アイスグラシエル 後編 改稿版
怪物は優騎の技でひるんだがすぐに体勢を立て直していた。
牙を煌めかして、口腔を開き倒れた優騎に迫った。
しかし、彼の体が突然発光し、目を焼かれるような激痛がはしりのたうち回る。
次の瞬間、怪物の体をずたずたに切り裂かれていった。
「ぎゃぁおおおおおおおん」
絶叫の雄叫びをあげながら怪物は水中の中で沈んでいく。
優騎は両手に握った氷の刀身に氷のような装飾を施された柄の剣――
『吸収する剣』がアイスグラシエルを吸収したバージョンを握っていた。
そう、先ほどの光は吸収をしたことによって起こった閃光現象。
そこからの高速移動からの双剣の斬撃が怪物を打倒した。
水中の中で泳ぎながら双剣を横合いに構えて大きく横薙ぎに振るうと水中内で竜巻が起き瓦礫で塞がれた出入り口に竜巻が激突する。
同時にわずかな人一人分が通れる穴を作って氷漬けの入口をつくる。
出れば遺跡の側から穴を通してあふれた水が外側の通路にまで及んで湖状態としているが、完全に水が溜まったわけではない。
頭上を見上げると光が見えた。
――耳鳴りがその時起きて、涼やかな音色のような言葉が頭に響いてくる。
『主、私をお使いください。下方向に先程の技を放ち、反動を利用して主を押し上げます』
優騎は剣にむけ頷き、地面に体を向け双剣を横合いに構え放つ。
うずの竜巻が起こり地面に激突し爆発。
水上噴射のように優騎を天井高く押あげ、光を飛び越えると息ができ、呼吸を確保できる感覚が来る。
「しまった!」
そこまではよかったが噴射の勢いが強すぎたあまり宙高く飛びすぎていた。
草原が見える地面にこのままでは落下する。
そのときだった。
落下地点に騎馬隊のような群れが現れ、どこかの国の国旗が描かれた大きな布を広げ優騎はその布に包み込まれるようにして落下。
衝撃は布が吸収し、どうにか体は傷めずに済んだ。
「助かったのか?」
「ええ、私のおかげでですわ」
影が差し込み頭上を見上げると白馬に乗った甲冑の美女がこちらを見下ろしていた。
ほかの騎士とは違う甲冑格好をした美女。
見覚えがある。
そして、思い出した。
「お前は横暴王女!」
「っ! 誰が横暴王女ですのっ!」
王女が鞘から剣を引き抜き振りかぶった。
優騎は泡を食いながら飛びのき回避する。
瞬時に動作を見て判断してよけてなかったら死んでいた。
「な、なにしやがんだ!」
「助けてあげた恩人に言うセリフがそれですの? 私を誰だと思ってますの?」
「そっちが勝手に助けただけだろう。俺は頼んじゃいない」
「な、なんですってぇ!」
「貴様ッ! 王女殿下になんたる無礼な言い方をしてるんですか! 謝りなさい!」
背後から剣の鋒が押し当てられる。
黒馬に乗ったこれまた女騎士。
その人物にも見覚えはあった。
「おまえは暴力女」
「貴様は死にたいようですね。助ける必要はなかったのでしょうか」
その時、優騎をかばうように彼の前に出てくる騎馬。
黒馬に乗った黒の甲冑の騎士。腰には日本刀を下げた黒髪の美女。
「サクヤさん」
「無事だったようだな。ユウキ殿」
「サクヤ、そこを退くんです! 彼には体罰が必要です!」
「お待ちください。アリシア聖騎士長。目的は彼を連れ戻すことでしたはずだ。ここで彼を痛めつけて彼が怪我をして歩けない状態になったら連れ戻す意味がなくなるのでは? 彼を連れ戻す目的は彼を聖騎士として働かせるためだったのだろう?」
「そんな事関係ない! こやつは王女殿下に無礼を――」
アリシアが何か言う前にリリアの冷静な声が間にはさんでくる。
「もういいですわ。私もそこまで幼稚ではありませんもの」
「……なんか迷惑かけたな。それよか、リッソルト村の連中は?」
「心配はない。無事に村へ戻った。その道中に王女殿下と出くわしこうして戻って来たのだ。ちょうど山頂部分の抜け穴に気付けてよかったと思っている」
ほっと安堵の息をついて優騎はまた彼女たちに出会えればいいなと心なしか思った。
「――まぁ、それは安心で王女様がこうして俺を直接連れ戻しに来たってのは処罰を与えるため?」
鼓動の早鐘を打ちながら王女の顔色をうかがい恐怖に冷や汗を流す。
「そんなことしませんわ」
と頬笑み彼女が言う。
でも、どちらにしても連行されるのだろう。
命はあるのであろうか。
「一つ聞いていいか?」
「なんですの?」
「おれは聖騎士として認められたってことはサクヤさんから聞いたんだけど間違いなし?」
「そう……ですわね。この後のあなたの対応次第では」
「そうか、だったら悪いんだけどさ、聖騎士になるってのはやっぱり無理な話だ」
「なに?」
アリシアの目が座り出し、リリアも眉間にシワを寄せながら口を開く。
「どうしてですの? もし、聖騎士になれば優遇はいたしますわよ。傭兵なんかよりも給料はいいですし最高の暮らしを提供いたしますわよ。風呂や専用の部屋だってもうけますわよ」
「最高の暮らしなんかどうだっていいさ。俺は住める環境さえできればな。たしかに今の状態で金がいい方につくのが有利かもしれねえけど案外傭兵としても食べてける生活はできるってわかったし暮らしも不自由しなさそうだ。だいたい、聖騎士になったらなったで従って行動しなきゃいけねえのは面倒だ」
そうだ。縛られてれば帰る方法すら探すことは困難になる。
今はまず、行動の自由と金があればいい。
武器だって手に入れた。
「あれ?」
ふいに考えた。
優騎はミスをおかしたことに気づいた。
アイスグラシエルは回収し提出しなくてはいけない代物だったはずだ。
今、アイスグラシエルは自分の剣の中にある。
冷や汗を流しながら優騎は語りかけた。
その状況を見て王女は訝しみながらも自分の意見を言った。
「仕方ありませんわ。今まではあなたが聖騎士として見込みがありそうだから不敬罪も大目に見ましたわ。けど、聖騎士になりたくないというのであれば仕方ありませんわね。アリシア」
「はっ!」
「お、お待ちください! 王女殿下! 彼には私が言い聞かせるから少し時間をくれませんか」
「私に歯向かうんですのサクヤ? 反逆罪とみなしますわよ」
「っ!」
サクヤは焦りに募り背後の優騎に向かい「ユウキ殿」と呼びかけたがぶつぶつとさっきから何か独り言をつぶやいており気味が悪くなる。
「なにぃ!」
突然に雄叫びをあげ、頭を抱え出しうずくまる彼を見てその場にいつ全員が意表をつかれたように硬直する。
「そんなうそだろ‥‥あれだけ大見得切って結果失敗とかあんな場所戻ったら笑いもんなうえに馬鹿にされちまう‥‥あんがい殺されっかもな‥‥あはは」
「ユウキ殿?」
「あん? サクヤさんなんだよ? うん? みなさん俺を見てどうしたの?」
どこからか堪忍袋の緒が切れたかのようにブチっという音が聞こえた。
「貴様ぁあああ! 馬鹿にして許しません!」
サクヤが優騎を庇うようにして立ちはだかったがサクヤをアリシアは剣でなぎ倒し落馬させる。
アリシアの剣が優騎に突き刺さるそうみんなが確信した。
だけど、刺さらなかった。
優騎は例の高速の行動で剣の軌道を見て避けた。
「あっぶねぇ!」
ヒヤッとした表情を浮かべながら優騎は両手を挙げた。
「何か知らんが俺が悪かった。聖騎士の話受けさせてもらう。もう俺には居場所がない」
そう、宣言した。
突然の手のひら返しに周りも唖然。
彼の中で何があったのか今の数秒間でというような驚きが顔に滲んでいた。
(このまま傭兵の集会所になんかもう顔出せねえもんなぁー。もう哀れだ。金の稼ぐ場所は今はもうこの条件を飲んでくしかない。しばらくは聖騎士として従って働いて衣食住を確保しよう)
などという考えは騎士たちに分かるはずもない。
「いまさらそのことが許されると思うんですか!」
「アリシア、剣を収めなさい!」
「しかし、王女殿下」
「いいから!」
「はっ」
リリアの命令に従い、アリシアは今にも牙を向かんばかりの表情を優騎に向けながら後退していく。
「サクヤをそこの騎士見てあげなさい」
リリアが近くの騎士に命令をし、サクヤの容態をその騎士が確認する。
「まったく、今回の件でサクヤには禁固刑をだしますわ。まあ、それは置いておきまして、ユウキあなたどういうつもりですの? 命が惜しくなりましたの?」
優騎はプライドを優先し、自分が任務の失敗を恥じて集会所に行けなくなり傭兵業もやり続けられなくなったなどという素直な意見は述べず、こくりとうなづいた。
「ああ、流石に命は惜しい」
実際、今になって優騎は自分が殺されそうな状況だったのかと悟っていた。
「ふーん」
「本気で反省してる。たしかに、聖騎士にならないっていう判断は間違ってた。そんな好条件を捨てるのはもったいないしやらせてください」
下でに出るように普段はあまり得意で使おうとしない敬語を駆使し頭を垂れる。
「まあ、いいですわ。とりあえず一緒に帰りますわよ。続きの話はそのあと詳しく聞きますわよ。あなたのことも含めて」
グランド王国戦争編 前章完結。
次から後章です。




