<12>
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日曜日はよく晴れていた。
沖田校長に連れて来られた料亭で、光輝は由美子と会った。
が、いつもの見合いと変わらず、気乗りがしないまま、適当に相手をした後、別れた。
沖田校長の自慢した通り、性格はおとなしそうだが悪くはないようで、
塔に戻ってからもどう断れば良いのか頭を悩ませていた。
日が暮れて、みんながリビングに集まってきても、光輝はぼんやりしていた。
「光輝。疲れたのか?」
バーボンを片手に、びとーが話し掛けた。
「うん。疲れた。」
どんなに疲れていても、その原因が仕事であれば、
光輝が『疲れた』と漏らすことは滅多に無い。
そんな光輝が今夜は躊躇いもせず口にするのだから、
相当神経を使ったのだろうと、びとーも集まった面々も考えた。
大きく息をついて、光輝は話し出した。
「沖田さんが言っていたように、とても良い方だったよ。
おとなしくて出しゃばることもないし、優しい感じの女性で。
でも、だからこそ、どうすれば良いのか判らないんだよね。
向こうに非は無いし、沖田さんの親戚筋だし、どう断っても失礼になりそうで困る。」
玲が苦笑した。
「光輝さん、断るという大前提の上で、お見合いをしていますからね。
相手が良い方であればある程、後が大変ですよね。」
「とりあえず、まずは向こうが断ってくるのを待ってみるけど…。」
「光輝さんの条件が目当てなら断ってはこないでしょう?」
「そうだけど…。」
びとーが口を挟む。
「見合いの時、壮はどうしてたんだ?」
「いつもと同じ。胸ポケットの中だよ。」
「今もいるか?」
光輝は頷いて、胸ポケットから土の精霊をつまみ出した。
テーブルに胡座をかく壮にびとーが問う。
「壮から見てどうだった?」
「別に。」
「まぁ、我がの嫁候補じゃないから、興味はないのかもしれないけどな…。」
顔をしかめるびとーに香恋が言った。
「でも、壮が『別に』って言うことは、悪くは無かったってことでしょ?
壮が気に入らなかったら、『別に』くらいじゃ済まないわ。
徹底して排除しようとするでしょ?」
「それもそうだな。…光輝も大変だな。」
言われた光輝は苦笑する。
「暢気に言うけど、そういうびとーも、
断る前提で見合いをしなきゃいけなくなるんだよ?」
びとーは青ざめた。
「そういやそうだ。明日から事務局、そのうち見合い…。頭が痛いぜ。」
何を思うのか、香恋は視線を落とす。ポツリと言った。
「お見合い相手の女性が条件目当てでない人だったら、少し切ないわね。」
光輝とびとーが水の精を見る。
「女の子が条件だけを見るって言うけど、
そう言う光輝も相手の人柄を見ようとしないまま断る訳でしょ?
いずれお見合いしたら、びとーだって同じよね?
自分を見てもらえないっていうの、女の子にとっても辛いわよ?」
「…光輝はそれを判っている。」
静かに壮が口を挟んだ。
「だから前に言っていただろう?僕の我が儘だけどって。」
壮に言われて、水の精は瞳を伏せた。
「…そうだったわね。ごめんなさい…。」
光輝は薄く微笑んだ。
「いや。…女性の人柄を見て良い人だったら、情が出てきて断るのも辛くなってね。
それで、あまり意識に入れないようにしてきたんだけど。
…でも香恋の言うことも一理あるね。
良い機会だから、今回は僕も、なるべく彼女の人柄を見ようとしてみるよ。
勿論、彼女が素敵な女性だったとしても、
今の僕に結婚する意志がないことには変わりないけれど。
でも、確かに彼女を知ろうともしないままで破談にするのは失礼だから。」
居心地が悪く感じて、びとーは身じろぎした。
いつも喧嘩ばかりしている香恋の、憂いのある様子を初めて見て、
どう反応して良いか判らない。話を変える。
「…そういや、何か今夜は静かだな。」
光輝は頷いた。
「瑞輝と風雅はヨーロッパに飛んだよ。呪いの宝石がある、とかで。それと。」
光輝の目配せした先には雷の精がいる。
玲にまとわりつくように。先日の一件以来、妙になついてしまい、
玲が学校にいる時でさえも、姿を消して側にいるくらいだ。
「そうか。マクがいつもみたいに走り回っていないからか。」
壮が呆れたように言う。
「…契約していないが、それ以上だ。側にいて離れない。」
「大人っぽい玲が子守りしてるみたいで、何だか微笑ましいわね。」
軽く笑った香恋に、炎の精は少しだけ安堵する。
彼女の様子がいつもと違うと、どう扱って良いのか判らなくなる。
相手がしおらしいと口喧嘩もできない。調子が狂うのだ。
「お前だってそうだろう?桃と一緒にいると、
子供と同じレベルで遊ぶおっかさんにしか見えないぜ?!」
ニヤリと嗤うと、香恋の目つきがキツくなった。
「誰がおっかさんよ!どこからどう見ても、桃ちゃんのお姉さまでしょ?!」
「いやぁ、見るからに肝っ玉母さんだ。」
「なんですってーっ!」
また喧嘩になる二人に、光輝は苦笑した。
「仲が良いね。」
「「良くない!!」」
二人の声が重なった。