第7節「禁断の果実とお庭島・前編」
俺は「鈴」と喫茶「天」に居る。
やってしまった。俺は見事に罠にかかった。
「禁断の果実セット」
メニューにはそれだけが書かれていた。その言葉の魔力につい俺たちはそれを注文した。
アップルパイとモサイダーが運ばれてきた。
モサイダー。セット名からすると…
正解。桃のサイダーだ。
普通に美味しかった。だが、罠は巧妙だ。妙な名前の陰にはジブさんがいるのだ。
モサイダーに添えられたカードにはこう記されていた。
「貴方は1000日生きられます。」
俺は震えた。2年9か月後に俺は死ぬのかと。
「鈴」は寿命が延びたと喜んでいる様だった。単純な奴だ。うらやましい。
藁にもすがる気持ちで、ゴーさんに相談してしまった。俺にとって彼は藁でしかないが。
「善行をすれば呪いはとけますよね。多分」
善行か、俺の正義は善行なのか?不安に駆られる中、ゴーさんが涼しい顔で続ける。
「ミクラさんがボランティアに行く仲間を探していたので、話を聞いてみてはどうでしょう」
翌日ミクちゃんに話を聞いた。テーマパーク「お庭島」の大清掃のボランティアらしい。
参加するとバランス栄養食7日分がもらえるらしいが、俺には余命の方が重要だ。
しかし、その日はバイトの日だ。
俺滅亡まであと999日
翌々日
バイトなんてしている気分ではないが俺は気持ちをリセットする為「サ」になる。
バイト後、周回できた 大店主めろん に恐る恐る事情を話し、バイトのシフト変更の打診をする。
めろんはカラカラと笑い
「殊勝な心掛け。いいねぇ。あんたのおかげで売上上がってるし、返品率もだけど。いっといで。そんかし、必ず制服着用してね。店のイメージアップで貢献なさい。」
正直ほっとした。シフト絶対の鬼がこうも容易く…ミクちゃんが手を回したのかもしれない。
俺滅亡まであと997日
集合場所の港に俺は「サ」として降臨。
何故かミクラさんと一緒に「神鋸」クラさんと「鈴」がいる。
「鈴」の動機はバランス栄養食なのは間違いないが
「前から思ってたけど、そのかっこだと印象違うよね」
ミクラさんが俺をそう評するが、ミクラさんも白いつなぎに白い帽子。白くしたSWATみたいで、大分印象が違う。だからミクちゃんではなくミクラさんなのだ。
「かわいいね」
と言われ、俺は多分耳まで真っ赤になっていたように思う。
「クラ」さんと「鈴」も「大工 阿門組」の仕事着に身を包んでいる。
船に揺られて数十分。
ミクラさんは俺を「サ」たん と呼んで面白がっている。
和風の天守閣に玉ねぎ屋根の宮殿、欧風の石造りの城が見えてきた。お庭島までもうすぐだ。
島へ渡ると現地スタッフの「御庭番衆」が班分けの指示をする。どうやら「神鋸」は別枠になるらしい。こうなったら「サ」として徹底的にこの混沌たる「お庭島」を掃除してくれるわ。
お庭島は世界各国の庭をテーマにしたテーマパークだ。有名庭園っぽい感じの場所で世界旅行した気分に浸れる。そんな素敵な場所だったはず。
今の惨状は余りにもひどい。手入れする御庭番衆の削減から、手が回らなくなり庭園が荒れる。そして荒れた庭に誰も来なくなる。そんな悪循環の中にある。
俺滅亡まであと990日
第7節「禁断の果実とお庭島・前編」 ここまで