『聖騎士』就任
まるで理解できなかった。
異世界など空想の物語だと考えていた。
ゲームやアニメでは度々ある話だ。
主人公が異世界にやってきて無双しちゃうぜって話。
優騎はそんな今いる自分の場所が未だに異世界だと信じ切れない。
しかし、城へ向かう道中にあるいてる人は見たこともないような人――いや、人ではない存在。
角を生やした牛の人、トカゲのような姿をした人、獣耳を生やした人、ゲームで定番のエルフのような姿の人。
それぞれ、優騎のいた世界では見ない。
「本当にゲームの中なのか?」
自分がしていたゲーム『KNIGHTOFSEVEN』には確かに存在していた人種ではあった。
ゲームに例えれば彼らのような人種にはちゃんとした種族名義が存在していた。
優騎にはしかし、ゲームの中であるという確信を抱きたくない。
抱くとすればついに自分は頭がおかしい住人だ。
「くそくそぉー、夢ならさっさと覚めろよぉー。ゲームやりすぎて頭おかしくなったかぁ? じゃあ、あの運営からのメッセージには説明つかないしぃ―。いやあそこから夢っていうことも‥‥」
「なにさっきから一人でいってますの? つきましたわよ」
大きな門が目の前にそびえ立っていた。
王城ではありきたりな設定だ。
門がありそばには門番らしき騎士。
(そういえば俺のクラスHolyKnightってなってたっけ)
などと目の前の騎士に睨まれながらも気にせずそんなことを考えこむ。
「これは王女殿下! 探していましたよ! 今までどちらにいらしたのですか!」
「ワタクシの勝手でしてよ」
「そうはいいますがアリシア聖騎士長が心配なされてましたよ」
「アリシアはあいからわず心配性ですのね。ワタクシも一人にさせてくださいといいましたのに」
「ですが、王女殿下アリシア聖騎士長だけではございません。私どももちろん、神官どのなども――」
「ああ、もういいですわ。さっさと通しなさい」
「‥‥‥‥わかりましたが‥‥そちらの男は?」
「この者はワタクシの恩人ですわ。いいから通しなさい」
「‥‥わかりました」
王女に忠誠を誓う騎士にとって王女の言葉は絶対なのだろう。
すんなりと、優騎は王女の後に続き王城の中に入った。
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王城入ってすぐ案内されたのは王室だった。王座にそのまま居座った彼女――先刻説明を受けたとおり、この国『ローズ大国』第1王女、リリア・ローズを前にして間隔をあけて優騎は傅く。
最初は茫然と突っ立ていた優騎。
隣に目線を優騎は移す。
視線の先で優騎にひどく強い眼光を光らせる、甲冑に身を包んだ赤髪の騎士がそうさせた。
整った美貌にスタイルはまさに美女騎士。
彼女の強い声が傅かせるに至った原因。
「このようなどこともわからん異国の騎士らしき者をどうして信用せよといいますか! いくら恩義があろうと先の無礼なふるまいから無理極まりありません!」
入室そうそう優騎は突っ立っては帰らせろとの暴言を吐いたために相手を怒らせたのも無理はない。
王女に対しての口のきき方を周りが許すはずもない。
「それにリリア様、あなた様は単独行動が多すぎます! 私たちがどれだけ心配したことか!」
「うるさいですわねぇ―アリシア」
「う‥‥‥」
アリシアといわれる彼女は言葉を失うように沈黙をする。
まわりの王族に使える役職の者たちもあきれて何も口にはしない様子。
いつまでこうしてればいいのか。
「アリシア、あなたの愚痴はあとでいくらでも聞いてあげますわ。まず、進めるべきは彼――あなた名前なんて言いました?」
「は? 俺か?」
「おい、貴様! 王女殿下の前で何たる口の――」
「アリシア、黙ってなさい」
「‥‥わかりました」
おとなしくなったアリシアに同情を抱く。
「名前は?」
「あ、ああ。軌条優騎」
「ああ、そうでしたわね。ユウキ、あなたは騎士なのかしら?」
「いや、俺は無職だ」
その途端、王室にいる者たちが驚嘆するように声を上げ、まわりでひそひそと話す。「職のないものを王女殿下を助けた?」「何か裏があるにきまってるぞ!」「即刻追い出すべきでは?」「しかし、王女殿下は気に行っておられる様子?」
と様々な憶測が飛び交う。
優騎はさぞどうでもいいとでも思いながら天井を仰いだ。
「早く帰してくんない。俺もここがどこかわかんねえけどさっさとここからはいなくなりたいし」
ここは居心地がいいものではない。
自分の居場所さえ分からないがとにかくこの場にいるよりかもっと別の場所へ移動をしたい気分。
「あなた自分の居場所が分からずどこへ向かいますの? なにやらわけありな感じですし。それに騎士の恰好をしてるというのは元騎士みたいですわね」
「あー、別に元騎士ってわけじゃないんだが」
「はい?」
「あーいや、何でもねえよ。今はさ未だに置かれた自分の状況が信じられなくってな。夢なんじゃないかなぁ―と」
「夢? あはは、おかしなことをおっしゃいますのね」
「俺は真面目に言ってるんだが」
またさらに周りの声には不安がにじむ。
「申しますとワタクシにとってあなたの意思など必要ないんですの」
「おいおい、それは人権無視ってか? 帰らせない気か?」
「帰る場所もないのにですの?」
「‥‥‥‥帰る場所はあるさ。東京だ」
「ですからその「とうきょう」ってなんですの? 本当にあなたの国ですの?」
「‥‥‥‥本当にここはゲームの中か。――世界地図ある?」
「はい?」
「いや、だからさ世界地図あるか聞いてんだよ?」
「あなたワタクシが誰かわかってそう言うことおっしゃってますの?」
「ああ、だからこの国のお姫様だろ? 俺にとってはそんなのどうだっていいからさ」
王座から立ちあがったリリアはゆっくりと歩み寄ってきて優騎の顔を蹴りあげた。
静寂に包まれる王室。
「さすがに命令は納得できませんの。ワタクシを命令していいのはワタクシだけですわ」
「あが‥‥がぁ‥‥」
歯が折れて顔を血まみれにさせながら優騎は痛みがあることでもう現実という証明を実感というわりきりをした。
「いてえ、すこぶるいてえ。ああいいぜ。ここが現実だって十分理解したさ。わりきってやるさ。どうしてこんな状況になったかはおいおい真意を探るとしてだ‥‥一発殴らせろぉおお!」
リリアに向かい飛びかかろうとした刹那、首筋に剣の刃があてがわれた。
「貴様! それいじょう動いてみろ。容赦なくその首落としてくれる」
「あはは、いいね。もしこれで死んだら現実だったわけか」
「意味のわからんことを――」
剣が振るわれる直前だった。
「アリシア!!!!」
「っ!!」
「あなたは黙れと申したはずですわよ?」
「も、もうしわけありません。ですが、リリア王女の身に危険が生じましたので」
「彼にはそれくらい気合が入ってもらわないと困りますわ。彼にはこれから『ローズ大国』の聖騎士になってもらいますわ」
『っ!!』
その場いいる者たちが両目を見開いた。
さすがにありえない言葉を聞いた。
それは優騎もまたおなじで――
「あはは、おいおい、俺は承諾しねえぞ。確かに行き場はねえし、ここがどこかわかんない。俺は今まで無職だったなんのとりえもないひきこもり男だぞ? あんたはそんなのをこの女と同じ役職にさせようってのか?」
聖騎士がだいたいどんな役職かは想像がついた。
『KNIGHTOFSEVEN』の中だとすればモンスターや人と戦い、はたまた戦争の助力となる存在。
剣道もやったこともないし喧嘩すら無理。
(そんな俺を聖騎士だと?)
あきれてものも言えない。
「王女殿下、本気でおっしゃって――」
「アリシア、次しゃべったら独房ですわよ」
「‥‥‥‥」
これで誰も止めようとする者はいないとばかりにリリアは王座に戻り座る。
「いいですわね、ユウキ」
「いやよくねえよ! 『聖騎士』とかふざけんなよ! 無理だっての! 喧嘩だってしたことねえ剣とかあつかえな――」
「ワタクシはあなたはそうは見えませんわ。喧嘩が出来ない? なら、ワタクシをあなたは助けられてはいませんでしょう?」
「あ、あれは偶然‥‥」
「神官、例の男たちの書類を持ってきなさい」
「はっ!」
リリアは一人の初老の男に呼び掛けた。
齢70過ぎくらいだろうローブを身にまとった老人が紙の束を持ってきた。
それを優騎は手渡された。
そこには顔写真つきでさきほどの男たちの詳細な情報が記載されていた。
役職は『傭兵』だった。
「彼らは名のある傭兵でワタクシを殺す依頼を受けてたみたいですわ。どこの国の命令かまでは知りえませんでしたがあなたはそんな者たちからワタクシを救ったんですのよ」
言い逃れが出来そうにない。
偶然に片付けるにも厳しい。
殴り倒す姿を彼女の目にしっかりと映っていたんだ。
「あなたを『聖騎士』にむかえるからには‥‥ユウキ、あなたにはそれ相応の衣食住を用意いたしますわ。先ほどの世界地図の件も見せてあげなくてもよろしいですわよ」
「交渉ってわけか?」
「交渉? 違いますわ。命令ですわ」
何も言えない。
今の状況で衣食住の提供はおイシイ話。
断る理由などあるはずもなく――
「わかったやろう」
「決定ですわね。今後はワタクシに対して敬う心を忘れるんではありませんわよ。それとアリシア、彼はこれからあなたの部下ですわよ」
「っ!」
「返事は?」
「はっ! りょ、了解‥‥しま‥‥した」
苦汁をしのんで了解する彼女の姿がそこにはあった。