31話「嫌な予感」王太子視点
王太子視点
「殿下、こちらがお探しの資料です」
「ありがとう、そこに置いといて」
僕の机の上には書類の山。
その中の一枚とにらめっこしながら、僕はため息をついた。
最近王都では未婚の女性を狙った事件が起きている。
貴族の女性が通りで声をかけられ、その後裏路地で倒れているという事件だ。
被害者は声をかけられた時から倒れていた間の記憶がない。
そしてなぜか右腕の袖が破れている。
金品を奪われた形跡も、暴行を受けた形跡も、いたずらをされた形跡もない。
犯人が袖フェチで袖を持ち去っているとかならまだわかるのだが、袖は被害者の近くに捨てられていた。
他にも同様の事件の目撃情報があるのだが……。
被害者が未婚の貴族女性なのもあって、醜聞を恐れた家族が被害届を出さない。
なので情報が集まらず事件が難航している。
被害にあってる女性は一人や二人ではないと思うんだけどね。
そういえば、今日はエリオットの公爵就任お披露目パーティーの日だった。
王太子の俺がパーティーに参加するとしないでは、パーティーの箔が違ってくる。
なるべくなら参加したい。
だけどこの事件をうやむやにしてはいけないと、僕の王太子としての勘が告げている。
「殿下、二件目と三件目の被害者の身元が割れました。
被害に遭われたのは、ハモンド男爵令嬢とハーレイ子爵令嬢です」
「そうかご苦労だったね」
これで事件解決に一歩近づいた。
僕は部下から渡された事件の資料を見て息を飲んだ。
一件目の被害者はアマンダ・ハリス子爵令嬢。
二件目の被害者はアミーナ・ハモンド男爵令嬢。
三件目の被害者はアミシャ・ハーレイ子爵令嬢。
彼女たちの特徴は茶色の髪に黒い瞳。
年齢は二十歳前後。
全員右腕の袖を破られて路地に倒れていた。
彼女たちのイニシャルは全員「A・H」だ。そして愛称はおそらく 「アミー」
これは偶然なのか?
そういえばベルフォート公爵夫人の結婚前の名前は、アメリー・ハリボーテだったな。
彼女の髪の色は茶色、瞳の色は黒……。
「ちょっと席を外す」
僕は立ち上がり、コートラックにかけておいたジャケットを羽織った。
「殿下、どちらへ?」
「エリオットのパーティーに行ってくる!
嫌な予感がするんだ!」
僕は今回だけはその予感が外れてくれることを願った。




