第26節「月あかりと朗読」
俺はすすきの穂が頬に触れる感覚が好きだ。
調子に乗ると、鼻に当たってくしゃみが出る。
腹が減った。今宵は中秋の名月。団子のようなものが有るかもしれない。
俺は喫茶「天」の扉を開く
給仕さんはバニーガールだった。
ミクちゃんが
「お月様のうさぎはお腹すいた人のために自分から火に飛び込んでステーキになったのです。」
とか言ってる。
給仕さん、大丈夫かなと俺は思った。
揚げ団子食べながら
「赤ずきんちゃんと花の王子様」 (朗読 ミクちゃん。)を聴きましょう。
と、ゴーさん
ミクちゃんの朗読になったんだ。
ミクちゃんの声はよく通るし、男声とも女声とも聴ける。朗読に向いてるよね。
『赤ずきんちゃんと花の王子様』
第一幕:出会い
深い森の奥、小道を一人の少女が歩いていました。赤い頭巾を被ったその少女の名は――赤ずきん。森の風が草木を揺らし、鳥たちがさえずる穏やかな昼下がりでした。
その時、草むらの奥から、低く唸るような声が聞こえてきました。
赤ずきん:
狼さん……おなかが空いているのね。かわいそうに。おばあさんにお弁当を届けたら、すぐに戻ってくるから――だからここで待ってて。
狼:
待って……いいのか?
赤ずきん:
他の人を襲わず待っていてくれたら、私は……喜んで、あなたに食べられましょう。
第二幕:訪問者と花の王子様
約束を胸に、赤ずきんが家に着くと、そこには見知らぬ青年がいました。人々は彼を花の王子様と呼んでいました。
おばあさん:
まあ、王子様、今日も花を持ってきてくれたのかい。
花の王子様:
ええ、おばあさん。今日の花は、朝露の香りがするんです。ほら、こうして吸い込むと……心が軽くなるでしょう?
第三幕:走る赤ずきん
おばあさんに弁当を届け終えた赤ずきんは、再び森へ向かって走り出しました。狼との約束を守るために、ただひたすらに。自慢の赤いずきんは森の枝に引っかかり裂け、履いていた靴は擦り切れ、もう裸足も同然でした。それでも、彼女は――食べられるためだけに走り続けました。
赤ずきん:
ま、待ってて……今、戻るから……
第四幕:不在と決意
しかし、彼女が約束の場所に戻ったとき、そこに狼の姿はありませんでした。待ちきれず、どこかへ行ってしまったのでしょう。森は、先ほどまでの穏やかさとは打って変わって、風の音だけが響く静寂に包まれていました。
赤ずきん:
……私は、あきらめない。狼に、必ず……私を食べさせてみせる。
第五幕:追跡劇
その日を境に、赤ずきんの心に狂気じみた執念が宿りました。彼女は森中を駆け巡り、狼の行方を追い求めます。
赤ずきん:
あの日、ワタシを食べたいと言ったしゃべるオオカミは――お前かあああー!
目の前にいた別の狼が、その気迫に怯えて「クゥーン……」と情けない声を上げ、逃げ去ります。しかし、赤ずきんの足は止まりません。
赤ずきん:
地獄の底まで追いかけて……必ず食べさせる。
彼女の執念は、森を破壊し尽くしました。木々は切り倒され、草木は焼き払われ、動物たちは悲鳴を上げて逃げ惑います。それを止めようと猟師が叫び、心配したおばあさんも悲鳴を上げ、花の王子様は嘆き悲しみました。ですが、その叫びは、もはや少女には届きませんでした。
赤ずきん:
そこの野ウサギ!しゃべる狼に心当たりはないか!
第六幕:花畑と終焉
そして、月日は流れました。
かつて深い森だった場所は、今や美しい農地と色とりどりの花畑へと姿を変えています。その片隅に佇む小さな一軒家。暖炉の火がパチパチと音を立てる中で、年老いた花の王子様が、ひとりの幼い少女に語り聞かせます。
少女:
ねえ、王子さま。それで赤ずきんの人は、どうなったの?
花の王子様(老):
うさぎになって……今も月の上で狼を追っているんだよ。ほら、あの満月の光の中に、ワインの瓶を振り上げている影が見えるだろ?
少女:
どうしてうさぎになったの?
花の王子様(老):
狼の声が遠くからでも聞こえる耳と、地獄まで見通せる赤い目が……欲しかったからかな。
月明かりが、遠くで風が鳴る音を乗せて、静かに花畑を照らしていました。
――おしまい。
何だこれは。言葉にならない。
周りをみると、バニーガール姿の給仕さんが涙目で目が真っ赤だ。
これは、何の涙?俺は、なぜか俺は、震えた。
テラスに出た。
遠吠えが聞こえる。オオカミではなくてたぶん犬。
満月に背を向け、俺は、高笑いをしたくなった。か、奇異の目で見られるのが目に見えてるので、やらなかった。
第26節「月あかりと朗読」ここまで




