表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

♯03


「こないだ日傘買おうとしたんだけどさー、変なデザインのしか売ってなくてー」


 意味のない会話が長く続けられるのは、うなずきと微笑みがあるからだ。


「この間のアレはキモかった。一生来んなって」


 どうでもいい話が打ち切られないのは、その頷きと微笑みに話し手が安心するからだ。


「全然テスト勉してないー。もー超ヤバいかも」


 一様に頷いて、一様に返して、一様に次を促す。適当に意見を言う。


 結局は同意しか望まない意見を求められて、冗長な話を膨らませる。


「なんかさ、こういう時 もうひとりの自分が居たらいいなとか思うんだよねー」

「出たー乙女チック発言。そんなコト言ってっとオトコにヒかれるよ?」

「違うって! ほら都市伝説でもよくあるじゃん」


 この頃の私は、本当にどうかしている。


 怯えているのだ。漠然としか浮かばなかった考えが、判然とし始めたから。

 恐れていたはずが、今はあるひとつの答えを求めている。

 ――もし、ここであれを口にしてしまえば、どうなるのか。

 既に知っている。きっと周りの調和は瓦解がかいするだろう。空気が白々しいものに変わってしまうだろう。

 無意味で、無味乾燥で、無駄な時間だと知らしめてしまうのだ。


「なんていうんだっけあれ、『ドッペル……、」


 それなのに私は、いつまで自分を抑えていることが出来るのか、不安になって仕方ない。

 そそのかされたあの日、「彼」は、興味深いものを捕らえるのは理にかなうとささやいた。

 私たちが言うところの此れが『意志』だと。あるいは深淵しんえん回帰かいきさせようとする『意思』なのだと。 

 ふと考えてしまう。

 彼の意志は、私を破滅へ導く為だけに生まれたものだろうか。

 あるいは、私がそう望んだから出てきた意思なのだろうか。

 ――結局、これは誰の身体で誰の思考なのだろうか。


「そういえばさ、最近ここら辺で行方不明者が多くなってるのって知ってる?」


 せいぜい足掻あがいて見せろ、理性が何処まで保つのか、とわらい声はこだまする。

 そうして彼は私をえぐり、どこまでも貫き、非情な言葉を浴びせ続ける。


「行方不明になった日と、見つかった死体との時間がかみ合わない事件が多いんだって」

「それ聞いた! その日は一緒に仕事してました、とかコワい証言あるやつでしょ」

「え、じゃあ 死んでるのに自分がもう一人居たってこと?」

「そうそう、かわりにテスト受けてくれてたりしてね」

「あはは それいい!」


 笑うたび、しずかに、神経が削られていく。

 しずかに。

 しずかに。


「だからさぁ、ひょっとしたらもう まわりの誰かもドッペルゲンガーってヤツに、……」


 どこかで、線が切れていく。

 ぷつりと。

 途切れて。


 笑えなくなる、気がしていく。


「――ねぇ、そういえばその首筋くびの傷はどうしたの?」


 

 世界よ、これ以上私を失望させないで。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ