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閃光

 南都の家で茶と菓子を食べつつ、縁側に座り二人で雑談をしていると、いつの間にか夜になっていて「夕飯でも食べていきますか」という申し出に乗ることになり更に帰るのは遅くなる。その後ものんびりしているうちに、いつの間にかもう日付が変わる三時間ほど前になってしまっていた。

 「逢架ちゃん、そろそろ帰りなさい。お母さんが心配するよ」

 「……そうね。あまり遅くまで邪魔するのも迷惑だから帰るわ」

 論点を軽くずらすようなその逢架の物言いに少し不満げな色を顔に浮かべた南都だが、特に何かを言うことはなく頷く。

 「じゃあ、おやすみ」

 「おやすみなさい。ごちそうさまでした」

 南都の家を後にし、ゆっくりと自分の家の方へ歩こうとして足を止める。家へ帰るのの最短距離は村を通って行くことだが、夜にはなるべく村を通るのを避けている。一年半ほど前にすこしやらかした、というか脅した内容が内容なので闇に紛れ村を歩いているのを目撃されたら無駄に怯えられることにも厄介な事にもなりかねない。

 村を避けて、迂回していくことに決め方向を変えて歩き出しながらふと思った。

 一年前の、いじめていた少年はまだ自分を怯えているのだろうか。いじめられていた彼は、もういじめを受けてはいないのだろうか。

 知る術は南都に頼る以外は無いと言ってもいいし、そもそも知ろうという気もないのだが、幸せであってくれればいいと願う。

 「私もどうかしてる。南都のせいね」

 自分の思考に気がついて自嘲気味に唇の端を釣り上げた。

 南都のお人よしに当てられて、自分まで〝いい奴〟になってしまいそうな気がする。そもそも脅して置いて幸せもなにもないだろう。南都の言うとおりに――不本意ながら彼の考察は全て的確であったと言ってもいい――たとえ嘘の恐喝だとしても相手からすれば半妖に握られている命なのだから。

 ひゅう、と吹いた風は生暖かい。気持ちいいとも気持ち悪いともいえない妙な感覚を残して消えてゆく。ふと足に何かが当たったが感触から石か何かだと判断した逢架は構わず足を前にだし、途端、銀の光が噴出し彼女の目を眩ました。

 「な、なに?」

 瞬間足元を見るも眩んだ目では何も知覚することはできない。ただ、薄らと筒のようなものからの発光だということが認められる。数瞬の後に光は消えたが、その激しさのせいで逢架の視界の精度は極端に落ちている。妖怪の母が広い視野を持つ鷹に起源をもつ為人ざ間の血と混じってもかなりの視力を有していた逢架ではあるが、今の状態は普通の人間よりも酷いと言って差し支えは無いだろう。

 「……見えな、っ」

ざり、と地面がこすれる音が聞こえた。そして僅かの呼吸音。誰かが、いる。

「女?」

 脳髄に響くような、低い声からして若い男だろう。振り返ってどうにか見ようと努める。恐らく男が居るであろう方向に体を向けたその刹那――、逢架の心臓が高鳴った。

どくどくと激しく脈打ち、そして呼吸が乱れ苦しい。耐えきれずに蹲った逢架に男が驚いたようにたじろぐ気配が伝わったが構っている場合ではない。

「助けて」

そう、辛うじて告げたところで逢架の意識は途絶えた。



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