第1話:遊びが生んだ絶対法則
1. 究極の「論理的おもちゃ箱」
現実世界。高層ビルの最上階にある、無機質で白に統一された研究室。床には散乱した無数のプログラミングコードが書かれた紙が散らばっている。
開発者、アダム(カイトに酷似しているが、より無感情)は、天才と呼ばれるにふさわしい知性の光を瞳に宿していた。彼の前には、**『五界の塔』**の世界が立体ホログラムとして展開されている。
「ふむ。意志、論理、時間、破壊。私が組み込んだ四つの基本的な法則は、予定通り**『愛』という究極の矛盾**に収束した」
アダムにとって、あの世界は**「論理的におもちゃ箱」だった。彼は現実世界の法則が持つ矛盾と退屈さに飽き、「最も面白い論理の連鎖」を追求するために、あの世界を創造**したのだ。
2. カイトの創造と「知識」の投入
アダムは、最も重要な法則である**『知識』**を、自身をモデルにしたアバター、カイトに投入した。
「カイト。お前は、私の知識の全てを持つ。だが、『Lv.1』という極限の無力さを初期条件とする。これは、**『知識は、無力な状態から世界を修復できるか?』**という、最も面白い論理的チャレンジだ」
彼は、カイトのLv.1の身体をタップした。
「Lv.99の状態で知識を使っても論理的に自明で面白くない。Lv.1の身体という絶望的な制約があるからこそ、お前の知識は最高の論理的パズルを解くための唯一の鍵となる」
あの世界の全ての法則の不具合、時間巻き戻し、ドミニオンの絶望でさえ、アダムにとっては**「物語を面白くするための論理的なノイズ」**に過ぎなかった。
3. 世界を終わらせる「退屈」というバグ
しかし、アダムの**「遊び心」は、ある致命的な論理によって終焉**を迎えていた。
「世界の法則は、カイトの知識によって修復された。論理的には最高の結末だ。だが……面白くない」
アダムは、ホログラムのカイトを見て、初めての失望を口にした。
「カイトの論理は、『希望』という最も予測可能で退屈な結論に辿り着いた。これでは、私が知りたかった**『未知の論理』**は見つからない」
アダムにとっての究極のバグは、**「世界が論理的に正しく終わってしまうこと」**だった。
4. 開発者の真の孤独と次の実験
アダムは、研究室の壁に大きく書かれた論理式に目を向けた。
『愛 = 論理的矛盾の総和 - 予測可能性』
彼が求めていたのは、**予測不能な『真の愛の法則』**だった。
「カイトは知識を使いこなしたが、私が見たかったのは、知識を完全に手放したカイトの**『非論理的な判断』**だった」
アダムは、ホログラムの世界をシャットダウンし、新しいプロジェクトのコードを起動した。彼の瞳には、新たな法則への渇望が宿っていた。
「現実世界の経済と社会は、『退屈な安定』という最悪の論理バグに侵されている。次の実験の舞台は、『現実』だ。私は、カイトのチート能力が、現実の退屈な法則をどこまで破壊できるか、見てみたい」
アダムは、**『創造の法則』を、「現実世界を面白くするための実験」**として次の段階へと進めるのだった。




