第2章 第3話:知識の限界と真実の対話
知識の継承者の告白
カイトが光の輪の中に足を踏み入れると、周囲の霧が一瞬にして晴れ、彼の脳裏に**『クロノス・オンライン』の膨大なデータが、鮮明な映像となって展開された。それは、彼が熱中したゲームの世界の「裏側」**だった。
シエナは静かに見つめる。「さあ、見せてみろ。あなた方が**『真実』と信じるもの、そして、この忘却の森が隔離された理由**を」
カイトは、迷宮での葛藤を乗り越え、もはや**「知識の絶対性」を信じてはいなかった。彼は、自身のレベル1の魔力をルークのデバイスで増幅させ、脳裏のデータを情報としての光**に変えて、森の管理者に向けた。
「俺が持つ知識は、『クロノス・オンライン』というゲームの設計図だ。この世界は、データで構築されている。俺たちは、そのゲームのプレイヤーと、NPCだった」
カイトは、世界の**「データであるという事実」**を隠さず、シエナにすべてをさらけ出した。アリアとルークは、緊張した面持ちでそれを見守る。
「この森は、俺の知識によれば、世界の歴史を隔離した**『アーカイブ』だ。そして、俺は、世界の崩壊を防ぐために転移させられた『修正パッチ』**だ」
シエナは、感情のない瞳でカイトの**「知識の光」**を受け止める。彼女の周囲の空気が、不快感を示すように激しく脈打ち始めた。
「その知識は、この森にとって最大の冒涜だ。我々の存在を、『遊戯』の『部品』として断じる。その傲慢さが、この世界を一度崩壊させた真の原因ではないのか?」
森の魔力が荒れ狂い、カイトのレベル1の身体は、強い圧力で押し潰されそうになる。
過去の真実と開発者の罪
カイトは、迫りくる圧力に耐えながら、シエナの言葉から真実のヒントを掴んだ。
「待て! この森は、なぜ世界の歴史を隔離したんだ? 『崩壊を防ぐため』だと俺の知識は示しているが、それは表向きの理由だ」
ルークがカイトの魔力と解析を繋ぎ、助け舟を出す。「カイトさん、**『初期プロトタイプ』のデータと、この森の古代文字を照合します! この森は、世界の初期段階で発生した『重大な欠陥』**に関する情報を含んでいる!」
カイトは、ルークの解析と、シエナの言葉を重ね合わせた。
「分かった……!この森が隔離されたのは、データ崩壊を防ぐためではない! 世界の**『開発者』が、『ゲームのストーリー』を邪魔する『世界の真の歴史』を、意図的に隠蔽**するために隔離したんだ!」
カイトは、シエナの瞳をまっすぐ見つめた。
「俺の知識にある**『クロノス・オンライン』の歴史は、捏造された物語だ。真の歴史では、この世界の住人たちは、プレイヤーの降臨を待つことなく、自分たちの手で文明を築き、世界の法則を支配する技術を持っていた。しかし、その技術が『ゲームのバランス』を崩すと判断した開発者たちが、その歴史のデータを、この『忘却の森』**に閉じ込めたんだ!」
シエナの瞳に、初めて微かな感情が灯った。それは、長年の怒りと悲哀の感情だった。
「その通りだ。私たちは、**『物語を邪魔する不要なデータ』として、この森に封印された。あなた方の持つ『知識』とは、開発者が世界に押し付けた『虚偽のシナリオ』**そのものだ!」
知識の昇華と新たな道標
カイトは、自分の知識が、世界を救うための鍵であると同時に、世界を呪った原因でもあったことを悟った。彼は、自身の傲慢さを認め、シエナに深く頭を下げた。
「俺は、俺の知識がすべてだと信じていた。お前たちの真実を否定し、ゼオンと同じように、世界を**『データ』として扱っていた。俺の目的は、この『虚偽のシナリオ』を修復することではなく、この世界を意志を持つ者たちの手に取り戻す**ことだ」
カイトの**「知識の放棄」と「意志の尊重」**という告白が、シエナの心を動かした。森の荒れ狂う魔力が鎮まり、シエナの周囲の光が温かく変化した。
「あなたは、**『知識』を『傲慢な支配の道具』ではなく、『真実を照らす灯火』**として使うことを選んだ」
シエナは、カイトの足元に広がる光の輪を解いた。「私たちは、この森に永遠に閉じ込められるわけではない。あなた方の意志が、世界の法則を書き換えれば、私たち真の歴史のデータも解放される」
シエナは、古びた地図の断片のような、ルーン文字が刻まれた石板をカイトに手渡した。
「これは、真の歴史に記された、**『第二の試練の塔』への道標だ。あなたの『虚偽の知識』**では、ここを突破できない。進め。第二界『静寂の雪原』には、あなたの論理(知識)が試される、もう一人の過去の賢者が待っている」
カイトは、シエナから託された**「真実の道標」を胸に、新たな決意を固めた。彼は、もはや「ゲームの攻略」ではなく、「世界の歴史の修復」**という、真の旅路に足を踏み入れたのだ。




