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バイル村モンスター討伐 中編

「あぐぅ‥‥」

「ぐぅうう」

 辺りから聞こえるのは苦痛にうめく人の壮絶なまでの苦しみの声。

 体中に火傷を負い倒れた騎士たちがそこらじゅうにいた。

 立ってるのはごく少数。

 アリシアもそのうちのひとりですぐに現状を理解し前方からくるモンスターの群れを見て恐怖と絶望を理解しながらもすぐに指揮を奮い立たせるべく掛け声をした。

「まだ、戦えるものは剣を抜いてください! 敵が来ます! ゴブリンは戦える状態の聖騎士の4、5隊及び戦える兵士半数が相手を行い、ペルフォスの相手はその他の隊で総当たり致します!」

 無理な指示が現場にかかって全員が顔を引きつらせながらも前方の敵を確認してやるしかないのかという気持ちで剣を構えた。

 途端に戦闘は始まる。

 雷光の一撃を受け弱りきった軍隊での決死の攻防。

 ペルフォスの軍を1、2、3の聖騎士のわずかな軍団が相手をし、他の聖騎士がゴブリンの相手をする。

 弱りきったそれらのモンスターの止めを兵士が刺していく。

 そんな行動が見られる卑屈な戦い光景。

 優騎は背後からくるゴブリンの棍棒の攻撃をかわし切りつける。

 そのまま、動かずじっとこちらを観察するキリンを注目した。

 優騎も先ほどの雷光でよわりきってはいたがそこまで重症ではなかった。

 この場にいるものの中で一番といってもいいほどに動けるだろう。

 なぜなら、優騎は頭上の雷光の直後自分の身を守るために再度剣を地面に刺し氷壁を作り上げ身を防いだのだ。

 だが、あくまで一時しのぎでしかなかった。

 2度目の雷光はさすがの氷壁も数秒程度しか持たず氷壁を砕き優騎も襲われたのだ。

 それでも、衝撃の半減は出来ていた。

「あのやろうむかつくんふぁ!」

「くっそっ! なめやがって!」

 そのときだった。

 数人が観測するキリンを凝視し、怒りに顔を歪ませ突貫を図った。

 勝手な行動にアリシアも仰天をする。

「よしなさい! 下手刺激を与えず今は雑魚の掃討を――」

 アリシアの指示は優騎も間違いではないことを理解していた。

 現在のキリンは何を思ってるのかは知らないが傍観者を気取って全く攻撃をしてこない。

 かわりにゴブリンとペルフォスが攻撃を仕掛けてるのであればこいつら殲滅を優先すべきというのはいい考えである。

 叶わぬ相手にむやみに突っ込んでも死しかない。

 相手は大人しいのだ。

 尚の事、大人しくさせ特に限るはず。

「馬鹿野郎ども!」

 おもわず毒を吐いて優騎は助けに行こうとしたがゴブリンの群れが邪魔でうまく動けない。

 キリンに突貫したグループはうまい具合にザコの群れをかわし、キリンへ接近した。

 第5聖騎士隊や第4聖騎士隊の連中が大半だ。

 第4聖騎士隊は負傷者も数多くいる中で無茶な行動と言える。

 とくにリーダーであるスールまで向かってるとなると馬鹿な部隊としか言えない。第5はまだ、リーダーである彼女は独断専行していないだけマシな部隊なのかもしれなかった。

 接近した彼らは一斉に遠距離魔法を放つ側と近接の魔法物理攻撃を仕掛ける側で別れて総攻撃を仕掛けた。

 数秒後、キリンの周りで雷光が散って爆雷が落ちる。

「っ! まずいです! 第1聖騎士隊は一度ペルフォストの戦線を離脱! キリンの対処に移行します!」

 アリシアが率いる部隊がうまい具合に抜け、キリンに向かう。

 優騎は哀れな行動に思えるその行為を見ていられずに第5聖騎士隊長に進言をこおうとした。

 だが、必要はなかった。

「‥‥ムスフっ!」

「何っ?」

 隊長である彼女クリュルッハ・エーベルハッツがゴブリンを凪飛ばし駆け出した。

 呆気にとられる優騎は彼女の後ろ姿を見つめた。

「一体何だ?」

 とにかくと優騎は他兵士に残り少ないペルフォスやゴブリンを任せ、キリンの対処に向かう。

「記憶が正しければキリンは素早さ特化型のモンスターだ。攻撃力はさほどでもねえ。種類もそう豊富じゃなかったはずだな」

 記憶を掘り起こしながらアリシアらが攻撃を仕掛けたタイミングを見て自分もレミアスで切りつけた。

「ちっ!」

 攻撃を与える直前で気づく。

 全騎士の攻撃はキリンに直撃してはいない。

 キリンはわずかな動きでこの死角がないはずの状況を乗り切り回避してるのだ。

「なんつう速さだ! マッハかよ!」

 それに気づいてるのは優騎だけらしくアリシアらは未だに無駄な行動をおこし切りつけにかかってる。

「やばい! おい! アリシア! 防壁を展開しろ! 爆雷が来るぞ!」

 必死に優騎は命令口調で呼びかけた。

 だが、彼女は聞く耳持たず攻撃の手に必死だった。

 近くでは悲痛な叫びが聞こえた。

「姉ちゃんごめんだ。ボク、かつやくできんふぁ」

「‥‥もういい。安らかに眠れ。私もすぐ向かおう」

 ムスフと彼女の関係に優騎は気づく。

(そうか、あのとき、俺とムスフの試合を覗いてたのは姉として――)

 そんなことを考えてる暇はなかった。

 次第に電流の激しさはましもう、放電直前である。

「くそったれ! レミアス! もう一度だ!」

『我が主、了解です』

「吸収する剣よ! その身に宿す聖剣の力を解放せよ!」

 刃を地面に突き立てキリンの周囲をドームで覆い隠すすると、キリンは自分自身の技を自分自身で被り絶叫が響く。

 だが、威力はやはり、強い。

 キリンの周囲を覆い尽くすドームは数秒後崩壊し氷の破片を散らばし電流があたり一面に弾けちった。

 優騎ら一同が吹き飛ばされ体中が痺れ身動きがとれなくなる。

「キジョウユウキ、助かりました」

「感謝すんなら最初から俺の言葉を聞いとけよ」

 中腰気味のアリシアがこちらを見ながら感謝の言葉を述べつつまだやる気の様子で剣を構え出す。

「おい、まてバカ騎士」

「だれがバカ騎士ですか!」

「いいから聞け! あのキリンってやつは記憶が確かであればすばやさに特化したモンスターだ」

「そんなの知ってます。キリン、この世界では神速の雷獣といわれてるモンスターです」

「わかってんなら無意味な攻撃だってわかってんだろ? さっきから俺らの攻撃はあたってねえ」

「え」

「気づいてなかったのかよ」

「はい」

「よく見ればわかる。あいつどういう動きしてんだかこの包囲状況で仕掛けられた攻撃を僅かな動きで全て避けきってやがる」

「でも、一歩も動いてないように見えますよ」

「実際動いてるんだ。つっても、ほんのわずかだぜ」

 そう、ほんの2、3ほ移動してる程度しか動いてはいない。

「あなたの先ほどの攻撃をもう一度できませんか?」

「馬鹿言うな。さっきみただろ? その場しのぎにしかならねえよ。それにどうやら奴さんを怒らせたみてえだしな」

 その様子にキリンは前足を蹴りなにやらやばげな感じを漂わせた。

 キリンの一本角が発光し頭上に雷雲が集まりだす。

「まさか」

「なんです?」

「さっきのよりひでえのが来るぞ」

 空から白い球体のようなものが降ってくる。

 それを触った騎士が雷に打たれたように煙を上げ倒れていく。

 次第に足場にも電流が流れ出し完全に電磁場の包囲にハマる。

「抜け出す方法はないんですか!」

「ねえ」

 絶望を抱き、優騎は死を悟る。

「くっそっ、元の世界に戻れずこんな場所で死んでたまるかよ。どうすれば‥‥」

「‥‥ムスフを‥‥も‥‥」

「クリュルッハ第5聖騎士隊長下がりなさい!」

 雷光の雨をわずかに剣で受け止めてキリンへ近づいていくクリュルッハの姿が映った。

 その目は血走っておりもう、誰の聞く耳も持っていないだろう。

 そのことがわかるように雷光の雨を剣で受け止めてもその衝撃までは抑えきれるはずもない。

 彼女の腕は血みどろになっている。

「‥‥弟の敵!」

 剣をクリュルッハが振り下ろした。

 キリンが嘶き彼女に前足を振り上げる。

「あーあ、ったくよぉ!」

 優騎は例の身体強化によってまた発動していた、あのストップワールドが。

 それは死の境地に立たされた体を動かした影響か。

 クリュルッハの体を横からつかみあげキリンの角を切り落としてから横に倒れこんだ。

 世界の停止はおわり、声が響いた。

 キリンの絶叫だ。

 雷雲も引いて電流だけがあたりに迸っていく。

 暴れ狂うキリン。

 その場にいる全員なにごとかと見た。

「おい、アリシア。未だ全員でかかれ!」

 優騎の記憶の中にあったキリン戦。

 キリンは角で雷雲を引き寄せ莫大な雷光を放射させる源を有していた。

 その時の倒し方は角を破壊してからだったのを思い出した行動だ。

『我が主、私の体力も残りわずかです』

「んだよ、それ」

『大技を何度も防いだからでしょう。すみません』

「しゃーないか」

 キリンがふらついた足でいまは騎士たちへ突貫してる。

 ついに動きを見せてるキリン。

 いつこっちへ襲い掛かっても不思議ではない。

「‥‥誰と話してる?」

「お、あんた大丈夫か?」

「‥‥」

 優騎の腕から抜け出すと彼女は優騎を見下ろす。

「‥‥感謝する。‥‥だけど‥‥弟を痛めつけたことは許さない‥‥だが‥‥弟を死に至らしめたあのモンスターはもっと許せない」

「そうかい。まあ、それでいいさ」

 ついにキリンの駆け足が背後から聞こえてくる。

 振り返るとキリンが向かってきていた。

「さあ、こい神速(笑)の雷獣さん」


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