第28節「バレンタインデーと兎」
諸君、お待たせしました。
今回はバレンタイン……ではなく「旧暦バレンタインデー」を巡る騒動と、喫茶「天」での一幕をお送りします。
ゴーさんの語る「白ウサギと亀」の真実とは?
どうぞ最後までお付き合いください。
諸君、久しぶりだね。「ル」だ。覚えておけ。
俺は自由を愛する。故に新たなる組織を発足した。
「旧暦バレンタインデー普及委員会」
世界に自由と混沌を招く秘密結社だ。
「兄貴、モテないからって意味不明な事するの辞めましょうよ。」
もう定番。鈴はあっという間に俺を現実へ引き戻した。
くそ、面白くない。
喫茶「天」そこは、様々な混沌のひしめく不思議空間。
だが、今日の主役は彼だった。
「天塾」が開かれる日だった。謎の男ゴーさんの講演会だ。
今日のテーマは「白ウサギと亀」
…なんか混ざってる。
「はい。まずは、ミクラさんに物語を読んでもらいましょう。」
涼しい顔でゴーさんはミクちゃんを指名し、A4用紙を渡す。
少し驚いたような、少し嬉しそうな、そんな顔でマイクの前に立った。
「それでは僭越ながら…」
むかしむかし、ある野原に、足の速い白ウサギと、通りすがりの亀がおりました。
白ウサギはいつも自慢しておりました。
「おれの速さにかなう者などおらん。亀よ、ひとつ競争をせぬか」
亀は少し考えてから、静かに言いました。
「大体わかった。では、海の向こうの島までを、勝負のゴールにいたしましょう」
白ウサギは笑いました。
「島だろうが山だろうが、すぐに着いてみせよう」
合図とともに、亀はためらいなく海へ入り、すいすいと泳ぎ始めました。
亀は海でも陸でも、同じように進める生き物でした。
ところが白ウサギは、波打ち際で立ち止まります。
泳ぐことができなかったのです。
しばらく考えた白ウサギは、海に浮かぶワニたちを見つけました。
そこで声をかけました。
「おまえたち、どちらが数が多いか、わしが数えてやろう。ここから島まで、ずらりと並んでくれぬか」
ワニたちは面白がって、一列に並びました。
白ウサギはその背中を、ぴょん、ぴょんと渡っていきます。
「これで亀に勝てる」
そう思ったとき、白ウサギはつい口を滑らせました。
「実はな、亀と競争をしておってな。おまえたちを利用させてもらったのだ」
それを聞いたワニたちは怒り、
最後の一匹が身をひるがえすと、白ウサギは海へ真っ逆さまに落ちました。
そのころ亀は、何事もなく、静かに島へたどり着いておりました。
振り返ると、沖の方で白い影がばたばたとしております。
亀、完全勝利!
めでたし、めでたし。
ミクちゃんは、紙をゴーさんに戻し、席につくと安心したのかフッと息を漏らした。
「どうだったでしょうか?」
ゴーさんは会場の人たちに問いかけた。
「何を思うかは人それぞれで良いんですよ。」
俺は、昼寝を奪われた兎を不憫に思った。
「おいらは火に飛び込んだウサギの丸焼きが食べたいよ。」と鈴。
第28節「バレンタインデーと兎」ここまで
第28節「バレンタインデーと兎」、いかがでしたでしょうか。
ウサギの丸焼きが食べたいという鈴の言葉に、ある意味一番の混沌を感じてしまいます。
何を思うかは人それぞれ。
次回もまた、この不思議な空間でお会いしましょう。




