第2章 第2話:森の解析と古代の知恵
知識の矛盾と危険な霧
**『忘却の森』に深く分け入ったカイトたちは、周囲を包む濃い霧と、絶えず変化する魔力ノイズに苦戦していた。カイトが持つ「未来の知識」**は依然として不安定で、モンスターの出現場所や罠の位置が、数分で入れ替わってしまう。
「カイトさん、この霧はただの自然現象ではありません。世界の**『過去のデータ』が、外部からの『未来の知識』を拒絶するために発生させている、
『 情報攪乱』**です」ルークが解析デバイスを調整しながら報告した。
「つまり、俺の知識を信じて進むほど、この世界から見て**『矛盾』が生じ、森はさらに激しく情報を攪乱させる、ということか」カイトは苛立ちを覚えた。彼は、これまで絶対的な自信を持っていた「知識」が、ここでは最大の足かせ**になっている事実に直面していた。
アリアは、カイトの焦りを感じ取り、静かに言った。「私たちは、あなたの頭の中の地図ではなく、目の前の現実を信じるわ。カイト、あなたは解析に集中して。道は私が開く」
アリアは、カイトの知識に頼らず、純粋な剣士としての直感と五感を研ぎ澄まし、わずかな風向きや、魔力の流れの変化を読んで進む。彼女の**「意志」の力が、「 情報攪乱」**の中を切り開く、唯一の道標となっていた。
過去の痕跡と古代の少女
カイトたちが森の深部へ進むと、霧の中に、奇妙な人工物が見えてきた。それは、世界がまだ**『クロノス・オンライン』**として起動する前の、遥か古代の魔法文明の遺跡の一部だった。
「これは……俺の知識にもない。未実装の拡張パックよりもさらに古い、**『初期プロトタイプ』**のデータか?」カイトは驚愕した。
ルークは、遺跡の石壁に刻まれた古代文字を解析し、驚きの声を上げた。「カイトさん!これは**『世界の原初の起動コード』**です!この森は、単なる過去の記録ではなく、世界が誕生した時の真実を保持している!」
その瞬間、遺跡の中心から、微かな光と共に一人の少女が現れた。少女は、ボロボロの獣皮を纏い、背には古い弓を背負っている。彼女の瞳は、まるで何千年もの時を見つめてきたかのように、静かで深い光を宿していた。
少女は、警戒することなくカイトたちを見つめ、古代語で話しかけてきた。
「ようこそ。世界の理を乱す者たち。あなた方は、**『未来のデータ』をこの『忘却の森』**に持ち込んだ。森の主である私が、あなた方の目的を問う」
カイトは、少女の存在が、この森の**「管理者」、あるいは「世界の過去の真実」**そのものであると直感した。
「俺たちの目的は、この世界の崩壊を防ぎ、**『現実』として再構築することだ。俺は、そのための『知識』**を持っている。俺たちの旅に、力を貸してほしい」
森の主シエナの試練
少女は、自身の名をシエナと名乗った。彼女は、カイトの知識ではなく、その意志を試すように、冷ややかに言った。
「あなた方の持つ**『未来の知識』は、この森にとって『毒』だ。森は、あなた方の知識によって、自分自身の存在意義を『過去のデータ』として否定されることを恐れている。その知識は、この森が隔離された理由**を理解できているのか?」
シエナの問いかけは、カイトの胸に突き刺さった。彼は、この森が**『歴史データ』の保管庫であることは知っているが、なぜ隔離されたのかという本質的な理由までは、「ゲームの攻略情報」**には記されていなかった。
「わからない……。俺の知識は、この森が**『第二の試練の塔』**への道標だということまでしか示していない」カイトは正直に答えた。
シエナは、弓を構えることなく、カイトたちの足元に一つの小さな光の輪を描いた。
「この森を抜けたければ、この**『過去の領域』で、あなた方の知識の限界**を認め、**この世界を真に救うための『道標』を探し出さなくてはならない。この光の輪の中に入り、『あなた方が知る世界の真実』を、この森に示せ。森が納得すれば、その知識は『真の知恵』**となり、あなた方を導くだろう」
カイトは、アリアとルークを見た。これは、戦闘ではなく、「知識」と「世界」の対話だ。カイトは、自分の持つ**「ゲームの知識」が、この森の「真実」**と対立していることを理解した。
「わかった。俺は、この知識の壁を越えてみせる」
カイトは、覚悟を決め、シエナが描いた光の輪の中に足を踏み入れた。彼のレベル1の身体は微かに震えているが、知識の継承者としての強い意志が、その場に立たせていた。




