♯no.less“憧憬破綻”
最終幕・場面5
(BGM無。上映用スクリーン有り。場所、空間を指定する背景・小道具無し。)
開幕
スポットライトが舞台中央の床を照らすが、誰も居ない。
間。
舞台袖右から傭兵が登場。スポットライトを追加。
傭兵 俺は作られた機械だ。痛む心、悼む心、笑える心など何もない。
俺をつくった人間はとうに死に、俺に命じた人間もとうに死んだ。
あるのは人を手にかけたこの手だけ、虚無をさまよう体だけ。
『 ノ ゾ ミ は ? 』
(舞台奥のスクリーンに、サブリミナルの映像が映り、一文が表示される。)
傭兵 俺は、完璧な心が欲しい。いたみを分かち合い、人と笑える感情が欲しい。
舞台袖左から青年が登場。スポットライトを追加。
青年 オイラは田舎出の百姓だ。下働きで、大百姓にヘコヘコするしか生きてけねぇ。
せめてオイラに脳みそがあれば、どうしたらうまくやれるか考えられんだ。
自分ひとりで食ってけんだ。
『 ノ ゾ ミ は ? 』
(舞台奥のスクリーンに、サブリミナル映像が映る。)
青年 オイラは脳みそが欲しい。いろいろ考えられて、行動できるアタマが欲しい。
舞台下、観客席から獣人が登場。スポットライト追加。
獣人 ぼくは獣人の一族だ。誇り高き種族の末裔なのに、臆病者と笑われてる。
狩は逃げてばかりで、いつだって怖くて怯えてばかり。
せめてひるまない強さがあれば。ぼくも立ち向かっていける、気がしたんだ。
『 ノ ゾ ミ は ? 』
(舞台奥のスクリーンに、サブリミナル映像が映る。文字がゆっくりしたスピードで点滅。)
獣人 ぼくは勇気が欲しい。一族に恥じない、勇敢になれる力が欲しい。
照明、一旦暗転。
間を置き、スポットライトを中央・右・左・下の順に一斉に当てる。
中央のライトを当てた時、少女が登場している。
後ろ向きに立つ少女が、観客側に振り向く。
少女 私は他所から来た女の子。
此処に来なければ、叔父さんと叔母さんの農場でずっとお手伝いをしていたわ。
でも此処に来なければ、私はきっと解らなかった。大切なものを知らないままだった。
『 ノ ゾ ミ は ? 』
(文字がゆっくり点滅する。)
少女 あなたは何処にも居ないのね。
希を叶えてくれる魔法使いなんて、何処にも居やしないのね。
『ノ』 『ゾ』 『ミ』 『は』 『?』
(断続的に映し出される文字。)
―中略―
スクリーンに映像(音声無)が流れる。
登場人物、科白を言う時に一歩ずつ前へ。
傭兵 そう、傭兵は、叶わぬ夢を見ていた。
青年 青年の言葉は、うわ言に過ぎなかった。
獣人 獣人のねがいはただの憧れ、依存でしかなかった。
少女 少女は満たされた時に戻りたいだけだった。
傭兵 希は妄想。
青年 希は回顧。
獣人 希は憧憬。
少女 破綻するもの。
映像が断続的になり、最後は黒い画面で止まる。
以下、科白時、一人ずつ手を宙に上げる。
傭兵 それでも、存在し続ける限り。
青年 一つの個体である限り。
獣人 醜くても、足掻いている。
少女 わたしたちは、飽くなき希求を、その帰趨を。
全員 望んでいる。
黒い画面をバックに、全員が佇む。
幕
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『憧憬破綻』
都内某公立学校演劇部 生徒作脚本より抜粋