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第2話:大物配信者アベル

 受付を済ませた僕らは、人だかりのある中心は避けて、外側を回るように歩いていた。中心ほど大物配信者向けな上級の品物、高級なお店が集中していて、自分達みたいな小物じゃ手が出せないもの。


「やっぱすごいよ、ここ……! どの道具も一流だ……!」


 ロビンが珍しく興奮した様子で店を回っている。今まで何度も助けられた、信頼できる目を持っている彼が言うんだから、相当なものなんだろう。


「メシもうまい! あー、俺ここに住みたいなぁ」


 マックは串焼きを両手に持って、交互に食べては頬張っている。その魔獣肉はすごく美味しそうだけれど、その後ろの眼光が怖くて、僕は手を出せなかった。


「無駄遣いすんなよ」


 僕らの財布の紐は、ネイラが握っている。もう一品買おうものなら、多分マックは今日の夕飯がないか、野宿することになるかもしれない。


 そんな様子に苦笑していると、突然大きな歓声が聞こえてきてびっくりする。そっちを見ると__


「あ、アベルさんだ!」


 大通りの真ん中を、金髪の爽やかな美青年が歩いていた。その周りだけキラキラしていて、雰囲気が明らかに違う。ファン達に手を振ってにこやかに対応する彼、アベルが率いるチーム『ノストス』は、全配信者の中でも一番人気。リーダーのビジュアルと、安定したその実力から、今回も優勝候補と噂されている。


「やっぱり、かっこいいなぁ」


 エミリーの、その横顔を見ていると胸が疼く。けれど、彼女がそうなるのだって仕方ない。全探索者達の憧れの的なわけだし、自分だって尊敬する人なんだから。


 そんな、注目の中心にいる彼は、僕らなんかにはまるで目も向けず、堂々と歩いている。まあ、こっちも畏れ多いから角っこに隠れているだけなんだけど。


「みんな、応援ありがとう! 今回の配信も楽しみにしてて!」


 手を振られれば振り返し、声援には感謝を返し、握手やサインにもできる限りは対応している。そんな彼の姿は至る所のモニターに映し出され、賞賛のコメントとスーパーチャット(投げ銭で目立つメッセージ)が滝のように流れていた。視聴者数は六桁、他とはまるで別次元だ。


「まさか、実際に見れるなんて思ってなかったぜ」

「存在してたのね……」

「オーラが、全然違かった……!」


 完全に通り過ぎてから、思い出したように息をして、思い思い感想を言う。空気が違う、世界が違う。才能も経験も覚悟も何もかも、今の自分達とは比較にならなかった。


「……ッ! いいえ、私たちもいつかあのレベルになるのよ! 今回はその第一歩!」

「ッ! おう、そうだな! 気ィ、引き締めていこうぜ‼︎」


 十六歳の成人の議を終えて、探索者になってから、まだ一年半くらいしか経っていない。C級への昇進速度も平均並みらしいし、十年経ったらあのくらいになるのも夢じゃないかもしれない。憧れや尊敬はあるけれど、いずれ追いつき、追い越すべき目標だ。



 そう考えられはした。けど、まだやっぱり実感はなかった。




 そんなことがあったけれど、再び歩き始めた。のだが__


「やっぱどこも空いてねぇ!」

「配信者だけじゃなくて、観客や店員もいっぱいいるものね」

「うーん、出遅れちゃったか。もっと早く切り上げれば良かったかなぁ」


 ここにくる直前まで、離れたところでダンジョンの探索をしていた。何かありそうだ、という感覚はみんなしていたので粘ったけれど、結局めぼしいものはなく。結果、到着がギリギリになってしまった。


「最悪、野宿するしかないかもね……」

「えぇ? そんなぁ」


 折角こんなとこまで来たのだから、ダンジョン内でもないんだし、ちゃんとしたところで泊まりたい。みんなもそう思っている。けど、手持ちも空き部屋もない。荷物も最低限しか持ってこれなかったし、その置き場所にすら困っていて、馬車の御者さんを待たせてしまっている。


「今から仕事を受けて一稼ぎするにも、遅いしなぁ」


 ギルドの依頼で、お店のアルバイトや魔獣討伐を受注する手もあるけれど。もう日が傾き始めてしまっている。この時間になると、あまりいい仕事は残っていない。しかも、仕事が終わるまで荷物を放置しないといけない。


「もっと、いろいろ聞いておけば良かった……僕たちは、この会場についてあまりにも知らなすぎる」

「そうよね……こんなすぐ近くでテントを張ったら、怒られそうだし」


「そっか、専用のスペースとかあるかもしれないよね。けど、ルールなんて……」

「んなことより、どうすんだよ。キャンプするにも、いろいろ足りねえぞ」


 五人集まって、会場の端でウンウン唸る。ああでもない、こうでもない。議論も行き詰まって、絶望してしまいそうな時だった。


「あっ、あれ見て!」


 エミリーが指差した先には、僕らみたいに会場の端っこに建っている、寂れた木造の店だった。けれど__僕らとは違って、自ら気高くその立場でいるように感じられる。この熱狂の中でも、敢えて冷静に、例え多勢に埋もれようと貴さを保つが如く。


「失礼かもだけど……あのお店なら、僕たちみたいな客でも、ちゃんと扱ってくれるかもしれない」

「とにかく行ってみようぜ!」

「うん!」


 男子三人で先に行く。振り返ると、エミリーも少し遅れてついてきていた。ネイラは……


「頂点見た後にこれとか、惨めになるんだけど……あ、もう!」


 恨みがましくぶつぶつ呟いた後、駆け足で追いかけてきた。


次回 第3話:萬屋の店主

 2025/08/02 06:00  更新予定

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