表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

♯02

 私はずっと、声を聞いていた。いや、聞かされていた。

 ――何処に居る?


 その声はずっと前から、身体の奥側から響いてきていた。

 ――どこに、いる?


 「彼」は何処に居る?



 ディグノシス ♯02



 ちりとける感情を覚えたのは、いつだっただろう。

 顔では笑っているのに、どこかがきしんで痛くなる。身体がび付いて鈍くなる。 

 そして必ず声がしてくる。――「彼」の声が。

「無駄な、時間だ。」

 例えば友達と話をしているとき、「彼」はそばわらっていた。他人にとって意味のない話でも、だらだらと並べるだけの話でも、私はうまくやろうとしていたつもりだったのに。

「実に、空虚くうきょで、無意味で、無味乾燥むみかんそうな、日々だろう。」

 聞こえない振りをしていた。

 誰かから告白された時も、先生からいわれの無い事についてとがめられた時も、その声は響いていた。

 誰かに微笑み返した時も、泣くのを必死にこらえて言い返そうとした時も、確かに響いていた。

「周りがひどく愚かしいものに見えはしないか。つくり笑いをして、別個体に合わせて満足か。」

 内側から響いてくる声を、必死に殺そうとした。 

 声に応えてしまった私は、どうなる? 自分自身で居られるだろうか?

 応えてはいけない。予感めいたものが何処かに有ったのに。

 ベッドで一人震えているときに、真上からまた声が聞こえて――私は思わず、叫んでしまっていたのだ。

「だがその憎悪と衝動はあんたには隠せない。うみは広がりきって、此方側へと出ようとしている。」

 ぞわりと、身体に鳥肌が立った。背中に冷たいものが走って、どうしようもなくなった。

 シーツを固く握り、ある箇所へ導く。ユビの泥濘ぬかるみひたる。

 声を聞いてはいけない。返事をしては、いけない。

 目の焦点がかなくなった。暗闇がさらにぼやけていったのは、ひとみが潤んだからか。それとも、意識が飛ぼうとしていたからか。

「僕はあんたが呼び起こした。あんたがはらみ温め育てたのが僕だ。そうだ、あんたは。」

 ――ずっと探していたんだろう。僕を。

 解りきった問いだと思った。

 私は知っていたから。ずっと探していたから。「彼」の声を、存在を。

「手を伸ばせ。振り返って僕の名を呼べ。」

 

 あなたの名は。私のどす黒いものが目覚めさせた、『名乗る価値もないもの』。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ