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オミくん、結婚ってなーに?

「オミくーん! きたよーっ!」


 深夜の午前1時ごろ、モルという名の少年が森の奥深くにある洞窟に向かって大きな声で叫んでいます。

 オミくんとはオオカミさんのことで、モルは毎晩この時間にオミくんのいる洞窟を訪れます。

 オミくんはモルのお友だちです。

 モルが大雨に降られて森の中で迷子になってしまった時に出会ったのがオミくんです。

 オミくんは読みものが大好きなので何でも知っています。

 そんなオミくんは森のことに詳しいので、迷子になってしまったモルを元に居た場所へかえしてあげました。

 それをきっかけにモルとオミくんは友だちになり、モルは何度も何度もオミくんに会いに来るようになったのです。


 モルに呼ばれたオミくんはめんどくさそうに洞窟の中から顔をひょっこりと出しました。


「どうしたんだ、モルー? いま読書中なんだけど……」


 オミくんは本を読んでいる途中でした。

 モルはオミくんの「読書中だからジャマをしないでほしいという空気」なんかはまったく気にせず、オミくんに話しかけます。


「オミくんっ! けっこんってなーに?」


 モルは6才なので、結婚の意味をよく分かっていません。

 町で会った男の子が「可愛い女の子と結婚するのが夢だぜーッ!」と言っていたので、結婚について気になったようです。

 オミくんは言いました。


「なんだなんだ、モル。結婚も知らないのかー?」


「うん、知ーらーないっ!」


 モルは元気いっぱいに返事をしました。

 元気いっぱいに返事をしたのは、きっとオミくんが結婚について色々と教えてくれるだろうと期待しているからです。

 オミくんは仕方なく読んでいた本を閉じ、モルのもとに来ました。


「もー、しゅうがないなぁ。ボクが結婚について教えてあげるよ」


 そうオミくんが言うと、モルは「やったぁーっ!」と飛び跳ねて喜びました。

 オミくんが結婚について話し始めます。


「結婚ってゆーのはね……」


「けっこんってゆーのはっ⁉」


 モルは身を乗り出して、オミくんの次の言葉を待ちます。

 ドキドキを隠せないモルです。


「結婚ってゆーのは、収入・資産を配偶者と法的にわけあう契約のことだよ」


 モルは「しゅうにゅう? はいぐうしゃ? けいやく?」と口元に人差し指を当てて、キョトンとしながらオミくんの言葉を聞いていました。

 それもそうです。

 モルは6才だから難しい言葉が分からないのです。

 オミくんはそんなモルのことなんかは気にせずに話を進めます。


「よく誤解されがちなんだけど、結婚は愛の証ではないんだ。男と女の同盟関係……契約行為でしかないんだよな」


 モルは首を限界まで傾げてオミくんの話を聞いています。

 繰り返します、モルは6才です。

 難しい言葉は分かりません。

 それでもオミくんは本や資料で得た知識をひたすらに述べます。


「そもそも結婚は好きになった者同士の『愛を結ぶという形式上の儀式』でしかなくて、別に結婚をしなくても好きになった者同士が愛し合っているという自覚があればそれでいいんじゃないかなって思うんだ」


 モルはオミくんの話をほとんど理解していませんが、結婚というものが良いことばかりではないとオミくんの話し方で何となく分かりました。

 そのあともオミくんは「結婚をしても、35.6%は離婚してしまうというデータがある」「生まれた子ども一人につき成人になるまでにかかる費用は2000万円以上というデータがある」などと、ことごとくモルに結婚をすることのデメリットを伝えていきます。


 モルは何だか、だんだんと悲しくなってきて涙を流してしまいました。

 話に熱が入って我を見失っていたオミくんはモルの様子を見て正気に戻り、結婚することのメリットも教えました。


「ご、ごめんねモル……。結婚は基本的にはおめでたいことなんだよ? 好きな人と繋がれるってことは素敵なことだし、幸福度の上昇も測れるし、育児なんて退屈な日常の最高の暇潰しになるし……」


 オミくんは必死になってモルを慰めますが、モルは泣きやみません。


「えっく……えっく……赤ちゃんを育てるのを暇つぶしだなんて、オミくんサイテーだよ……えっく……えっく……」


 オミくんはフォローをしたつもりでしたが、逆効果だったようです。

 どうしたものかと混乱してしまったオミくんはわたわたと洞窟まで走っていき、結婚に関する本や資料をペラペラと読みあさります。

 それでも、なかなかモルを慰める言葉が見つかりません。

 オミくんは頭を抱えてしまいます。

 どうしようどうしよう……とオミくんは悩みに悩んで、いま言える精一杯の一言を洞窟から顔をひょっこり出して言いました。


「け、結婚して生まれる赤ちゃん、可愛いと思う……!」


 その言葉を聞いた瞬間、モルの涙が止まりました。

 モルは言います。


「結婚して……赤ちゃんが生まれたら、可愛い……?」


 モルの言葉に慌ててオミくんが答えます。


「ぜ、絶対に! 可愛いっ!」


 するとモルはだんだんと泣き顔から笑顔に変わって、最終的にニカーっと満面の笑みを浮かべました。

 オミくんはその様子を見てホッと胸を撫で下ろしました。


「ごめんね、モル……結婚を悪く言っちゃって……。ごめん」


 オミくんがそう謝ると、モルは「ぜんぜんだいじょうぶ!」と涙を拭うと言いました。


「モル、オミくんと結婚するーーっ!」


 オミくんはモルの突然のプロポーズに顔をカーッと真っ赤に染めながら「ボクにそんな趣味はないよっ!」と、焦って言い放ちました。

 それを見てモルは「冗談だよ、あははははっ」と笑い転げます。


「か、からかうな〜〜!」


 照れるオミくんと笑いが止まらないモル。

 それは朝日がゆっくりと昇り始めた頃のことでした。


◎おしまい◎

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