表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/18

第10話 陰謀の影と竜の誓い

 大議会の後、帝都は竜の話題で持ちきりだった。

 市場では子どもたちが竜の真似をし、路地裏では怪しい商人が「竜の鱗」を売りつけ、広場では吟遊詩人が竜王国の歌を奏でていた。

 七年前、ただの罪人だった私の名が、いまや街の片隅まで轟いている。


 けれど――その喧騒の裏で、確かに冷たい影も伸びていた。


◇ ◇ ◇


「……暗殺の企て?」

 私が眉をひそめると、レオンは頷いた。


「兄上――カイゼルが動いている。竜を怪物と断じたい彼にとって、お前は邪魔だ。議場で証明したからこそ、次はお前を排除するだろう」


 その言葉に、アシュタルが唸った。

 竜の低い声は、壁の向こうに潜む敵意すら嗅ぎ分けるようだった。


「……どうすればいいのかしら」


 七年前は、ただ追放に身を委ねるしかなかった。

 けれど今は違う。竜たちがいる。レオンがいる。

 私は孤独ではない。


「奴らが仕掛けてくるなら、逆に利用する」

 レオンが静かに剣を撫でた。

「暗殺を未然に防ぎ、その瞬間を公に晒すんだ。竜王国の女王が帝都で命を狙われた――それ自体が最大の“証拠”になる」


「……策を逆手に取る、ってことね」


「そうだ。兄上は政治には長けているが、竜を知らない。お前が竜と築いた信頼は、奴には絶対に真似できない」


 彼の言葉は確信に満ちていた。胸が熱くなる。

 この人は、ただ守ろうとするだけじゃない。私を“共に戦う者”として見ている。


◇ ◇ ◇


 数日後。

 帝都の夜会――帝国の貴族と大商人たちが集う華やかな場に、私は招かれた。

 煌びやかなシャンデリアの下、金糸のドレスに身を包んだ女たち、香水の匂いを振りまく男たち。

 その視線の全てが、私と竜王国に注がれていた。


「ほら、あれが竜王国の女王よ」

「怪物を従えてるって話だが……」

「だがあの瞳を見ろ、人の女王だ」


 囁きと視線が交錯する。

 だが背後にはアシュタルの影があり、私は一歩も退かない。


 ――そのとき。

 突然、空気が揺れた。

 使用人に紛れていた男がナイフを抜き、一直線にこちらへ駆けてきたのだ。


「アメリア!」

 レオンの叫びが響く。


 だが――私の前に立ったのは竜だった。

 アシュタルの尾が閃き、男の腕を弾き飛ばす。ナイフは宙を舞い、床に突き刺さった。

 男は悲鳴を上げて倒れ、兵士たちに取り押さえられる。


◇ ◇ ◇


 会場は混乱し、叫び声が飛び交った。

 だが私は胸を張り、宣言する。


「見なさい。竜は人を守る。恐怖ではなく、信頼に応える!」


 その瞬間、空気が一変した。

 貴族たちの瞳に畏怖と同時に敬意が宿る。

 竜は怪物ではなく、“護る存在”として彼らの記憶に刻まれたのだ。


 レオンが私の手を取る。強く、確かに。

「……これで兄上は完全に追い詰められた。竜を怪物とする理屈は、もう通じない」


 私は彼を見返し、微笑んだ。

 七年前、捨てられた娘はただ生き延びるだけだった。

 けれど今は違う。竜の女王として、人と竜を結ぶために闘える。


 アシュタルが咆哮した。

 その声は夜会の天井を震わせ、帝都全体に轟いた。

 ――竜王国の誓いの声として。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ