらを踏み後退していく。
「あぐぅ‥‥」
血走った眼でこちらを凝視する彼女。
さながら、敵を見るような目だ。
「いひひひ! こんないたみぃひさしぶりよぉん!」
血にまみれた体を振り回し、猟奇的にこちらに突っ込んできた。
おもわず、反射できずにおもいきり頭突きを溝にくらった。
優騎は後方へ吹き飛びバランスを立て直そうとする。
彼女の猛追は決してそんな優騎を気遣うなどせず鬼気迫る。
「っ!」
「わたしの毒をうけなさぁいん!」
にじり寄った彼女が注射器を放つ。
もろに腕に突き刺さる注射器3本。
中の液体はどくどくと体の中に進入していく。
次第に眠気と体のマヒが襲う。
「あがぁ‥‥」
決して膝はつかないように努力するが朦朧とした視界に彼女の足が見えた。
直後、顔面にめり込む彼女のかかと。
彼女のかかと落としが優騎に炸裂する。
「あがぁ」
「あひゃ!」
腰から例の短剣が出た。
『主。あれはやはりまずいです! 聖剣の一種です!』
レミアスの注視の言葉むなしく優騎の腹部に深く突き刺さった短剣。
「一瞬の攻撃は見事でしたぁわねぇん、でもぉ、わたしにぃとってあくまでぇいっしゅん」
「がっは」
口から零れ落ちる赤い液体。
胸元に刺さった剣はどんどん体の中に。
「このぉこのぉ餌食になってくださいなぁん」
優騎の視界にうつったわずかな短剣の刀身の根元が白銀色から優騎の血を吸いこんでるように真っ赤な色へと変色するのを垣間見る。
意識が遠のいていく。
「これでぇ、わたしのぉいのちがもうひとつぅふえましたわぁん。いひひ」
『主! 目を覚ましてください! ある――』
優騎は脱力し始めたからだと同時に眠りにつくのだった。




