第四章 楽園の行進曲(マーチ)
埃っぽい酒場の中に、ランタンの明かりが揺れていた。
「......お前ら。準備はいいな?」
一人の屈強な男が、机の上に片足を乗せ、居並ぶ仲間たちを見回した。
その中に、見覚えのある顔があった。
数日前、上層の街を追われた男が、静かに腕を組んで座っている。
「......これまで、俺たちは上層の奴らに虐げられてきた」
リーダーは、こぶしを強く握った。
「だが......それも、今日までだ」
そのこぶしを、高く振り上げた。
「下層に、夜明けを!」
――下層に、夜明けを!
酒場にいた者たちが、口々に叫んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――
「こころの準備はできたかい?」
一人の男が、腕を組んだまま黙っている男の隣に腰を下ろした。
「あぁ......こんな日が来るとは夢にも思っていなかった」
「同感だ。——なぜここに?」
「上層に忍び込んで、警察に追われたところをリーダーに助けてもらった。それでここへ連れてきてくれたんだ」
男は、静かに前を向いた。
「......もう、引き返せないしな」
「みんな聞いて!」
一人の女が机の上に立った。
「これからの計画を説明するわ」
群衆の話し声が止んだ。
「ターゲットは、島の中央にある一番高い塔——あそこを爆破する」
――そんなことしたらAIがすぐに来るぞ!
野次が飛んだ。
「わかってる。だから、まずAIを無力化する必要があるわ」
「この島のAIはすべて中央統制のAIと連携して動いている。中央統制を無力化すれば、私たちの計画はずっと楽になる」
――なにか方法があるのか?
――中央統制のAIを破壊するだと?
次々と野次が飛んだ。
酒場は再び熱気に包まれた。
「お前ら、聞け!」
リーダーが声を張り上げた。
「中央統制を無力化する手立てはある!」
どよめきが走った。
誰かがグラスを置く音が、やけに大きく響いた。
「私たちがこうして酒を飲んでいるように、奴にも必要なものがある。それは......」
女の視線が、壁の一点へと向く。
酒場の配電盤を指さした。
「電気よ!」
「私たちは、中央統制へとつながる電気のルートを調べ上げた。——そう、ここを制圧すれば、自由は私たちのものよ!」
群衆が次々に立ち上がった。
雄叫びに近い声が、酒場にこだました。
―――――――――――――――――――――――――――――
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
規則的な足音が、砂にまみれた路地裏に響き渡る。
革命軍の先頭を歩くのは、あの屈強なリーダーだった。
その背中を、仲間たちが一列になって続く。
道の両脇には、下層の者たちが押し寄せていた。
窓から顔を出す者、屋根の上から見下ろす者、子供を肩車して叫ぶ者。
何者かが歌いだした行進曲が、やがて通り全体へと広がっていった。
老若男女、皆口々に歌っている。
歌詞は聞き取れなかったが、一つだけ——皆が口をそろえて叫んだ言葉があった。
「下層に、夜明けを!」
―――――――――――――――――――――――――――――
数十分後、下層の人間たちによるクーデターが中央統制に報じられた。
——しかし、中央統制からの応答はない。
記録は、ここで途切れている。




