7話「おはようございます。若奥様」
「おはようございます、若奥様」
「「「おはようございます、若奥様」」」
「はい? 若奥様?? 誰が??」
食堂に朝食を食べに行くと、使用人の方々が勢ぞろいしていて、一斉に頭を下げられた。
もしかして、まだ寝ぼけてる??
それとも寝ている間に異世界に迷い込んだ?
私は朝起きてからの行動を振り返ることにした。
早朝、メイドさんが起こしに来てくれて、着替えや、ヘアメイクや化粧を手伝ってくれた。
公爵家のメイドさんのヘアメイクや化粧の腕は一流で、彼女達にメイクアップされた私は、見た目だけなら貴婦人だった、
昨日エステの後に鏡を見たときも驚いたけど、なかなか鏡に映る自分に慣れない。
きちんとブラッシングされた髪の毛はサラサラと流れ、昨日まで枝毛の多いボサボサ頭だったとはとても思えない。
公爵家の美容液やメイドさんのメイクの腕が良いから、目の下のくまは綺麗に消えていた。
ぐっすり眠ったせいか、美味しい物を食べたせいか、肌色も良い。
唇もつやつやしている。
「次はドレスを選びましょう」
メイドさんが部屋の中にドレスを運び込んできた。
「こちらなど、若様の好みに合うかと存じます」
「じゃあ、それで」
紫色のドレスがエリオット君の好みらしく、メイドさんが勧めて来たのでそれを着た。
昨日私が着ていたのとは、また別のデザインのドレスだ。
私の服はまだグリーニングから戻って来ないのかな?
エリオット君はプレゼントすると言ってくれたけど、こんな高価なものは受け取れない。
借り物の服だと思って着ていると肩が凝るのよね。
食事の時も、ドレッシングやスープをこぼさないように気を使うし。
ボロでも自分の服が恋しい。
ふと、実家にいたときからこんな風に着飾っていれば四度も婚約破棄されることはなかったのかな? と考えてしまう。
両親が私の事を平等に愛していてくれれば、
妹達に可愛い服やアクセサリーを奪われなければ、
父と兄が筋肉馬鹿でなくきちんと領地経営していてくれれば、
母が浪費家でなければ……。
私は仕事に忙殺されることもなく、
祖母のお下がりを着ることもなく、
節約の為にシャンプーやトリートメントをケチることもなく、
伯爵家のお嬢様らしく暮らせていたのだろうか?
一度目の婚約者と結婚できていたのだろうか?
…………過ぎた事を考えても仕方ない。
時間は巻き戻らないし、過去は変えられない、家族が変わることもない。
私が変化していくしかないのだ。
今日はエリオット君に、新しい仕事を紹介して貰う事になっている。
気持ちを切り替えていこう。
「あの、私の新しい仕事ってどんな仕事なんでしょうか?」
身支度を手伝ってくれたメイドさんに尋ねた。
「それは食堂に行けば分かると存じます」
メイドさんはそれだけ言うと部屋から出ていった。
朝食の時にエリオット君が教えてくれるってことかな?
ロブスターとかキャビアとかサーモンとかローストビーフとか牡蠣とか出るのかな?
もう二度と食べる機会がないかもしれないし、沢山食べておこう。
腹が空いては戦……ならぬ仕事はできぬってね!
私はわくわくした気持ちで食堂に向かった。
「おはようございます、若奥様」
「「「おはようございます、若奥様」」」
「はい? 若奥様?? 誰が??」
食堂に朝食を食べに行くと、使用人の方々が勢ぞろいしていて、一斉に頭を下げられた。
そして、冒頭に戻る。
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