第4章 第1話:感情の迷宮と未知の法則
最後の隔離世界へ
シンを仲間に加え、時間のルーンクリスタルを起動したカイトたちは、世界の時間軸を修復した確かな手応えと共に、最後の隔離世界、**第四界『感情の迷宮』**へとワープした。
そこは、これまでの論理や時間が支配する世界とは全く異なっていた。空間全体が不規則な色彩で脈打ち、喜び、怒り、悲しみ、憎悪といったあらゆる感情のエネルギーが、物理的な霧となって辺りを覆っている。
「これが**『感情の迷宮』……」アリアは息を呑んだ。「空気が重すぎるわ。まるで、世界の全ての絶望**がここに集まっているみたい」
ルークの解析デバイスは、激しくノイズを立てていた。「カイトさん! これまでの隔離世界とは法則が違います! ここでは**『感情』が『物理法則』として機能しています! 憎悪の感情が重力を生み出し、恐怖の感情が幻影**を形作っています!」
知識の矛盾と感情の具現化
カイトの頭の中には、真実の知識と論理の断片、そして時間軸データが統合されている。しかし、彼はこの世界で、全ての知識が無力化される可能性を感じていた。
「この世界は、開発者たちが最も恐れた**『世界の崩壊を生み出した感情のバグ』が隔離された場所だ。俺たちの知識や論理は、感情という非論理的な力**の前では、矛盾として処理される」
シンは、時間術士としての冷徹な目で迷宮を見つめた。「感情とは、最も予測不可能なデータだ。俺の時間術でも、この空間では**『時間の法則』よりも『感情の揺らぎ』**の方が優先される。下手に時間を操れば、感情の暴走を引き起こす」
その時、彼らの足元に、黒い憎悪の霧が集まり始めた。霧は急速に凝縮し、巨大な異形のモンスターへと姿を変えた。そのモンスターの姿は、過去にカイトが倒してきた全てのモンスターの怨念を合わせたような、おぞましい形をしていた。
《具現化:憎悪の集合体(Lv. ?)》
「来るぞ! こいつは、俺たちの過去の行動から生まれた、憎悪のデータだ!」カイトは叫んだ。
ゼオンの最後のメッセージと罠
カイトが戦闘態勢に入るその瞬間、迷宮全体に、ゼオンの声が響き渡った。
「カイト……お前の**『希望の論理』は、見せてもらった。だが、ここは『希望』が最も無力な場所**だ」
ゼオンの声には、以前のような冷酷さだけでなく、深い悲しみが滲んでいた。
「この**『感情の迷宮』こそが、この世界に『時間巻き戻し』というバグを生み出した真の原因だ。この世界の住人が抱えた絶望と憎悪**の集合体が、時間軸を何度も引き戻し、世界を繰り返させた。この憎悪を消去しなければ、お前の修復は無意味に終わる」
そして、ゼオンは最後の罠を告げた。
「俺は今、この迷宮の中心で、『憎悪のコア』の最終破壊コードを起動している。お前が間に合わなければ、この迷宮の全ての感情が世界に解放され、世界は一瞬でデータ崩壊を迎える!」
「ゼオン! 待て!」カイトは叫んだが、ゼオンの声は途切れた。
憎悪の集合体が、咆哮を上げながらカイトたちに襲いかかる。
意志の力と知識の道標
カイトは、この迷宮を突破するための唯一の鍵を悟った。
「ルーク! この迷宮で通用するのは、**『感情』だけだ! 俺たちが持つ『論理』と『知識』を、『意志(感情)』**という形で具現化させる!」
「アリア! あなたの『信念』を、物理的な力に変えろ! その憎悪の集合体の『憎しみ』を、あなたの『希望』で上書きするんだ!」
アリアは頷き、剣に全身の信念の力を込めた。彼女の剣が、純粋な白い光を放ち始める。
「シン! お前の**『時間』の知識を使え! この迷宮の感情の法則を、『未来への希望』という一方向に固定**する手助けをしろ!」
シンは、かつて世界を破壊しようとした時間術士としての力を、今は世界の修復のために使う。彼は、自身の時間の知識を、ルークの論理コードと連携させ、迷宮の不安定な感情の波を、カイトが目指す**「希望の道標」**へと固定し始めた。
カイトは、レベル1の身体に鞭打ち、**「知識」を「意志の増幅器」**として機能させた。
「憎悪の集合体の弱点は、『自己矛盾』だ! アリア、憎悪の集合体のコアは、『憎しみが生まれた最初の瞬間』だ! 希望を込めて、その矛盾の起点を突き抜けろ!」
アリアは、白い光を放つ剣を振りかざし、憎悪の物理法則を打ち破りながら、感情の迷宮の中心、ゼオンが待つ世界の崩壊の真の原因へと突き進んでいくのだった。




