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第2章 第1話:第一界の異変と知識の無効化


忘却の森への降臨

ワープゲートを抜けたカイトたちの目の前に広がっていたのは、深い霧と濃密な原生林だった。これが、世界の**「歴史データ」を隔離し、外界の干渉から護る第一界『忘却の森』**だ。

森の空気は、これまでいた初期エリアとは明らかに異なっていた。魔力の流れが重く、まるで古い記録媒体がノイズを発しているかのように不規則に脈打っている。


「ここが『忘却の森』……。空気が重いわ。まるで、世界そのものが私たちを拒んでいるみたい」アリアは剣を握りしめ、警戒心を強める。

ルークは、自身の解析デバイスを起動したが、すぐに顔を曇らせた。


「カイトさん、異常です。この森の魔力は、外界の法則とは全く異なる**『ローカルな法則』**に従っています。解析が追いつきません」

カイトは、自分の知識に頼ろうと頭の中で情報を展開した。しかし、次の瞬間、彼は絶望的な事実に直面した。


(嘘だろ……!)


彼の脳内に完璧に展開されていたはずの**『忘却の森』のマップデータや、モンスターの配置情報が、まるで砂嵐**のようにノイズを立て、大部分が無効化されていたのだ。


「カイト、どうしたの?」アリアが異変に気づき尋ねる。

カイトは、レベル1の身体で冷や汗をかきながら、声を絞り出した。


「俺の*知識(マップ)が……通用しない。この森は、俺が持つ『未来のデータ』を、『過去の記録』*とみなし、受け付けようとしていない。この森における俺の知識は、半分以上がデタラメだ」


知識の無力とレベル1の危機

カイトの**「知識絶対」の原則が、最初の試練で崩壊した。彼は、自身が持つ情報が、この世界を修復するための絶対的な鍵**ではないことを痛感した。


「冗談じゃないわ! じゃあ、私たちはどこへ行けばいいの? モンスターの弱点もわからないということ?」アリアは狼狽した。


その時、森の奥から、不気味な獣の唸り声が聞こえた。カイトの知識では**『Lv. 10程度のフォレストウルフ』**が出現するはずの場所だ。


フォレストウルフ(Lv. 10):弱点は火属性、攻撃パターンは定型的、経験値は50。


カイトは咄嗟に、その知識をルークとアリアに伝えた。「フォレストウルフだ! アリア、火属性の魔法剣術で一気に仕留めろ! 動きは定型的だ!」


アリアは、カイトの指示通り、剣に炎のルーンを付与し、唸り声の主が現れるのを待った。

しかし、茂みから現れたのは、カイトの知識とは全く異なる、体毛が鉄のように硬い巨大な狼だった。そのレベルはカイトの持つデータよりも遥かに高いことを示している。


「待て! こいつは**『アイアンハウンド』**だ! データが違う! 弱点は火属性ではない、衝撃だ!」カイトは叫んだが、すでに遅い。


アリアは、カイトの指示に従って炎を纏った剣を振り下ろす。だが、アイアンハウンドはその炎を無視し、逆に鋼の体毛で剣を弾き返した。


ガキン!


アリアの剣が弾き飛ばされ、アイアンハウンドはそのまま、最も弱いカイトをめがけて跳躍した。


「カイト!」アリアの叫び声が響く。

カイトは、レベル1の脆弱な身体で、迫りくる獣の牙を前に、頭の中の膨大なデータを必死に回転させた。


(アイアンハウンド! 物理防御力極大、魔力防御力中。弱点は**『内耳の共鳴点』! 攻撃パターンは、3連続の飛びかかりの後に『地鳴り咆哮』! 咆哮の際に共鳴点が一瞬、魔力で強化される!**)


カイトは、知識が**「未来の予測」としては無効でも、「世界の過去の真実」としては有効であることを瞬時に理解した。この獣は、この忘却の森に過去から隔離されていた真実のデータ**なのだ。


知識を捨て、意志に託す

カイトは、アリアの剣が弾かれるのを見て、自分のレベル1の魔力が込められたルークのブレスレットを操作した。

「ルーク! 地属性のルーンで、俺の**『知識の継承者』**の称号にアクセス! **『地鳴り咆哮』**の共鳴周波数と逆の周波数を計算しろ!」

ルークは、アイアンハウンドの跳躍とカイトの緊急の指示に、極限の集中力で応える。


ルークは、自らの知力Aの計算力を利用し、アイアンハウンドが3回目の飛びかかりから咆哮へ移行する一瞬の隙を狙った。

アイアンハウンドが地面に降り立ち、その肺に空気を溜め込む。咆哮が始まる瞬間、ルークはカイトの魔力を利用し、逆周波数の微弱な地属性魔法を打ち込んだ。


キュイィィン……


微弱な魔法だったが、その周波数はアイアンハウンドの共鳴点を直撃した。咆哮はか細い悲鳴に変わり、鋼の狼はその場でよろめいた。


「アリア! 今だ! 頭部の中央、耳のわずかに後ろ! 衝撃を込めろ!」

アリアは、カイトとルークの連携を信じ、弾かれた剣を拾い上げるや否や、渾身の力を込めた純粋な物理攻撃を、正確に指示された共鳴点に叩き込んだ。


グシャッ!


鋼の狼は、呻き声一つ上げることなく、その場に崩れ落ちた。


最初の成功と次の道標

アリアは、剣を地面に突き立て、荒い息を整えた。


「勝った……。カイト、あなたは本当に……恐ろしいわ」アリアは、自分の剣技ではなく、カイトの知識とルークの知恵の組み合わせが勝因だったことを理解した。


カイトは、レベル1の身体の限界で地面に膝をつきながら、ルークに解析を促した。


「ルーク。この森の法則は、俺の**『未来の知識』を否定する。だが、『世界の真実(過去のデータ)』は有効だ。これは、俺が『知識』**に依存することを禁じられているということだ」


ルークは頷いた。「この世界は、あなたに**『知識を捨て、現地の情報に頼り、意志を持つ者と協力せよ』と試練を与えています。あなたの知識は、もはや絶対的な答え**ではない。ヒントに過ぎません」


カイトは立ち上がった。彼の表情には、知識の喪失による焦燥ではなく、新たな覚悟が宿っていた。


「わかった。俺は、この**『忘却の森』に眠る世界の真実を探る。この森のどこかに、俺の知識にもない『この世界を救うための真の道標』があるはずだ。ルーク、『過去の記録』と強く共鳴する魔力源を探してくれ。アリア、君の直感**を信じろ」


カイトたちは、知識が半分無効化された状態で、世界の**「過去」**と対峙する次の旅へと足を踏み出すのだった。

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