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第1話 ハーヴィーと高速魔法

大きな爆発があった。世界を揺らすほどの爆発。


何が起きたか知る由はない。ただその爆発はある一国を消し去った。


魔法大国『ディアンマ』。この世界の魔法を網羅したといわれる大国であった。




それから数百年の時が立った……。




とある王国の辺境の村。


そこで少年二人が模擬試合を行っている。


「ははっ、どうしたハーヴィー! 遅いぞ!」


「うるさいな、ゴント」


少年『ゴント』の模擬戦用の剣を避けながら、少年『ハーヴィー』は謎の言語を唱える。


「これで――炎よ!」


ハーヴィーが杖を掲げるとそこから炎が飛び出す。


しかしそれはあっさりとかわされ、ゴントの剣がハーヴィーの頭を直撃した。


「っ――!」


ハーヴィーは頭を押さえふらつく。


「残念だったなあ。ハーヴィー」


軽口を叩きながらも、ハーヴィーに手を差し出すゴント。その手をつかみ立ち上がるハーヴィー。


その二人に老人が近づく。


「二人ともいつもよくやるのう。しかし――」


老人はハーヴィーの方を向くと、言いづらそうに続ける。


「ハーヴィー。昔、魔法研究家だったわしが言うのもなんじゃが、この国ではもう魔法は時代遅れ。それはわかっておるじゃろう?」


「長老まで!」


ハーヴィーは老人、長老に向かって叫ぶ。しかしハーヴィーにもわかっていた。


この世界は、魔法大国『ディアンマ』の爆発とともに、魔法技術だけでなく、魔法の強さのひとつ『マナ』が消失していた。


マナの力を借りて行う高威力、高速の魔法詠唱は失われ、魔法を使うには時間のかかる古代呪文の詠唱を行わなければならなくなった。


「……ですが、父さんは立派な魔法使いでした」


「うむ、わかっておる。おぬしの父『リーディ・ヨミ』はおそらくこの時代、唯一の高速詠唱魔法使いじゃった。


おぬしには、その父以上の魔力が感じられる。じゃが、あの高速詠唱は謎のままリーディは亡くなりおった」


そう、リーディ・ヨミは早くして亡くなった。自身の使う高速詠唱は誰にも伝えぬまま。


「それなら親父さんの遺品に何かねえのか?」


聞いていたゴントが割って聞く。


「父さんの遺品はだいたい見たはずだけど……」


だがハーヴィーはその時、すぐに調べなおそうという気になった。




家に帰るとハーヴィーはさっそく、父の遺産を漁り始める。


杖。ハーヴィーの使っている訓練用の杖に比べれば十分高い品だが、別段特徴のない杖。


本。魔法の基礎から、応用、歴史といったハーヴィーでもわかる内容の本ばかり。ページをじっくり見ても何もない。


「やっぱり、なにもないな。……おっと」


つまづいてバランスを崩す。その衝撃でハーヴィーの手から一冊の本が落ち、杖に当たった。すると――。


「えっ?」


杖から光が放たれ本に浴びせられる。本がじわじわと紙片になっていく。


「これは地図?」


紙片は古いが、傷は少なく十分地図として見れた。


「この印……父さんと母さんの墓だな」


ハーヴィーは地図の印が気になり、墓参りもかねて向かうことにする。




墓に花を添えて祈ったハーヴィーはそのまま周りを見渡す。丘の上、きれいな景色。


「変わらずいい景色だけど……何もないよな」


そう呟いた時だった。突風がハーヴィーの手に持っていた紙片をさらう。


「あっ!」


紙片はそのまま飛んで――空中で輝きを放つ。


「えっ?」


丘の端で紙片は光となり、そこに扉が出現した。


「これは……」


ハーヴィーは恐る恐るその扉を開けた。




そこは研究室のようだった。


だが見回ると、そこに置いてある本、杖などはハーヴィーが見たこともないものばかりであった。


「これは魔法器具か?」


ハーヴィーは部屋の奥にある、宝珠らしきものに触れる。すると奥の壁に映像が映し出された。


「父さん!?」


映っているのはリーディ・ヨミ。映像のリーディは目を開くと周りを確認するように見渡し、ハーヴィーに気づく。


「ハーヴィー。ついにこの部屋を見つけたか」


映像がいきなり自分に話しかけてきたことに驚くハーヴィー。それでも心を落ち着け、父の映像に話しかける。


「父さん……なんだよね? これは一体なに。父さんは死んだんじゃなかったの?」


「ああ、私はやはり死んだのか……」


リーディは少しだけ落ち込む様子を見せたがすぐにハーヴィーに向き直る。


「そうだな。死んだ……のだろう。今、ここで話している私は生前、この魔法器具に魔力で残した幻影といったとこか」


「……」


ハーヴィーは無言で聞くしかない。


「さて、ハーヴィー。私がこの姿を残したのは訳がある」


「?」


「魔法王国ディアンマを知っているね」


「数百年前に滅んだ、魔法を網羅したとされる国。そういう答えなら……」


リーディは頷く。


「私は魔法学者とは別でディアンマの滅びについて調べていた。あの国は爆発で消え去ったがそれ以外は全く謎だ。だがそれ以降、謎の組織に狙われていた」


ハーヴィーは驚く。父が生きていたころはそんな素振りは見せなかったからだ。


「さすがに息子にそう簡単に気付かせないよ。この私にはわからないがおそらく私はその組織にやられたのだろう。


そしてそんな状況で息子にこの頼みをするのは気が乗らないが……ハーヴィー、私の意思を継いでディアンマのことを調べてもらいたい」


「僕がディアンマを……?」


ディアンマについてハーヴィー自身も興味がなかったわけではない。だが、父から頼まれることになるとは思わなかった。


「無理にとは――」


「いや、やるよ」


父の言葉を遮り、ハーヴィーは承諾する。


「ディアンマのこともだけど、父さんを殺した組織も気になる。いつかぶつかると思うんだ。だから」


ハーヴィーは力強く頷いた。


「そうか、ありがとう。ならこの部屋の物は自由に使って構わない。あとはこれを」


リーディの幻影から手のひらほどの実が出現する。


「この実は?」


「食べてみなさい」


言われるままそれを口にする。甘くもすっぱくもない無味な実をハーヴィーは食べ終わる。すると――。


「!」


ハーヴィーの意識が今まで感じたことのないものを感じ取る。急に悟りを開いたかのような感覚。


「それは昔、私が見つけた実。名前は……『賢者の実』としておこう。食べた今ならわかるはずだ。それが私の高速詠唱魔法の理由だよ」


確かにハーヴィーは感じ取っていた。己の中の魔力の感覚がいつもと違うことを。


「……おっと、この会話もそろそろ限界らしい」


見るとリーディの幻影は少しずつ消えている。


「父さん!」


「ハーヴィー、我が息子。ありがとう。こんな形だが会えてよかった」


幻影が完全に消滅する。それ以降、魔法器具を触っても何の反応も起きなかった。


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