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R15は保険です。
光輝がややメインです。
(ダウン症の女の子の物語を書きたかった筈なのに、主人公が段々曖昧になってきました………orz)。
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「…え?お見合い、ですか?」
ホクホク顔の沖田校長を前に、光輝は戸惑いを隠せない。
「私の妹の娘で、由美子という。青柳 由美子だ。今、二十六歳だったかな。」
「あの、僕、まだ結婚は…。」
「趣味は、パッチワークとかいったか、あの、針で布っきれをちくちくやるヤツだ。」
「ですから、僕は…。」
「私が言うのも何だが、良い娘だぞ。どこにも嫁にやりたくないくらいにはな。」
光輝が何を言おうとしても、沖田校長は聞いちゃいない。
「再来週の日曜日だ。予定を入れるなよ!判ったな?!」
念を押すだけ押して、校長は扉の向こうに消えた。
「…玲さ~ん…。」
「…情けない声を出されても、私にもどうしようもありません。」
助けを求めてくる光輝に、玲は困ったように言った。
「…壮~…。」
更に、自分の使い魔である土の精霊にも救いを求めるが
「…面倒事を俺に振るな。」
と、胸ポケットに隠れられてしまった。
ここは大宝特別支援学校。身体の不自由な子供や病気の子供達が通う学校である。
校舎は海が見える小高い丘の上にあり、二階建ての煉瓦造りで、
中央部分は塔になっている独創的な建物だ。
見合い話を強要され情けない顔をしているのが、この学校の理事長、大谷 光輝である。そして、光輝の横で困っているのが秘書の間宮 玲、胸ポケットの精霊は壮だ。
三十二という若さで理事長職という重責を担い、日々奮闘する光輝。
理事長としての仕事をこなせるようになるまでは、とこれまで厳しい態度を取っていた、亡き父親の親友でこの学校の校長でもある沖田 重行も、最近は光輝の努力を認め、
父親のような叔父のような態度に軟化しつつある。
その沖田が何故か
「良い嫁を探さねばならん!」
と張り切り始めたのが事の始まりだった。
結婚は、必要だからするというものでもないかもしれないが、
実際問題、光輝は嫁の必要性を感じていない。
というか、結婚する気は今のところ全く無い。
この生活が気に入っているのである。
だからこれまで見合いの話が上がっても、全て断ってきたのだ。
だが、今回の話は相手が沖田の親戚筋である。光輝は本当に困り果てた。
そして秘書の玲もちょっと困っている。
彼は事情があって、光輝のところに居候させて貰っているのである。
光輝が結婚ということになると、住む場所を探すところから始めなければならなくなる。更には、お見合いオジサンになりつつある沖田の熱の入れようを考えると、
光輝がまとまろうが駄目だろうが、
次は一つ年下の自分にお鉢が回ってきそうな不安を感じないではいられない。
「りぢちょーせんせーっ!」
そこに、この学校の小学部四年生の桐島 桃が飛び込んできた。
「はぁ~。」
「りぢちょーせんせー、どしたの?」
ため息をつく光輝を、桃が心配そうに見上げた。
「どっかいたいの?」
気遣ってくれる桃が可愛くて、光輝はその頭をなでなでした。
「ありがとう、桃ちゃん。大丈夫だよ。」
そう言っている側から
「はぁ~。」
とため息をついている。
一緒にやってきた桃の使い魔である炎の精が口を挟んだ。
「本当におかしいな。理事長先生、何があった?」
その言葉に玲がダメ出しをする。
「びとーさん。理事長先生ではなくて、光輝、とお呼びになって下さい。」
実は、使い魔である炎の精が、学校内を人間として歩き回っても不審がられない為に、玲が証拠をでっち上げ、光輝と光輝の双子の兄、瑞輝の、腹違いの兄に仕立て上げたのだ。勿論それは、光輝と瑞輝の父親の親友だった沖田に対してであって、
関係の薄い者達の間では、
びとーが幼い頃大病を患い離れて暮らさざるを得なかったという噂が
まことしやかに流れている。
兄弟でありながら兄が弟を先生と呼ぶのはおかしいのに、言い慣れていないと、
いざという時にそれが出てしまう。
校内ではそれもけじめであると言い訳できるが、どこでどのような状況になるか、
先のことは判らない。
それで念には念をということで、他の者に見えない姿になっていようが、
小さくなっていようが、玲のチェックが入るようになった。
ちなみに主人である桃が付けた名前はびとー。
缶コーヒーの微糖からきているが、桃には殆どの漢字が読めない為、
正式にはびとーということになるだろう。
その名前をそのまま微糖と表記するのも妙なので、
書く場合には美透という漢字を当てることにした。
だが、これまでに書かないといけないような事態になったことは一度も無い。
基本的に、精霊は書類などというものには無縁なのである。
「悪い。なかなか慣れなくてな。…で、一体何があったんだ?」
「見合い話です。」
玲の言葉に、びとーが瞳を見開いて絶句する。
桃が玲に尋ねた。
「ねー、ゼロ。みあいばなしってなぁに?」
「お嫁さんを探しましょうってお話ですよ。」
それを聞いた桃はニッコリ笑った。
「じゃあ、ももがりぢちょーせんせーのおよめさんになってあげるね!」
笑顔の桃が可愛くて、思わず笑顔になる光輝だったが。
「おにいちゃんとびとーのおよめさんになったあとに!」
付け加えられて、ガックリと肩を落とした。
それから少しして、檸檬が桃を迎えに来た。
だが、光輝の見合いの話を聞いても、表情を崩すことはない。
「俺には、今まで理事長先生にそういう話が無かったことの方が不思議なんですけど。
だって理事長先生、モテるでしょ?」
光輝はすんなり頷いた。
「うん。はっきり言ってモテると思う。」
「そりゃ、理事、いや光輝は性格も良いし、モテておかしくないだろうが。」
檸檬がびとーに呆れたような瞳を向ける。
「理事長先生がどんなに良い男か俺だって知ってるよ。
でも今言ってるのはそういう意味じゃなくって、
こんなに条件の良い男を、女はほっとかないだろうって話だよ。」
「はぁ?結婚って、お互いに好き合っている者同士がするんじゃないのか?」
檸檬がため息をついた。
「びとーって意外とロマンチストなんだね。
…あのね、お互いに好き合っている者同士っていうのも全く無い訳じゃないけど、
女の人って打算的だから、惚れた腫れたの半分は、
本人の人となりというよりも持っている条件に、だと思うよ。」
「うん。檸檬くんの言う通りだ。
この年で学校の理事長をやっている訳だからね、
出逢う女性、出逢う女性に見え隠れするよ。玉の輿願望がね。」
まだ理解しかねるびとー。
「条件って何だ?光輝は良いヤツだ。それだけじゃ駄目なのか?」
「それは男同士の友情の上では大切なことなんですが、
相手が女の人でしかも結婚が絡むとなると、重要視されるのは…。」
「まず、条件!」
玲と檸檬に言われ、びとーは首を傾げる。そんな炎の精を光輝は苦笑して見ていた。