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翌日の午後。
「…もも、しんどいの…。」
体育の授業中、桃は体育館の隅に座り込んでしまった。
即座にびとーは人間サイズになり、
今正に通りかかった、という振りで廊下から走ってくる。
「桃ちゃん、大丈夫か?」
同じように駆けつけた担任の福本 清美教師も、桃の側にしゃがんで、顔を覗き込み、額に手を当てた。
「お昼までは元気で、給食もおかわりしたんですが、急に体調が悪くなったみたいで…。」
知っている。炎の精も山盛りのおかわりを平らげる桃を、誰よりも間近で見ていた。
「じゃあ、俺が桃ちゃんを保健室に連れて行きますから、
先生はそのまま授業をなさっていて下さい。」
ひょいっと簡単に桃を抱き上げて、びとーが言う。
「美透さん、助かります。お願いします。」
コロコロした体型の桃を、福本教師が抱えるのには無理がある。
それに、他の子供達もいる。その中には目が離せない児童もいるのだ。
それで、福本教師はあっさりびとーに桃を預けた。その時
『本当に理事長先生のお兄さまって美しい男性だわ。
背も高いし、桃ちゃんをお姫様抱っこできるくらい力も強いし。
目の保養をさせてもらったわ!』
と思ったことは秘密である。
保健室で桃は、保健医から渡された市販の風邪薬を飲んだ。
子供によっては、何かの発作を持っていて薬を常用している場合がある。
その時は飲み合わせで重篤な事態を招くことになりかねない。
だが桃は単にダウン症というだけで、薬を常用してはいない為、
市販のものを飲んでも問題は無かった。
「…りぢちょーせんせーの、おへやがいい。」
桃が呟く。
「桃ちゃん。理事長先生はお仕事なさっていらっしゃるから…。」
と保険医が言ったが、びとーとしてもここで神経を遣いながらいるよりは、
理事長室に行った方が気が楽だ。
「大丈夫ですよ。連れて行って俺が見ていますから。」
理事長の兄であるびとーに言われては、保険医も引き下がるしかない。
「…もし様子がおかしくなるようでしたら…。」
言いかける保険医に
「判っています。すぐここに連れてきます。」
と桃を軽々と抱きかかえた。
びとーの姿が扉の向こうに消えると、保険医は
『美透様って、本当、お美しいわ。毎日学校にいらして下さったら良いのに。
ああ、私も桃ちゃんみたいにお姫様抱っこされてみたいっ!』
と考えた。これも内緒である。
「桃ちゃん、大丈夫かな?」
顔を覗き込む光輝に、びとーは頷いた。
「食欲はあったし、熱もさほど高くなかったからな。そんなに酷い状態じゃないだろう。」
桃はぴーぴーと寝息を立てながら眠っている。
横になると息苦しくなるのか、びとーの胸にしがみつくように抱っこされた状態だ。
「で、どうするの?このまま連れて帰る?」
尋ねる光輝に、びとーは首を振った。
「桃の荷物もあるしな、檸檬が来るまでここで待つさ。」
「そうですね。それが良いと思います。
桃ちゃんも薬が効いたのかよく眠ってますし、今起こしたら可哀想ですよ。」
玲も同意した。