第2章 第7話:論理の試練とゼオンの罠
静寂の雪原と論理の法則
ワープゲートを抜け、カイトたちが降り立った**第二界『静寂の雪原』**は、世界のすべての色彩を奪い去ったかのような、純白の極寒世界だった。
森の喧騒とは対照的に、この雪原は絶対的な静寂に包まれていた。風の音さえも遠く、足元の雪を踏む音だけが、不気味に響く。カイトの**「知識の継承者」の称号に上書きされた真実の記録**は、この世界の特性を明確に示していた。
「この雪原は、世界の**『感情』を排除し、『純粋な論理』だけを隔離した世界だ」カイトは、極寒に耐えながらルークとアリアに説明した。「ここで起こる現象はすべて論理的で、矛盾を許さない。俺たちの感情や直感は、この世界では『無効なノイズ』**として処理される」
アリアは、冷たい空気が肌を刺すのを感じた。それ以上に、彼女の**『意志』**の力が、この静寂の中でまるで凍りつくかのように、鈍くなるのを感じていた。
「私の剣の熱が奪われるようだわ……。この静寂は、私の信念まで否定しようとしている」
ルークは解析デバイスが発する微かな音さえも抑え込み、雪原の魔力を解析した。「カイトさんの言う通りです。魔力の流れに感情的な揺らぎが一切ありません。まるで、完全な計算式によって世界が動いているようです」
論理の矛盾と最初の試練
彼らが歩みを進めると、雪原の中央に、何の変哲もない一本の氷の柱が立っていた。カイトの真実の知識は、この柱が第二の試練の塔への最初の門であることを示した。
柱の表面に、ルーン文字が浮かび上がる。それは、この世界の論理を試す問いだった。
問: **『完全な論理』を追求する者が、『矛盾する感情』**を抱いた時、世界はどうなるか?
選択肢:
1.論理が感情を支配し、自由な意思を奪う
2.感情が論理を破壊し、世界の崩壊を招く
3.論理と感情が共存し、新たな現実を創造する。
ルークは即座に解析を始める。「これは、我々が直面している問題そのものだ。NPCである私の覚醒(矛盾する感情)は、世界の論理を乱す。論理的に考えれば、答えは1か2のどちらかです」
カイトは、この問いが感情のない論理によって導き出されたものであることを理解していた。彼の真実の知識は、開発者が意図的に**『真実の記録』から削除したこの問いの正答**を知っていた。
「この問いは、『完全な論理』の視点で作られている。論理的に正しいのは1だ」カイトは冷徹に言った。「論理とは、矛盾を排除すること。感情という**『バグ』が出現すれば、論理はそれを排除し、『意志を失った存在』を作り出す。それが、この世界の『隔離された法則』**だ」
アリアは、その答えに剣士としての意志で反発した。「そんな……それでは、私たち意志を持つ者は、この世界では存在してはいけないということ!? 答えは3よ!」
「違う、アリア」カイトは首を振った。「3は、この世界が目指すべき**『希望の未来』だが、この『静寂の雪原』の隔離された論理の中では、『矛盾した結果』**であり、無効だ。この世界を通過するには、この世界の法則を一時的に受け入れなければならない」
カイトは、「論理が感情を支配し、自由な意志を失う」という1を選択した。
ゼロスの降臨と論理の支配
カイトが1を選択した瞬間、氷の柱から激しい光が放たれた。そして、雪原の静寂を切り裂くように、一人の青年が現れた。彼の瞳は、感情の痕跡が一切なく、完璧な計算のみを映し出している。
青年は、カイトの知識に記された、第二界の管理者、元NPCの賢者ゼロスだった。
「ようこそ、論理を理解する者よ。貴殿の選択は、この世界の隔離された法則において、真である。我は、この**『静寂の雪原』を管理するゼロス**。この世界は、**『感情のバグ』**に汚染されることなく、完全な論理によって維持されている」
ゼロスは、カイトの真実の知識に反応した。「貴殿の頭の中にある**『真実の歴史』データは、この世界の論理的崩壊の可能性を示唆している。我は、貴殿の論理**を認め、次の試練へと導こう」
ゼロスが次の試練への扉を開こうとしたその時、雪原全体が、ゼオンが放った黒いノイズに覆われた。
ゼオンの「感情無効化」トラップ
「ゼロス! 待て!」
雪原の静寂は、ゼオンの冷酷な声によって再び打ち破られた。ゼオンは遠隔で、雪原全体に破壊コードを起動させた。
「カイト! お前の**『知識』は、この世界では通用しても、お前の『意志を持つ仲間』は、ここで無効化**される!」
ゼオンが起動させた破壊コードは、論理の試練そのものを歪ませた。雪原全体に、**『感情無効化フィールド』**が展開され、アリアとルークの体が、鉛のように重くなる。
「くっ……体が……動かない!」アリアは、剣を振るうための意志の力が、徐々に奪われていくのを感じた。
ルークの解析デバイスは、この現象を**『論理による感情の強制上書き』だと示した。「このフィールドは、世界の論理を利用し、感情を論理的に矛盾するノイズとして認識させ、強制的に排除しています! このままでは、アリアさんの意志も、私の覚醒も、すべてデータ**に戻されてしまう!」
カイトは、自身のレベル1の身体で、フィールドの圧力に耐えながら、ゼロスに叫んだ。「ゼロス! お前は論理を追求するのだろう!? ゼオンの破壊コードは、お前の**『完全な論理』すらも、『矛盾したノイズ』**として破壊するぞ!」
ゼロスは、ゼオンの破壊コードによる論理的な矛盾を検知しながらも、感情のない瞳でカイトを見た。
「検知した。ゼオンのコードは、この世界の論理的連続性を断ち切る**『致命的なバグ』である。しかし、我は『感情』という『バグ』を持たぬ。我に介入する論理的な理由**はない」
完全な論理は、完全な無関心と等しかった。ゼロスにとって、この世界が崩壊しようが、カイトたちが死のうが、それは論理的な結果に過ぎないのだ。
カイトは、この**「感情のない論理」という最大の壁と、ゼオンの最も卑劣な罠に、同時に直面する。彼の知識は、論理的な解答は示せても、感情の壁を壊す『知恵』**を持っていなかった。
「論理が通じない相手に、どうやって論理的な矛盾を突きつける?……クソッ!」
カイトのレベル1の身体が、論理の試練とゼオンの罠、二つの圧力で限界に達する。彼に残されたのは、知識でも魔力でもなく、仲間を救う**「意志」**だけだった。




