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 夜になり、いつものように呑みに来てもまだ、びとーは納得できていないようだった。

「…条件。条件なぁ…。」

「まだ悩んでいるのかい?」

 光輝が問い掛けると、炎の精は頷いた。

「あれからも檸檬と話したんだけどな、

例えば檸檬が光輝をどう思うかというと、常識があって、責任感も強くて、

仕事に一生懸命で、学校の子供達も大切にして、

自分にも心を傾けてくれる深い愛情の持ち主だから、良い男だと考えるっていうんだ。

で、それは俺もそう思う。」

「うん。」

「だが、女は何でそこに満足できないんだ?性格や資質より優先される条件って何だ?」

 びとーの呟きを聞いた瑞輝まで呆れた表情を浮かべる。

「精霊は違うかもしれないが、人間の女ってのは、結婚っていうと生活と結びつけるんだ。それに見栄も張りたい。だからより良い条件の男を探す。」

「で、光輝はそういった条件ってヤツが良いって訳か?」

 びとーに問われて、瑞輝がニカッと笑った。

「おお。最高に良いぜよ。まず、この学校の理事長だ。

土地と建物の名義は俺達二人になっているが、名義まで見えない女達は、

これだけの広い敷地と特別な建物が光輝一人の物だと思うかもしれない。

それにもし光輝一人の物じゃなくても、権利の一部は持っているだろうと考える。

授業料とかそういう安定した収入も見込める。

自分は遊んで暮らせるだろうと勘違いしたっておかしくない。

それにもう親父もお袋もいないからな、うるさい年寄りにヘコヘコしなくて済む。

トドメは光輝が変質的でもなければ見るに耐えない不細工でもない、

若くて良い男だってことだ。」

「自分も同じような顔をしているからって、良い男を強調すんなよ。」

 びとーは苦笑した。

「で、フェル、じゃなかった、びとー兄さんは、何でそんなことが異常に気になってる訳?」

 雷の精が尋ねる。

「んー。光輝が本当に良いヤツだからかな。

だから、その本質を見もしないで手に入れようとする、女の神経が判らねぇ。

馬鹿にしてんのか、って怒りたくなるぜ。」

「女は基本的に、良い男には条件を、危ない男には熱情を求める生き物なのよ。」

 紅一点の水の精霊が言う。

「だが、びとーでさえ納得できかねることをあっさりと受け流してる檸檬は、

現実的というか、醒めてるというか…。ある意味、びとーより大人だな。

やっぱり桃ちゃんみたいな妹がいると、早く大人にならざるを得ないのか?」

「それってつまり、檸檬くんが桃ちゃんのことも大切にしてくれるか、

自分と一緒に桃ちゃんを見守ってくれるかっていう基準で見定めるから、

女の子に対してシビアになるって意味かい?」

 瑞輝は、尋ねる光輝に頷く。そんな瑞輝の懸念を玲が即座に否定した。

「多分違うと思います。桃ちゃんが大好き過ぎるきらいはありますが、

桃ちゃんの前にいる檸檬くんは、妹思いの普通の中学生という感じですし、

桃ちゃんとの将来を軸にして、厳しい考察をするようになった訳ではないでしょう。

それよりは、あんなに整った容貌で、頭も良くて、運動神経も良いからこそ、

そういった部分だけ見て近付いてくる女の子が絶えなくて、

苦労しているんじゃないでしょうか?」

「確かにあの子、今は美味しそうな素材よね。

だけどそのうち、食えない男になりそうだわ。」

「どうしてそう思います?」

 風の精に問われて、水の精が大きくため息をついた。

「側にどこぞの精霊のようなくだらない男がいるからよ。」

 その言葉を聞きつけて、びとーが片方の眉を上げた。

「何か言ったか?クソ女。」

「誰がクソ女よ!」

「ここには女は一人しかいねぇと思ったが…。もしかして、一人もいなかったか?」

「なんですってーっ!」

 口喧嘩を始める精霊達を無視して、男達は話し続ける。

「なるほど。それで女性に対してつい辛口な採点をしてしまうんだな。」

「と、思います。」

「確かに中学生の今から、

桃ちゃんの一生を背負うという視点でしか未来が見えないっていうのも重い話だしね。

玲さんの言うように、自分の経験に裏打ちされている方がまだ良いね。」

「まぁ、檸檬くんのことですから、将来のことを全く考えていない訳ではないでしょうが、女の子関係に関しては、今はまだ、そこまで深くは意識していないと思います。」

 その時、喧嘩をしていた筈のびとーが、ニヤリと笑って口を挟んだ。

「そんな檸檬に聞いてみた。もし檸檬が付き合うとしたら、どんな相手かって。」

 途端に光輝も瑞輝も玲さえも、ずいっとびとーに詰め寄った。

「どんな子っ?!」

 三人の勢いに、炎の精霊は少し逃げ腰になって、のけぞりつつ答えた。

「好みだとかこんな子だとかって条件で人を好きになりなくないってさ。」

「そうか。」

と、三人はうんうん頷いている。

「だがな、もし桃と自分とどっちが大切かと聞かれて即答できない相手ができたら、

その子とは付き合うかもしれないって言っていたぞ。」

 玲がため息をついた。

「厳しいですね。」

「厳しいのか?」

 問いかける炎の精に、玲は静かな眼差しを向ける。

「檸檬くんは、桃ちゃんの為なら、危険を冒すことも躊躇しない訳ですからね。

それだけの想いを自分にも向けさせるというのは、並大抵のことでは無理でしょう。」

 桃を危険に晒した為に、檸檬の策略に踊らされ、

全てを失った過去がある玲が言うのだから、重みが違う。

とはいえ、玲は今の生活の方が遙かに幸せだと感じているのだが。

 玲に言われてもあまりよく判らず、びとーは眉をひそめた。そんなびとーに瑞輝も言う。

「大体なぁ、桃ちゃんは生まれて約十年、檸檬の一番近くにいるんだぜ?

後から現れる女の子は、距離でも時間でも負けている自分の方を、

桃ちゃんよりも好きになってもらいたいって思う訳だろ?

あれだけ桃ちゃんにでれんでれんの檸檬相手にさ。無謀と言っても良いくらいだよな。」

 そう言われてびとーも納得したように頷いた。そこに光輝が口を挟む。

「それにたとえ檸檬くんに認められるようになることができても、

桃ちゃんに『もも、このひと、きらーい!』なんて言われようものなら、

その時点で檸檬くんから『別れよう』ってスパッと切られちゃいそうだよね。」

 今度は発言者の光輝を除く三人がうんうんと頷いた。更に玲が続ける。

「かといって、桃ちゃんにしてみれば、

自分の大好きなお兄ちゃんを横取りするような女は、誰であろうと嫌いでしょうし。」

 全くその通りなので、男達は、他人事ながら、

まだ見ぬその女の子に大いに同情せざるを得なかった。



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