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 日曜日はよく晴れていた。

 沖田校長に連れて来られた料亭で、光輝は由美子と会った。

が、いつもの見合いと変わらず、気乗りがしないまま、適当に相手をした後、別れた。

沖田校長の自慢した通り、性格はおとなしそうだが悪くはないようで、

塔に戻ってからもどう断れば良いのか頭を悩ませていた。

 日が暮れて、みんながリビングに集まってきても、光輝はぼんやりしていた。

「光輝。疲れたのか?」

 バーボンを片手に、びとーが話し掛けた。

「うん。疲れた。」

 どんなに疲れていても、その原因が仕事であれば、

光輝が『疲れた』と漏らすことは滅多に無い。

そんな光輝が今夜は躊躇いもせず口にするのだから、

相当神経を使ったのだろうと、びとーも集まった面々も考えた。

 大きく息をついて、光輝は話し出した。

「沖田さんが言っていたように、とても良い方だったよ。

おとなしくて出しゃばることもないし、優しい感じの女性で。

でも、だからこそ、どうすれば良いのか判らないんだよね。

向こうに非は無いし、沖田さんの親戚筋だし、どう断っても失礼になりそうで困る。」

 玲が苦笑した。

「光輝さん、断るという大前提の上で、お見合いをしていますからね。

相手が良い方であればある程、後が大変ですよね。」

「とりあえず、まずは向こうが断ってくるのを待ってみるけど…。」

「光輝さんの条件が目当てなら断ってはこないでしょう?」

「そうだけど…。」

 びとーが口を挟む。

「見合いの時、壮はどうしてたんだ?」

「いつもと同じ。胸ポケットの中だよ。」

「今もいるか?」

 光輝は頷いて、胸ポケットから土の精霊をつまみ出した。

テーブルに胡座をかく壮にびとーが問う。

「壮から見てどうだった?」

「別に。」

「まぁ、我がの嫁候補じゃないから、興味はないのかもしれないけどな…。」

 顔をしかめるびとーに香恋が言った。

「でも、壮が『別に』って言うことは、悪くは無かったってことでしょ?

壮が気に入らなかったら、『別に』くらいじゃ済まないわ。

徹底して排除しようとするでしょ?」

「それもそうだな。…光輝も大変だな。」

 言われた光輝は苦笑する。

「暢気に言うけど、そういうびとーも、

断る前提で見合いをしなきゃいけなくなるんだよ?」

 びとーは青ざめた。

「そういやそうだ。明日から事務局、そのうち見合い…。頭が痛いぜ。」

 何を思うのか、香恋は視線を落とす。ポツリと言った。

「お見合い相手の女性が条件目当てでない人だったら、少し切ないわね。」

 光輝とびとーが水の精を見る。

「女の子が条件だけを見るって言うけど、

そう言う光輝も相手の人柄を見ようとしないまま断る訳でしょ?

いずれお見合いしたら、びとーだって同じよね?

自分を見てもらえないっていうの、女の子にとっても辛いわよ?」

「…光輝はそれを判っている。」

 静かに壮が口を挟んだ。

「だから前に言っていただろう?僕の我が儘だけどって。」

 壮に言われて、水の精は瞳を伏せた。

「…そうだったわね。ごめんなさい…。」

 光輝は薄く微笑んだ。

「いや。…女性の人柄を見て良い人だったら、情が出てきて断るのも辛くなってね。

それで、あまり意識に入れないようにしてきたんだけど。

…でも香恋の言うことも一理あるね。

良い機会だから、今回は僕も、なるべく彼女の人柄を見ようとしてみるよ。

勿論、彼女が素敵な女性だったとしても、

今の僕に結婚する意志がないことには変わりないけれど。

でも、確かに彼女を知ろうともしないままで破談にするのは失礼だから。」

 居心地が悪く感じて、びとーは身じろぎした。

いつも喧嘩ばかりしている香恋の、憂いのある様子を初めて見て、

どう反応して良いか判らない。話を変える。

「…そういや、何か今夜は静かだな。」

 光輝は頷いた。

「瑞輝と風雅はヨーロッパに飛んだよ。呪いの宝石がある、とかで。それと。」

 光輝の目配せした先には雷の精がいる。

玲にまとわりつくように。先日の一件以来、妙になついてしまい、

玲が学校にいる時でさえも、姿を消して側にいるくらいだ。

「そうか。マクがいつもみたいに走り回っていないからか。」

 壮が呆れたように言う。

「…契約していないが、それ以上だ。側にいて離れない。」

「大人っぽい玲が子守りしてるみたいで、何だか微笑ましいわね。」

 軽く笑った香恋に、炎の精は少しだけ安堵する。

彼女の様子がいつもと違うと、どう扱って良いのか判らなくなる。

相手がしおらしいと口喧嘩もできない。調子が狂うのだ。

「お前だってそうだろう?桃と一緒にいると、

子供と同じレベルで遊ぶおっかさんにしか見えないぜ?!」

 ニヤリと嗤うと、香恋の目つきがキツくなった。

「誰がおっかさんよ!どこからどう見ても、桃ちゃんのお姉さまでしょ?!」

「いやぁ、見るからに肝っ玉母さんだ。」

「なんですってーっ!」

 また喧嘩になる二人に、光輝は苦笑した。

「仲が良いね。」

「「良くない!!」」

 二人の声が重なった。



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