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優しいおっさん

 依頼を受けた矢先、優騎は思いもよらない局面に遭遇することとなった。

 ――――バルハ遺跡とやらの場所がわからない。

『KNIGHTOFSEVENS』に似てるとはいえ、それとおりにマップが展開してるかと言われるとあやふやである。

 実際、今目の前に出たばかりの集会所は見覚えがない。

 ゲームには集会所なるものは存在はしていない。

 したのはあくまで王国や村人A、BとかいわゆるCOMキャラ。

 そういう人から依頼を請け負うゲームが『KNIGHTOFSEVENS』の主体だった。

 場所を聞きにわざわざもう一度集会所に入るのは間抜けすぎる。

 大見え切って難易度超クラスの依頼を受けた矢先、場所がわからないなど聞いたら依頼の失敗ですかなんて話になる。


「くそっ! ミスったぜ」


 それでも、受けた依頼内容とやらは覚えてる。

 バルハ遺跡にある宝剣『アイスグラシエル』の回収。

 『KNIGHTOFSEVENS』にも『アイスグラシエル』は存在していた。

 名のある宝剣。

 しかし、その実物をゲーム内で目にかかったのは数人いるかいないかと言われるほどのブツである。

 『KNIGHTOFSEVENS』でかなりの実力者だった優騎も目にはしたことがない。

 噂程度の想像でしかない。

 氷状の刀身をもった大型の剣。

 それが噂の『アイスグラシエル』。


「物自体が理解していたとしても場所が分からなきゃ意味ねえよな。とりあえず――」


 右手を見た。

 道が続き、ずっと奥へ行けば境界線の門前が立ちはだかっている。

 門番にはおおよそ、通行証など見せてる気配はない。

 そのまま素通りしてる連中が多かった。

 優騎も街を出ることにした。

 そもそも、資金稼ぎのためだ。

 それに、金を稼いだあとも町を出るのだから変わりはない。

 境界線の門を潜ろうとしたところで――


「おい、そこのお前ちょっと止まれ」


 びくりとなって足を止める。

 一体何ごとか。

 自分の身のこなしに何も悪い点はない気がした。

 門番の男が険しい顔つきでにじり寄ってくる。

 そのまま腰に手を伸ばし――


「ホルスターがずれかけてる。しっかりしておけ」


 温厚そうな表情で優しく告げてくれた。


「あ、ありがとう」


 ヒヤッとさせんなよとか思いながら優騎は出ようとしたところでチャンスだと考えた。


「な、なあ」

「なんだ?」

「バルハ遺跡に行きたいんだけどここからどう行けばいいんだ?」

「バルハ遺跡? あんなところに何しに行くんだ?」

「依頼だよ」

「傭兵の仕事か」


 そう聞いたあと、彼の表情は冷ややかになって変わり毒づきつつ告げた。


「このまま北東へまっすぐ2000キロだ。馬かなんか使わんとたどり着けんぞ」

「2、2千っ!?」

 

そんな距離があるとは思いもよらなかった。


「どうかしたか?」

「あ、いや。サンキュー」

「さんきゅー?」


 門番が首をかしげながらこちらを伺ってるのを感じながらゆっくりした歩調で通り抜けた。

 ついにローズ大国を抜ける。

 ――――しばし、歩き続けること数十分。

 足は疲れ、背後を振り返る。

 さすがにもう、ローズ大国は小さくなっていた。

 それでも、国を囲う境界線の門がまだ、近くに感じる。


「ローズ大国、かなりデカかかったんだな」


 草原を踏みしめ光景を見入りながら山を上っていく。

 頂上付近からはなだらかな道へと変わっていく。


「このまま、北東か」


 地平線の彼方が見えはしない。

 あたり一面緑しか見えん。


「くはぁー」


 変な言葉がつい口からこぼれ落ちる。

 この光景は暮らしていたあの東京では拝めない。


「まあ、こういう景色ってのは落ち着くな」


 少々、感慨にふけ込む。

 そよ風が心地よい。

 しばらく歩いてると後方から「ぱからぱから」と騒々しい音が聞こえ振り返る。

 馬車だ。

 『KNIGHTOFSEVENS』でも見た荷馬車である。

 その手綱を引いた、ハゲ頭の渋い優しい顔をしているボロい短パンにシャツのおっさんがこちらを見て聞いてくる。


「おい、あんた何処まで行くつもりだい?」


 おっさんがこちらを気にかけ声をかけてくる。

 優騎は険しい目つきで睨みつけ「なんか用かよ」という。


「いや、何処まで行くのか気になったもんでさ。この先は何もないぞ。ずっと草原ばっかしの山道さ。どうやら、あんた見たところ武器しかもちゃいないし食料や水が見当たらないからどうするのかと思ってさ」

 

 確かにそう言われてみればそうである。

 この先、食料や水をどうすればよかったのだろう。


「考えてなかったな」

「考えてなかった? アハハ! 面白い冗談だなぁ、あんた」

「冗談ではない」

「まぁ、それはいいとしてもし食料や水に困ってんならどうだい?」


 そういいながら後ろを指さした。

 白い布被った荷台を指してるようだった。


「今なら安くしとくよ」

「いや、金がないんだ」

「ん? あはは、そりゃぁ冗談だろ。いくら今のご時世無職はいねえさ」

「いや、マジだ」


 優騎の顔を見たおっさんは本当だと気づいたように哀れむような目線を向けた。


「まさか、野党に襲われたんかい。そりゃぁ、苦労してんさ」

「あ、いや、野党だとかじゃなくって道に迷ったというか」

「いわんでいい、いわんでいい。ほれ」

 

 そう言って、荷台からおっさんは一つの袋にごっそりなにかいろいろ詰め込み優騎へ押し付けた。


「食料に水筒が入ってる。持ってきな」

「お、おいこれは悪いっていうか‥‥」

「いいってのいいっての。今のご時世協力は重要さね。見たところどっかに向かう途中なんだろ? なんだったらのせてくがどうだい?」


 なんとも気遣いがよくって優しいおっさんである。

 優騎は感謝に感謝でどういう表情をしたらいいか困惑する。

 ここまで優しくされたのは生まれた人生で初だった。

 おもわず何だがこぼれた。


「どうしたのさね?」

「ああ、いや。優しくされたのはじめてで」

「苦労したんさな。遠慮せずのれ。途中まで乗せてったる」


 優騎はおっさんの厚意に甘えることとなった。

 その時ばかり優騎は人生で初めて神を信じたし感謝した。



*******


 世界で1、2を争うほどの大国家、ローズ大国。その拠点となる王城内部では慌ただしく騎士や士官などが翻弄され行き回っていた。

 それもそのはず、ローズ大国領土の一部である土地がモンスターの襲撃を受けていた。しかも、内部では新人騎士の規約違反による脱走事件などと2重の事件が重なりてんやわんやの状態。

 これには皆がキモを冷やしながら王女の様子をうかがい、仕事をそつなくこなしていく。


「でますわ」

「お、王女殿下! お待ちください! 我が軍勢はもう数に限りがあります! このような状態でたかが一人の騎士のために出立など危険であります! 城は誰が守るのですか!」

「それはメイド隊に任せますわ」

「し、しかし――」

「いいですわよね? ユー?」


 アリシアとローズ王女だけがいたはずの王座の間に気配を殺して侵入してきたものがただ一人いた。アリシアでさえ気づかないほどの存在。アリシアにはその唯一の人物にはしっかり心当たりはある上に身近な人物だ。


「ユークリア、お前いつからいたのです?」

「姉さまが王女殿下と話してる時からずっと」

「最初からか」


 ユークリアは変わらずの表情を浮かべ王女殿下に拝顔奉った。

 騎士のすわりに移行するメイド。特に王座の間に通常ならばメイドを通すなどあってはないことだったがローズ大国にとってメイドは貴重な存在だった。


「メイド隊に王城の守衛を任せますわ。頼みますわよ?」

「喜んで任されましょう」

「ユークリア!」


 妹である彼女の実力を知ってなお姉としては不安だった。彼女の指揮するメイド隊――暗殺を主とした軍勢のみでこの王城の守衛など厳しい。

 アリシアは断固反対の意志をもって王女のご尊顔をうかがい知る。


「くっ! 正気なのですか? それほどまでにあのキジョウユウキという男が気になりますかっ!」


 なんとも気に食わなかった。ローズ大国という大きな国を統治する偉大な彼女の心を占めるどこの馬の骨とも知れぬ存在。

 馬鹿で愚鈍、ムスフという聖騎士最弱の男に負ける彼。


「私の結論に文句は許しませんわよ、アリシア。さあ、行きますわよ」

 


 王女が立ち上がり、アリシアも渋々同行を決意し、彼の足跡をたどる出立行う際立った。

 王座の間に一人の青年、この国の士官が入ってきた。


「お、王女殿下! 無礼な入室お許しください。速達の伝聞がございまして御拝顔奉りました」

「話しなさい」

「先ほど、聖騎士、サクヤ・イカヤ第2聖騎士団長が消息を絶たれたようです!」

「なんだと?」


 ここにきて新たな事件が舞い込んだ。


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