第1章 第6話:ドミニオンの真の動機と世界の二面性
塔の最奥と封印の鍵
カイトたちは、ドミニオンの妨害を排除し、古竜バルギオンの迷宮の最深部に到達した。
そこには、巨大な祭壇があり、祭壇の中央に、世界の不安定な魔力の奔流を抑え込むかのように、「古代の封印」が鎮座していた。カイトの知識によれば、この封印こそが、第一の試練の塔の起動キーであり、世界のデータ崩壊を防ぐ最初の防衛線だった。
ルークは興奮気味に解析結果を伝える。「カイトさん、この封印は、世界の**初期設定**と深く結びついています。これを起動すれば、世界のバグを一時的に抑え込み、次の隔離世界への道が開かれるはずです!」
カイトは、祭壇に向き直り、ルークに指示を出す。
「俺の持つ**『知識の継承者』の称号が、この封印を起動させるための『特殊なパスワード』**だ。ルーク、俺の魔力回路を封印と接続しろ。アリア、何が起こるか分からない。もしもの事があったらサポートを頼む」
ルークはカイトの貧弱なレベル1の魔力と封印を接続する。カイトの頭の中で、**「幻の拡張パック」**に記されていた膨大な起動シーケンスが展開され、魔力に変換されて封印へと流れ込んだ。
ゴオオオッ――!
封印が眩い光を放ち、世界の魔力のノイズが一瞬にして収まった。カイトの知識は、再び世界の法則を掌握した。
ゼオンの憎悪と理念の衝突
封印の起動が完了した瞬間、迷宮全体に響き渡る、冷酷な声が空間を震わせた。
「間に合わなかったか。さすがは開発者の**『お利口なパッチデータ』**だ」
迷宮の天井が、まるで破損した映像データのように裂け、ゼオンが黒いマントを翻して降臨した。彼の瞳は、カイトへの明確な憎悪と、世界全体への軽蔑に満ちている。
「ゼオン!」カイトは警戒しながらも、冷静に問う。「なぜ、お前は世界を破壊しようとする? この世界の住人も、お前と同じように意志を持っている!」
ゼオンはアリアとルークを一瞥し、嘲笑した。「意志だと? 笑わせるな、カイト。お前は何もわかっていない。お前が手を組んだその元NPCたちは、所詮、プレイヤーに利用されるためだけに**『意志のプログラム』を組み込まれたデータ人形**だ」
「違う! アリアも、ルークも、自分の意志でこの世界を守ろうとしている!」
「そうか? では、聞いてみろ」ゼオンは、倒れたまま撤退したカインに言及した。「カインは、プレイヤーに裏切られ、散々利用された挙げ句、**『役割の固定化』というバグに苦しんだ。彼にとって、お前が目指す『世界の修復』は、彼を永遠に『NPCの役割』に閉じ込める『呪い』**に他ならない」
ゼオンの声には、カイトが持つ**「知識」では知り得ない、この世界で生じた「絶望」**の現実が込められていた。
「俺たちがここに来たのは、現実への帰還が目的だ。俺には、現実世界で救わなければならない家族がいる。そのためには、この狂った世界を**『強制ログアウト』させるしかない。お前の『知識』による修復は、俺の帰還を永遠に不可能**にする。だから、お前は俺の敵だ」
ゼオンは、カイトのレベル1のステータスに目を向け、軽蔑したように言った。「Lv. 1のくせに、世界の設計図を知っている。お前は、開発者からの**『使い捨ての鍵』に過ぎない。俺の『裏コード』を使えば、お前の知識も、この世界も、簡単に『初期化』**できる」
開発者の二つの鍵
カイトは、ゼオンの言葉の裏に隠された、彼自身の切実な願いを感じ取った。しかし、彼の行動が世界を破壊に導くことは許されない。
カイト:「お前が持つ『裏コード』は、世界の破壊コードだ。俺が持つ『知識』は、世界の修復コード。なぜ、お前と俺という対極の存在が、同時にこの世界に転移させられたのか、考えたことはないのか?」
ルークがカイトの言葉を補完するように解析結果を提示する。「ゼオン様、カイトさんの言う通りです。あなたの**『裏コード』は、世界のデータコアにアクセスし、強制終了させるためのコード。カイトさんの『知識』は、世界のデータ修復と再起動**のためのコード。まるで……開発者が、**世界を救うための『鍵』**と、**世界を終わらせるための『安全装置』**を、私たち転移者に託したかのようです」
ゼオンは一瞬、顔色を変えた。彼の心の中にある**「家族を救いたい」という願いが、開発者によって「世界の起動エネルギー」**として利用されている可能性。
しかし、ゼオンはすぐにその思考を振り払った。「詭弁だ! どちらにせよ、俺の目的は変わらない。お前たち元NPCが**『意志』を持とうが、この世界が『現実』**になろうが、俺の家族の元に帰れなければ、全ては無意味だ!」
ゼオンは、迷宮の封印に手をかざし、黒いノイズを帯びた魔力を放った。それは、カイトが修復した封印を再び破壊しようとする行為だった。
「させない!」
アリアは、ゼオンの圧倒的な力量差を前にしながらも、一歩も引かなかった。彼女の剣には、迷宮でカインを退けた時よりも強い決意が宿っている。
「データだとか、裏コードだとか、私には関係ない! 私は、カイトの知識ではなく、この世界を守りたいという彼の意志を信じる! そして、私の意志で、この剣を振るう!」
アリアは、カイトの指示を待たず、ゼオンの目の前に飛び込んだ。ゼオンは冷笑し、その攻撃を片手で弾き飛ばす。
「無駄だ。データに組み込まれた**『自己犠牲のプログラム』**め」
しかし、その一瞬の隙が、カイトに時間を与えた。
カイトは、ルークと共に、起動したばかりの封印の魔力を利用し、次の隔離世界へと繋がるワープゲートを緊急起動させた。
「ゼオン、今は撤退する! お前が持つ**『破壊の知識』だけでは、世界の『創造』**はできない!」
ワープゲートが開き、カイト、アリア、ルーク、そして護衛のギルドメンバーは、崩壊しつつある迷宮を後にし、**第一の隔離世界『忘却の森』**へと飛び込んだ。
ゼオンは、カイトたちの撤退を見届け、静かに封印を破壊した。
「逃げたか。だが、お前の旅路は、俺の絶望と憎悪によって、常に妨害されるだろう」
ゼオンは、世界の崩壊をさらに加速させながら、次の隔離世界への道筋を、カイトより先に追うのだった。




