第3章 第4話:時の狭間・最後の決着
時の鎌の残響
カイトたちは、時間軸を修復した後、クロノアの助言に従って第四界へのワープゲートを探していた。しかし、シンが去った後も、時の狭間には彼の**『時間軸破壊コード』**の残滓が、不規則な時間の波となって空間を揺らし続けていた。
「ワープゲートは、この時間の波が最も安定する**『時間の起点』**に現れるはずです。しかし、シンのコードが残っている限り、正確な座標が割り出せません!」
ルークは、解析デバイスのノイズに苦しみながら叫んだ。
その時、空間のノイズが一点に収束し、再びシンが姿を現した。彼は前回の戦闘で深手を負っていたはずだが、その瞳には決意と憎悪が満ちていた。
「カイト……お前は時間巻き戻しの呪いを止めた。だが、俺の絶望は止められない」
シンは、『時の鎌』を失った代わりに、自身の『時間術士』の能力を極限まで圧縮し、自身の存在そのものを**『時間の刃』**に変えようとしていた。
「俺は、ここで過去に戻る。そして、現実への帰還を**『未来の可能性』として確立する! お前たちの修復を、『無かったこと』**にする!」
シンは、カイトのレベル1の身体では感知不可能な速度で、カイトの**「存在の起点」めがけて突進した。これは、カイトの誕生の時間軸を消去し、彼の存在そのものを無かったことにするという、究極の『時間軸消去攻撃』**だった。
知識と論理の強制連鎖
「カイト!」アリアの叫びが響くが、彼女の剣が届くには、あまりにも時間が遅すぎた。
カイトは、迫りくる時間の刃を前に、動かなかった。彼の頭脳は、真実の知識と論理の断片を、**『シンの存在』**に関する全てのデータと照合していた。
(シンは、「現実への帰還」という意志で動いている。その意志が、彼の時間術士としての能力を動かす**『魔力コア』だ! その意志を論理的に否定**すれば、彼の攻撃は停止する!)
カイトは、自身のレベル1の魔力を極限まで圧縮し、シンに直接**『論理コード』**を打ち込んだ。
《カイトの最終論理:『存在価値の再定義』》
「シン! お前が現実へ帰るという意志を否定するわけではない! だが、お前のその攻撃は、お前自身の**『現実への帰還』という未来の可能性**を、論理的に消滅させる!」
カイトは、シンの心に直接語りかけるように、ゼロスの論理を使った。
「お前は、この世界の時間軸を消去しようとしている。しかし、お前の**『現実への帰還』という『未来』は、この世界が存在し、お前がそこから帰還するという『時間の連続性』の上にしか成り立たない! お前の破壊は、お前の願いと論理的に矛盾**している!」
絶望の克服と和解
カイトの**『存在価値の再定義』という論理コードは、シンの「破壊による救済」**という矛盾した思考を直撃した。
ガアアアア……
シンの身体を構成していた時間の刃が激しくノイズを立て、動きが停止した。シンは、自分の攻撃の論理的破綻を突きつけられ、絶望的な表情を浮かべた。
「嘘だ……俺の絶望は……永遠に報われないというのか……! 世界を破壊しなければ、俺は……俺の家族は……!」
シンは崩れ落ちた。カイトは、魔力枯渇で倒れそうになる身体で、シンに手を差し伸べた。
「シン。俺は、お前の現実へ帰りたいという意志を否定しない。俺は知識と論理を持つが、お前と同じように、この世界に囚われた一人の人間だ」
カイトは続けた。「俺たちの目的は、この世界を修復すること。この世界が**『真の現実』として再構築されれば、ゼオンも、お前も、誰もが『データ』ではなく、『意志を持つ存在』として解放される。それが、お前の現実への帰還を論理的に可能**にする、唯一の道だ」
シンは、カイトの目を見て、そこに偽りの知識ではなく、真の希望の光があることを理解した。彼の心に巣食っていた絶望の論理が、カイトの希望の論理に書き換えられた。
「カイト……お前は、俺の絶望を……否定しないのか……」
時間の守護者の道標
シンは、ゼオンへの忠誠を捨て、カイトに協力することを決意した。彼は、自身が持つ時間術士としての知識を、カイトの真実の知識に統合させた。
《知識の継承者:時間軸データ統合完了》
カイトの頭の中の知識は、ついに時間という最後の法則を掌握した。
「ありがとう、シン。お前の力は、必ず現実への扉を開く」
その時、時の狭間の管理者であるクロノアが、彼らの前に静かに姿を現した。
「シン。あなたは、絶望の論理から、希望の論理へと、自らの意志で時間軸を修正した。お前たちの意志は、この世界を修復するに足る」
クロノアは、カイトに**『時間のルーンクリスタル』**を授けた。「シンの力を得た今、このクリスタルを使えば、**第四界『感情の迷宮』**へのワープゲートを開くことができる。そこは、**世界の崩壊を生み出した『感情のバグ』**が隔離された世界だ」
カイトは、クリスタルを受け取り、アリア、ルーク、そして新たに仲間となったシンと顔を見合わせた。
「行くぞ、みんな。最後の隔離世界、『感情の迷宮』へ。ゼオンの最後の罠と、この世界の真の崩壊の原因が、俺たちを待っている!」
四人は、知識と意志と論理、そして時間という世界の全法則を武器に、最後の試練の塔へと向かうのだった。




