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 その日の晩は、大荒れに荒れた。

 檸檬に塔へ行く許しを貰って、香恋もびとーも来ていたが、そのびとーが、ではなく、雷の精が不満を爆発させていた。

「何で、姉さんまで契約しちゃうのさ?!僕だけ仲間はずれ?!ねぇっ!どうなのさ?!」

 困る香恋をフォローするというよりは、面倒は嫌いだという意味で、壮が口を挟む。

「マク。俺の決めたことが気に入らないのか?」

 土の精霊が凄むと、まだ子供である雷の精霊はベソをかいた。

「だったら…。」

 そこで、精霊付きでない唯一の人物に気付いて、爆弾発言をする。

「だったら、僕も玲さんと契約する!」

 オーヴンを覗き込んでいた玲は、顔を上げてニッコリ笑った。

「別に良いですよ。」

 驚く大人達、精霊達を余所に、玲は雷の精を見つめ返した。

「ですが、あなたは今、激情のままに思い付きで言っているだけでしょう?

少し冷静になって、じっくりと考えてみてください。

後から後悔することの無いように。契約はいつだってできるのですから。」

 そして玲は笑顔になる。

「あなたの力はとても素晴らしいものだと思います。

私があなたのその力を委ねるにふさわしい人間かどうか、

あなた自身がちゃんと見極めるまで、結論を延ばしましょう。良いですね。」

「うん。」

 雷の精は素直に頷く。

幼い部分も多く、扱いの難しい雷の精の自尊心を傷つけることなく、

上手く落ち着かせることに成功した玲の手腕に、見ていた者達は、

内心、この二人が契約するのもアリだな、と思った。

 光輝がびとーと香恋を交互に見て問い掛けた。

「桃ちゃんの反応はどうだった?」

 びとーは面白くなさそうに言う。

「…上々だよ。腹立つくらいにな。」

『綺麗なお姉さんは好きですか?』

と聞かれると、この関係者の中ではまず間違いなく、桃が一番好きなのだ。

側に香恋がいてくれることになって、ペッタリくっついて甘えまくりである。

 対する香恋は笑顔である。

「桃ちゃん、可愛いわ。みんなが桃ちゃんにでれでれしてるの、今ならよぉく判る。

良い子よ、凄く。」

「お前の主人は檸檬っ!桃は俺のだっ!」

「その檸檬の願いで桃ちゃんの側にいるのよ?!何か文句ある?!」

 瑞輝が口を挟んだ。

「でも、契約して良かったんじゃねぇの?

桃ちゃんは女の子だから女性が側にいるってこともプラスだろうし、今日は金曜日だから、明日、明後日、明々後日からか、びとーも事務局の仕事をするんだろう?

桃ちゃんと離れなきゃいけない時間も出てくる訳だしな。」

「…そういや、そうだったな。」

「何ですか?まさか忘れていた訳じゃないでしょうね?!」

 風雅にも言われて、びとーは胸を張って頷いた。

「忘れていた。すっかり。」

「お見合いまで控えているのにですか?」

「それを言うなーっ!」

 瑞輝がニタリと笑った。

「香恋。ちょっとばかり色を変えて、

沖田校長に『美透の婚約者ですぅ』って挨拶してきたら良いんじゃねぇ?

一生、恩に着せれるぜ?!」

「変なことを吹き込むな!」

 香恋が反応する前に、びとーが怒る。

瑞輝は天然なだけで何の意図も無いだけに、光輝も苦笑いするしかない。

「だが、俺も被害に遭う前に、また旅に出ようかなぁ~?そろそろ異国の風も恋しいし。」

 ため息をつく瑞輝に、光輝は頷いた。

「うん。行ってくれば?風雅と一緒に。」

 今では塔も毎日賑やかで、たとえ瑞輝が旅に出ても、

光輝の心が静寂に包まれることはもう無い。




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