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1-1;春の目覚め
成実はその日家に帰ると、いつものように玄関の鍵で、ドアを開けると同時に、一応「ただいま」と、声に出して言った。
普段なら伯父や母、或いは祖母は仕事に出ていて、叔父も大学へ行っているはずが、2学期の終業式だった今日は、昼給食も無かったので、同じ学校の2学年下の弟・耕助は、もう帰っているだろうと思ったのに、家の中に全く人の気配は無く、誰かがお帰りと言う返事も聞こえなかった。
成実は後ろ手に鍵を閉めると、家の中へ上がって行ったが、リビングには誰かが何かを食べた様子はなく、シンクに洗い物も無かった。
(耕助、まだ帰っていないのかな?)と考えながら、リビングの隣りの和室に入って見ると、部屋の中央に置かれた炬燵から、叔父の穣が上半身を出して眠っていた。
その罪の無さそうな寝顔を見ていると、起こすのが悪いというよりは、自分でも何と表現して良いか判らない、妙な感情が胸にモヤモヤと湧いて来て、しばらくは突っ立ったまま、ランドセルも背負ったまま、穣の寝顔を見下ろしていた。
それから数秒か数分経つと、穣は薄く目を開け、「ああナルちゃん、お帰り」と、寝ぼけた声で言った。




