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数日後。由美子は学校に現れた。事務局にいたびとーが、彼女を理事長室へ案内する。
理事長室に招き入れられた由美子は緊張した面持ちで頭を下げた。
「よく来て下さいましたね。」
笑顔を浮かべる光輝に、少し微笑んで言う。
「さっきの方、凄く綺麗な男性ですね。」
「僕の兄です。」
「…そういえば、双子のお兄さまがいらっしゃると…。でも双子にしてはあまり…。」
もじもじと話す由美子に、光輝は瞳を伏せた。
「ええ。双子の兄はおりますが、彼は違います。二歳上の腹違いの兄です。」
「…ごめん、なさい。」
狼狽えて謝る由美子に、光輝は首を振った。
「いえ。実は最近まで僕も彼のことは知らなかったのです。
ですが、実際に会うと凄く人間性に優れていて、今では僕にとって自慢の存在です。
それで、学校の仕事も手伝ってもらうことにしました。」
「そう…なんですか…。」
困っているような由美子に、もう一度光輝は笑顔を見せた。
「少し学校を案内しましょう。」
廊下を出ると、遠くから音楽が聞こえてくる。同時に子供達のはしゃぐような声も。
まだ一時間目の為、大体育館で小学生が体力作りの為の運動をしているのだ。
光輝が由美子を連れて大体育館に行くと、桃が走ってきた。また腰の辺りに抱きつく。
「りぢちょーせんせーっ!」
「桃ちゃん、頑張っているかい?」
光輝が尋ねると、桃は光輝の腕を引っ張った。
「あのね、あのね、なんかあきらくん、ヘンなんだよ?!」
桃に引っ張られる光輝の後ろに付いていく由美子。
見ると、線が細く顔立ちの良い男の子が直立している。
彼があきらくんなんだろう、と思っていると、光輝が呟いた。
「まずい。」
見る間にその少年は身体を強張らせ、ぶるぶると震えだした。
色白だった顔は段々紫に、そのうちそれを越えてドス黒くなり、
眼球が飛び出しそうなくらいに見開かれている。
そして、硬直したような状態のまま、真っ直ぐ後ろに倒れ掛けた。
光輝が上手く抱き留め、側にいた女性教師に叫ぶ。
「福本先生、救急車を!ご家族にも連絡して!」
「はい!」
答えて女性教師も走り出す。
少年は光輝の腕の中で時々大きくびくんびくんと身体をしならせながら、
唸るような声を出している。
そんな緊迫した状態の中、為す術もなく、由美子は震えながら立っていた。
それに気付いた光輝は、明を抱き留めたままの状態で言った。
「由美子さん、申し訳ありません。僕はこの子と病院に行きます。
また改めてご連絡しますから。」
こんな状況でどうすれば良いのか判らない由美子は、言葉にならず、
ただコクコクと頷いた。
そして光輝が少年と一緒に救急車に消えるのを見送って、静かに学校を後にした。
夜になって、光輝は由美子に謝罪の電話を入れた。
そして、明日もう一度会いたいという由美子の願いを受け入れて、電話を切った。