表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

<14>

<14>


 桃が眠った後、檸檬と香恋は檸檬の部屋に戻る。

勉強していた檸檬の傍らに香恋が座った。

「…香恋。別に俺にはくっついてなくて良いんだよ?

桃も寝たし、理事長先生のところに行ってきたら?」

「ええ。…でも、今日は良いわ。」

 憂いを含む横顔に、檸檬は開いていた参考書を閉じた。

「何かあったの?」

首を振る香恋。

そこに、微かなノックがあって、びとーが入ってきた。

「びとーもお疲れさま。理事長先生のところに行くの?」

「香恋は行かないのか?」

「今日はやめておくわ。」

 びとーは眉をひそめた。

「何かあったのか?」

「俺とおんなじこと聞くね。」

 檸檬がちょっと笑う。

「…私が光輝のところに行かないのが、そんなにおかしい?」

「おかしいのは、香恋の様子だよ?」

 檸檬が言った。

「頼りなくても子供でも、一応俺は香恋のマスターだからね、

いつもと違う雰囲気を感じたら、心配だってするよ。」

「…ちょっと、考えてるだけよ。」

「光輝の見合いのことか?」

 香恋は瞳を伏せた。

「人間っておかしいわね。

どうして結婚したくないっていう人にまで、無理矢理、異性と引き合わせるの?

良い男と良い女がいて、お互いに良い人だなって思ったとしても、恋や愛とは違うでしょ?どうしても結婚しなきゃならない理由があるのかしら?」

「この前から何か変だよな。…お前、光輝に惚れてんのか?」

「「はあっ?!」」

 香恋どころか檸檬にまで声を上げられて、炎の精はたじろいだ。

「なっ、何だ?違うのか?」

「俺には何をどう考えたらそうなるのか判らないね。」

「いや、俺の知らないうちに光輝と契約の相談していたり、

この前の晩も妙に親密そうだったからな。」

 首を傾げる香恋。

「親密?何が?」

「光輝と壮が向かい合って座っていて、お前は光輝のすぐ横にくっついていただろう?

壮の横じゃなく。」

 香恋は呆れたような瞳を向けた。

「隣に座っただけで親密なら、私は檸檬とも大恋愛中ってことになるわね。」

 使い魔の言葉に、檸檬もちょっと笑った。

「そうだね。…まぁでも、確かに理事長先生は良い男だよ。

俺が女だったら間違いなく夢中になってるね。

あの器の大きさ、思慮深さ、優しくて温かい人柄も。

もし香恋が理事長先生を好きになったとしても、おかしいとは思わないよ。」

「…もし檸檬が女の子で光輝に恋したりなんかしたら、あらゆる手練手管を駆使して、

光輝を手に入れようとしそうだな。その頭脳をフルに使って。」

 びとーが言うと、香恋が尋ねた。

「光輝と檸檬って幾つ年が離れてるの?」

「檸檬とだったら十八歳か。」

「今は年の差カップルも多いから、射程圏内だと言っても良いわね。

今から大人になるまでに時間も沢山あるし。

けれど、そんな簡単には落ちそうにない気がするわ、光輝は。」

「いやぁ、檸檬はかなり光輝に気に入られているから、判らないぜ?」

「それは男の子だからでしょ。

女の子相手だったら、最初からもっと違った接し方をしていたと思うし、

そもそもこんなに仲良くなってないんじゃないかしら?

おそらく恋愛からは一歩引いた関係になってると思うわ。」

「まぁ、実際には俺は男だから、理事長先生に対して持ってるのは、

将来はあんな男になりたいっていう憧れと尊敬の気持ちだけどさ。

だけど香恋、どうしてそんなに確信ありげなの?」

「だって、言ってみたことがあるもの。」

「何て?」

「私が人間の女だったら、光輝の心が欲しいって思うかもしれないって。」

「で、理事長先生は?」

 香恋は肩をすくめた。

「本気にしてくれなくて、軽くあしらわれちゃったわ。」

「何だか理事長先生らしい気がするね。」

「女性を傷付けないように上手くかわすのが、でしょ?

私もそう思うの。多分、光輝は今、本当に異性に興味が無いの。

だから必要以上に親しくはならないし、邪険にもしない。

そのどちらも相手の心に影響を残しかねないから。」

 びとーが面白くなさそうに言う。

「…そんな話をするってことは、やっぱり親密なんじゃねぇか。」

 その言葉に、檸檬が疑問を持った。

「親密親密って、精霊と人間で恋愛ってできるものなの?」

「できるわよ。」

 檸檬のその問いには香恋も即答する。

「私達精霊も、人型の時は人間と肉体構造は殆ど変わらないの。

だから、びとーのように、身分さえ詐称してしまえば結婚もできるし、

子供だってできるのよ。

ただ、その子供は、人間よりは強くて長寿、精霊よりは弱くて短命。

そして、精霊の使役する力に対する耐性のようなものが、

普通の人間より強固だったりするわ。

それから、人間との子供、そして、違う力を使役する精霊同士の子供は、人型のまま。

私達みたいに水なら水の姿、炎なら炎の姿にはなれない。」

 檸檬は初めて聞く話に目を見開いた。

「そうなの?じゃあたとえば、本当にたとえばだけど、

理事長先生と香恋が結婚したらちゃんと赤ちゃんが生まれて…。」

「その子は水に強い、つまり泳ぐのが得意だったり、

長く潜っていられたりできる子に育つの。

但し、私みたいに水の姿にはなれない。

受け継ぐ力の強さ次第では、少し水の力を操ることはできるかもしれないけれど、

ほんの僅かね。」

「…そうなのか…。だけど、その場合、人間である理事長先生が、

精霊の香恋よりも遙かに早く寿命を迎えることになるよね?」

「そうね。でもそれは仕方がないと思って覚悟するしかないわ。」

 びとーが不機嫌に口を挟む。

「なぁ香恋。光輝に惚れてる訳じゃねぇって言うのなら、

どうして最近、光輝の見合いにそんなにもこだわるんだ?」

 檸檬が悪戯っぽく笑った。

「あんまり探り過ぎない方が良いよ、びとー。

だって女の人には少しくらいの謎があった方が良いじゃない。

そこに男は惹かれるんだからさ。…それとも、香恋の謎は全て知っていたい?」

「馬鹿野郎。」

 一言言ってびとーは檸檬の額を指で弾いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ