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4話


カザミはあの後ファミレスでしっかりとハンバーグをご馳走してもらい帰路に着いた。玲華に連絡先を聞かれたりと色々あったが帰り道の中考えるのは樹が言っていたダンジョンボスのことばかり。


「はあ……早く戦いたいな、ボス」


 翌日のダンジョンアタックに思いを馳せていると16年間過ごしている自身の家が見えてくる。


「ただいま〜」


「お帰りなさい。どう?ダンジョンは」


 夕飯時だと言うのにリビングでソファに寝そべりながらポテトチップスを食べているのはカザミの母である矢白 秋穂(あきほ)だった。


「母さん、ご飯前にポテチなんか食べてたら父さんに怒られるよ」


「良いのよ、私太らない体質だし。それよりアンタ学校から連絡来てたわよ。ギフター登録の確認が取れたから学校は自由登校で良いって。すごい待遇よね、ギフターって」


「まあ、自分で言うのもなんだけど数が少ないしダンジョンからモンスターが溢れたらギフター以外の人には脅威でしかないからね、少しでもギフターにはダンジョンに潜って欲しいんでしょ」


「まあそうよねー……ってアンタ、何で女性モノの香水の匂いがするのかしら?」


「ああ、今日ね、ダンジョンで助けた人たちにご飯を奢ってもらったからその時かな」


「まあ!やるじゃないのカザミ!女の子には優しくって言う私の教えをしっかり守ってるのね」


「いや、流石に命の危険があったら男でも助けるけど。まあ良いや今日は寝るよ、明日も早くからダンジョン行くから」


「頑張るのよ〜」


 自室に戻り、ベッドに横になると風見にしては珍しくダンジョンやモンスター以外の事が頭をよぎる。


「今日、楽しかったな……歳の近い人とご飯食べたのなんて、初めてだ。一之瀬さんたち明日も来てるかな……」


 そのまま深い眠りに落ちるカザミの表情はとても穏やかなものだった。





「今日も混んでるな、まあ新しいダンジョンだから仕方ないけど」


 早朝に目を覚ましシャワーを浴びたカザミは自身の家の最寄駅から三駅ほどの昨日と同じ洞窟型ダンジョンに来ていた。ダンジョンの入り口にはダンジョンゲートと呼ばれる青白く発光する大きな穴があり、ギフターたちはその前で自分の順番を待っていた。


「あ、やば……出張所で入場登録しなくちゃいけないんだった」


 ダンジョンへは基本的にギフターしか入る事ができないがギフターにも種類があり、生まれながらにしてギフターの資質を持つ先天型ギフターとある日突然ギフターの資質に目覚める覚醒型ギフターがいる。覚醒型ギフターや幼い先天型ギフターが誤ってダンジョンに入らない様、ダンジョンゲートは厳重に警備されており、ダンジョンが出現すると近くに急造される統括機関の出張所にて入場登録が必須となっていた。


 ダンジョンゲートから徒歩10分足らずにあるギフター統括機関64番ダンジョン出張所は今日も人で賑わっている。


「すみません入場登録をお願いしたいのですが」


「かしこまりました。ギフターライセンスのご提示をお願いいたします」


 カザミは携帯端末からギフター統括機関の専用アプリを起動しライセンスを提示する。


「ありがとうございます。手続きは完了ですので、ダンジョンゲートでライセンスを提示していただければダンジョンにご入場いただけます」


「はい。ありがとうございました」


「あの……おせっかいかもしれないんですが、64番ダンジョンはウルフ系のモンスターが群れを組む事があるのでお一人で入るのはやめた方が良いかもしれません」


「そうですね……考えてみようと思います」


 出張所からダンジョンへの道すがらカザミはパーティについて意外にも真面目に考えていた。カザミは何よりもモンスターとの戦闘を好むが別に1人での戦闘にこだわっている訳ではなく、単に楽しければ良いと思っている。今はどうやら自身の戦闘スタイルに合う仲間を脳内でシュミレートしているようだ。


「パーティメンバーねぇ、理想は5人くらいかな」


 そんな事を呟いているとダンジョンゲートが見えてくる。


「お、空いてきた」


 ダンジョンゲートは先ほどまでと打って変わり人混みはなく、警備担当の統括機関職員だけが立っていた。


「すみません、ダンジョンに入りたいんですけど」


「現在ダンジョン内に徘徊型のボスが確認されており、Dランク以下のギフターの入場を制限していますのでお引き取りください」


「それなら大丈夫です、こう見えて俺Cランクなので」


「し、失礼しました!!お若く見えたのでつい」


「ですよね〜、取り敢えずこれで入って大丈夫ですか?」


「はい、ライセンスも確認しました。どうぞ、お入りください」


 暖かい膜を通るような感覚と共に景色が移り変わる。先程までいた街並みは消え失せ、今カザミの視界に映るのは複数の道に分かれた洞窟の中。


「さて、まずは徘徊型ボスを探そうかな」


 進む道を直感で選び脅威的なスピードで走り出すカザミ。ギフターは身体能力の向上に合わせて肉体の強度も強化される事が確認されており、空気抵抗をものともしない。


「お、あれはシャドウウルフ。経験値経験値!」


 視界に映ったシャドウウルフの影に転移するとナイフを手に構え胴体を両断する。


「うん、やっぱりコイツは弱いや。早く徘徊型ボス見つけようっと」


 その後、しばらくダンジョンの中を走り回りファングウルフとシャドウウルフを倒しまくり魔石すら回収せずに徘徊型ボスを探しているとようやく、それらしいモンスターを発見した。


「お、あれっぽいな。でも残念、先客かぁ」


 シャドウウルフにカラスの翼を足したようなモンスターと数人のギフターが戦っており、カザミはそれを巻き込まれないように少し遠くから羨ましそうに眺めている。


「皆さん、お下がりください!!」


 徘徊型ボスと戦っているギフターのうちの1人、ダンジョンには似つかわしく無い鮮やかな黒色に花模様の着物を着た女性がパーティメンバーに指示を出した。


「符術、眼前烈火(がんぜんれっか)……」


 着物の女性が手から呪符のような物を投げるとそれは宙を飛びボスの前で止まり魔法陣を完成させる。


「顕現!!」


 瞬間、ボスの足元から複数の火柱が上がり炎が意思を持ったようにうごめき、ボスを追尾するとその身体を焼き焦がす。


「中々手強い相手でした。皆さんお怪我などは……」


 着物の女性が仲間達の安否を確認しようと振り返る。


「翼様!まだです!!」


「え?……」


「ワォォォォン!!!」


 徘徊型ボスの死体を殻のように破り捨て中から現れるは銀色に輝く大狼。


「まさか……レッサーフェンリル…………」


 翼と呼ばれた着物の女性はそのモンスターを知識として知っていた。DランクのダンジョンにはいるはずのないAランクモンスターであり、人を数人喰らえば成体のSランクモンスターフェンリルになり得る人類の敵。


「ダメ…………皆さん早く逃げて!!」


「翼様。我々が時間を稼ぎます故、お逃げください」


「翼様を死なせては御当主様に顔向けができません」


「皆、行きますよ。少しでも長く奴の足を止める!」


 着物の女性を残して3人の刀を持ったギフター達がレッサーフェンリルに向かい合う。


「コイツは俺がやるッ!!!やらなきゃいけない!!」


 その時だった、覚悟を決めてレッサーフェンリルと対峙しようとしていた3人の前に少年と呼んで差し支えないあどけない顔立ちの男が狂気的な笑みを浮かべながら目にも留まらぬ速さでレッサーフェンリルの前脚にナイフを突き刺したのは。


「やっとだ!やっときた!このレベルのモンスター!少しでも攻撃を喰らえば多分死ぬ!!だけど俺はこの欲望を抑えられない!!やっぱりダンジョンは最高だ!!」


 そう言いながらも前脚を刺されて激昂したレッサーフェンリルの攻撃を紙一重で避けながらナイフで反撃をしている。


「あれは何……?笑って……レッサーフェンリル相手に1人で……」


「翼様、あの少年はお知り合いでしょうか?」


「い、いえ、あのような方に覚えは……」


「我々も援護に入りますか?」


「やめておきましょう、彼の足手纏いになるだけです」


 そんな会話の間もカザミとレッサーフェンリルによる攻防は続いていた。カザミに外傷はないが体力の消耗が激しく、レッサーフェンリルは身体のあちこちに切り傷をつけられている。


「ワォォォォン!!!」


 レッサーフェンリルが遠吠えをあげると身体中に青色の風のようなものを纏い出す。


「第二形態ってところかなっ!」


 ナイフを逆手に持ち替え、攻撃を仕掛けようとする。


「ダメ!!その風は!!」


「ぐっ……痛いなこれ……少し引くか、時間を稼げ!シャドウウルフ!!」


ナイフを持っていたカザミの右手がレッサーフェンリルの脇腹を刺そうとした瞬間レッサーフェンリルの纏う風が活性化しカザミの右腕をズタズタに切り裂いた。


 カザミは一度体制を立て直すために【絶対服従】のスキルを使いシャドウウルフを呼び出し足止めを命じる。


「符術、活性治癒(かっせいちゆ)!!」


「お、傷が塞がっていく。お姉さんありがとう、じゃあもう一回行ってくるね!!」


「お待ちください!1人でアレの相手など!それにあのシャドウウルフは一体どこから……何故かレッサーフェンリルの相手をしているようですが」


「あれは俺のペットだから気にしないで。それより確かにアイツの相手は1人じゃ厳しいかも知れないからお姉さん手伝ってよ。あっちの人達はちょっと役不足だからさ」


「アレはAランクですよ!あなたのランクは知りませんが、わたくしはCランク、敵うはずがありません!」


「そう?でもアイツ逃してくれないみたいだけど」


 その瞬間、カザミの脇を鋭い風が走る。首を軽く動かして風の弾丸を避けたが弾丸が命中した岩肌は大きく抉られている。


「ほら?どうするの?お姉さんが無理なら俺1人で行くけど」


「分かりました!!わたくしも覚悟を決めます!ただ!わたくしは後衛タイプですので、危険な前衛は貴方とシャドウウルフに任せますよ」


「もちろん。じゃあ俺もお姉さんの覚悟に報いるために手札をいくつか切るよ」


「【身体再生】、オン。【利己主義】」


 カザミは身体再生のスキルを稼働状態に切り替え、利己主義によって世界を自分の思うように歪める。


「その大剣……一体どこから?アイテムボックスですか?」


 右手に持っていたナイフが粒子となり消え、再度粒子が集まるとカザミの手には身長以上に大きな大剣が現れた。


「なるほど……大剣術のステータス補正はこんなものか」


「あの!大剣がどこからとかはもうこの際良いんですが、貴方の得物は短剣ではないのですか?」


「俺は大体の武器なら同じ水準で扱えるよ。大剣はなんなら得意な方だから安心して」


 カザミが軽い素振りをするとその太刀筋を見た着物の女性が多少の安堵を見せる。


「それなら大丈夫そうですね、では……参りましょうか」


「じゃあ援護は頼むよ、お姉さん!」


 そう言ってカザミは大剣を構え飛び出していく。大剣を持っているとは思えない程に俊敏な動きにはAランクのレッサーフェンリルと言えども中々動きを捉えられずにいた。


「ガルルッ!!」


 カザミをしつこく追い回すレッサーフェンリル、その隙を【絶対服従】のスキルでステータスに補正を受けたシャドウウルフが目ざとく捉え、後ろ脚に【影転移】すると同時に噛みついた。


「ナイスだ!シャドウウルフ!」


「符術、球体炎舞(きゅうたいえんぶ)


 無数の呪符がレッサーフェンリルを取り囲む。


「顕現!!」


 無数の呪符はその全てが丸い炎へと姿を変え、レッサーフェンリルを弄ぶようにクルクルと舞い続ける。如何にAランクのモンスターと言えども鬱陶しさには勝てず炎を薙ぎ払おうとするが、触れるたびにその毛皮を焦がされていく。


「いいね!お姉さん!俺も負けてられないな、【魔法剣】【黒炎魔法】せやああぁっ!」


 カザミは手に持つ大剣に黒い炎を纏わせると大きく振りかぶりレッサーフェンリルの前脚を切り落とした。


「ワォォォォン!!」


 レッサーフェンリルは高らかに遠吠えをあげる。するとその身体から全方位に向けて鋭い風の刃をはなった。


「痛いなぁこれ、でももう怯んだりしない。終わりだ」


 無数の風刃を身体中に受け深い傷と大量の出血をするカザミだったが、数秒後には傷は塞がっており反撃に移っていた。


「【魔法剣】【黒炎魔法】戦技、【オーバースラッシュ】!!」


 手に持つ大剣へ先ほどよりも強い黒炎を宿し、大剣術スキルの戦技を重ねる。オーバースラッシュは自身の体力を削る代わりにその一撃の威力を底上げするものだ。


 共に戦う1匹と1人の援護によりその斬撃は避けらる事なくレッサーフェンリルの首筋を捉え、一刀の元に切断した。


「ハハハハ!!たまらない!これだよ!こう言う戦闘がずっとしたかったんだ!俺はこのために生まれてきたんだと断言できる!!」


「そんな……わたくしと歳も大して変わらない様ですのに、レッサーフェンリルを倒してしまうなんて……」


 信じられないものを見る様な瞳でカザミを見つめる着物の女性。見つめられているカザミはレッサーフェンリルとの激闘の余韻に浸り、自分の世界へと入り込んでしまっていた。


「ああ……こんなに幸せで良いのかな」


 


矢白 風見

 年齢 16

 性別 男性

 職業 エゴイスト

 称号 イレギュラー

 レベル 36


 体力 B

 腕力 B

 防御力 B

 速さ A

 魔力 B+

 運 SSS

 《職業技能》

 【技能略奪】 LV2

 【利己主義】 LV2

 【絶対服従】 LV2

 《特殊技能》

 【共鳴】

 【経験値10倍】

 【成長値10倍】

 《略奪技能》

 【影転移】  LV1

 【大剣術】  LV2

 【黒炎魔法】 LV2

 【身体再生】 LV3

 【魔法剣】 LV2

 《眷属一覧》

 【シャドウウルフ】LV34


 【イレギュラー】

 世界の理に縛られない者。

 この称号を持つギフターは通常のギフターとは違った成長をする。


 

 


 


 


 



 


 


 


 


 


 


 

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