第2話 王国闘技大会
研究室に残されたハーヴィーは、部屋の整理は明日にすることにし一度外に出る。
夢かのような父との会話だったが、外に出てもそこには研究室の入り口が確かに存在していた。
ハーヴィーが出ると、入り口が消え紙片が手元に戻ってくる。
「これがカギみたいなものか」
紙片をしまうと、村に戻ろうと足を進める。その時だった。
「きゃあああっ」
遠くから叫び声が聞こえる。
「女の子の声!? あっちか!」
ハーヴィーは駆け出す。
(こっちは確か王族の墓所だったはず……)
墓地で少女は震えていた。
亡き母の墓参りに来た。それだけのはずだった。
護衛の兵士もいらない。そう思っていた。
そのはずが……。
「グオオオッ」
目の前には巨大な魔物。兵士はすでにやられ少女は何もできない。
「だ、誰か……。助けて」
その声が届いたかのようにちょうどハーヴィーは現れた。
「大丈夫!?」
少女は驚くも、現れた助けにしがみつく。
ハーヴィーはそれを支えながら、魔物の方を確認する。
(熊型の魔物……。『グリズリー』か!
本来、こんな所にいる魔物じゃないはず……)
ハーヴィーの思考を無視しグリズリーは二人に迫る。
以前のハーヴィーなら対処できなかっただろう。
だが高速詠唱術を使えるようになった彼は落ち着いていた。
「捕まっててください!」
ハーヴィーは少女にそう言い、さらに詠唱を終える。
「ガアアッ! ……グァ?」
グリズリーの振り下ろした拳。そこには誰もいない。
グリズリーは驚き回りを見渡すが……。
「遅いよ」
天から降り注ぐ突然の火の雨。『フレイムレイン』
突然のその雨にグリズリーは成すすべなく燃え包まれた。
「ふう……」
ハーヴィーと少女がそっと地面に降りてくる。
先ほどのグリズリーの攻撃をハーヴィーは飛翔魔法でかわしていた。
「えっと、大丈夫?」
「あ、ありがとうございます!」
少女がお礼を言ったそのすぐ後だった。
「姫様ー。いずこにおられる」
「あっ、ごめんなさい。
助けてもらったお礼も差し上げれないけれど
失礼します」
少女は頭を下げすぐ立ち直ると、声の方へと駆けていく。
「姫様……?」
その単語がハーヴィーには気になっていた。
ハーヴィーが村に戻ると、長老とゴントが慌てて寄ってくる。
「ハーヴィー、どこ行ってたんだよ!」
「どこって……父さんの墓だけど」
正確には研究室だったがハーヴィーは黙っておくことにした。
「つい先程までブリンク城の方々がお見えになっておったのじゃ」
「ブリンク城の……」
ブリンク城。
ハーヴィーの住む村から一番近い、一帯を管理する城である。
「美人のお姫様がさあ、護衛の騎士に守られて来てたんだよ!
なのにお前、どっか行ってやがるし」
「アハハ……」
ゴントの小言よりもハーヴィーは気になることがあった。
(さっきの女の子。姫様って呼ばれてた。
ブリンク城の王女だったのか……)
「それよりもハーヴィーが戻ってきたのじゃ。ゴント、あの話を」
「おお、そうだそうだ。ハーヴィーも受けとれ!」
ゴントは2通の手紙を取りだすと片方をハーヴィーに差し出す。
「これは?」
「読めばわかるって!」
ハーヴィーは手紙を開く。それは招待状と参加証。
「ブリンク王国が年に1度開く闘技大会。それの招待状が俺らの村にも来たんだよ!」
ゴントが熱く語る。
ブリンク王国が闘技大会を開催しているのはハーヴィーも知っていた。
だがハーヴィー達の住む小さな村には闘技大会の知らせは今まで来なかったのだ。
「これは……」
チャンスが来たとハーヴィーは感じる。
高速詠唱術が使えるようになった自分の実力を見せるチャンスだと。
「……やろう、ゴント!」
「おう!」
ハーヴィーとゴントは手を合わせ合い、二人は王国に向かう準備を始めるのだった。
ブリンク王国にたどり着くハーヴィーとゴント。
闘技大会受付には既に多数の参加者が並んでいた。
「すげーな……」
「ゴントがビビッてどうするのさ」
「ビビッてねえよ!」
からかいながら、ゴントより先に受付を済ませるハーヴィー、
そこにガラの悪そうな二人組が近づいてきた。
「おい、こいつ杖だ。魔法使いだぜ?」
「ギャハハ! 今どき魔法使いかよ! 笑えるなあ!」
それを聞いてもハーヴィーは無視する。
それよりもゴントが怒って近づいた。
「おい、あんたら――」
「いいよ、ゴント」
ゴントを止めながら、ハーヴィーは不敵に笑う。
「大会で思い知らせるから」
そう言って二人組を無視し、ハーヴィーは会場に入っていった。
大会の表を見るハーヴィーとゴント。
「上手く別々になったね」
「おう。決勝で会おうぜ!」
さっそく一回戦が始まろうとしている。
ハーヴィーの対戦相手は――
「よお、さっきの魔法使いじゃねえか」
先程の二人組の片方だった。
「ちょうどよかった。見せてあげるよ――」
ハーヴィーが杖を構え宣言する。
「――魔法使いの実力を」
審判が立ち、ハーヴィーと男が構える。
「試合……始め!」
「おら、行くぜ――っ!?」
開始と同時に男は剣を構え突撃しようとした。
だがその瞬間にファイアボールが飛んできていたのだ。
倒れはしなかったものの、男はあまりにも早い魔法に驚愕する。
「て、てめえっ! 何しやがった!」
「ファイアボールを撃っただけだけど?」
その言葉に観客席にいた二人組のもう片方が文句を叫ぶ。
「ふざけんな! 魔法がそんなに早く撃てるわけねえ!」
「そうかな?」
ハーヴィーは連続でファイアボールを撃つ。
「お、おおおおっ!?」
凄まじいファイアボールの嵐に男は成すすべもなく吹っ飛んだ。
「しょ、勝者、ハーヴィー選手!」
審判も、観客も、ゴントも、ハーヴィーの圧勝に驚いていた。
「すげえ……。ハーヴィーの奴、いつの間にあんな」
ゴントはついこの前まで自分が勝っていたハーヴィーの成長に驚愕する。
そして城の観覧席で、王女シャインも大会を見ていた。
「あの人、この前の……。ハーヴィーっていうのね!」
さらに謎の黒マントの男もハーヴィーを見ていた。
「あの高速詠唱術。リーディの関係者か……」
そう呟き黒マントの男は姿を消した。