♯06
開けておいたままの窓から、奇妙な月が見えた。
闇に喰われた残骸のように、細長く 線上になった月だ。
カーテンが棚引く。風が身体の汗を撫でていった。
初夏でも焼けている私の肌は、色白だとは言いがたい。
けれど、暗闇に慣れた目で見てみれば、白く浮かび上がってくるから不思議だ。
……傍らの彼は何処へ行ったのか。
「彼」の肌の色を思い出す。
透き通るほどに色は白く。噎せ返るほどに髪は黒く。
少女のように細い首筋。骨張った関節、それからすっと伸びた腕を。
中性的ではあるが、同質ではない異性の芽が仄見えた。
色素が消え失せてしまった肌と不均等で、今にも、壊してしまいたくなるような。
けれど、被虐の対象になり得るほどの色気を持つ彼は、反して嗜虐的だった。
締め上げて、苦痛に歪めたいと思えば思うほど、彼はその全てを私に返した。
主である私の奥底にあるものを、彼は幾度となく掘り返した。
沈めたものを拾い上げては、具現化して此方に見せた。
希はこれなのかと問いかけた。誰よりも瑣末で不相応なねがいだと嘲笑した。
受け入れてしまったのは、いつからなのだろう。
目を閉じながら、一時前のことも反芻していく。薄れ行く記憶の糸をぼんやりとたどる。
ほんの僅かな月明かりに晒された、病的なまでに色白い肌が 脳裏に浮かぶ。
今日の彼は何か別の事に囚われているようだった。
いつもなら朝方まで私を拘束していたのに、何故今晩に限って、途中で解放したのか。
私は嘲られ苦痛に歪められていたはずだ。葛藤と苦悩に苛まれた痛みなら確かに在る。
蔓延る闇は、深く根付いて剥がれない。受け入れたはずの昏き世界にも、まだ空虚が残っている。
空虚はまだ消えない。完全に闇を受け入れていない。
しかし今私の心に残っているのは痛みではない。清涼感にも達成感にも似た甘美な感情なのだ。
――これは、なに。彼が殖え付けたものなの。それとも私が生んだ『意思』なの。
問い掛けるが、返答は無い。
微睡む意識を感じながら、ずるずると落ちていった。
ふかく、光に蕩けるように。
ふかく、闇に沈むように。
「呼んでいる。 けれど僕とこれとは引き剥がせない。僕はまだ見極めていない。」
果てる時に聞いた 彼の呟きなど忘れて――私は眠る。




