19話「作戦会議とエリオットの友人」
「作戦会議をしましょう。
二週間後に俺の友人の小さなパーティーがあります。
そこに彼らを招待し、彼らの嘘を暴き、痛い目を見せてやりましょう。
アメリー様は俺の友人のもとで新作の刺繍と、お菓子と、詩を作り、絵を描いてください。
友人と友人の家の使用人が、あなたが一から作品を作ったことを証明してくれます」
今日は土曜日。
エリオット君の学校は休みだった。
昨夜彼がなかなか目覚めないので、家令さんを呼んで彼をベッドに運んでもらった。
家令さんはソファーで倒れてるエリオット君を見て、涙ぐんでいた。
「坊ちゃま、勇気を見せましたね。
ですが坊ちゃまが、誠に大人になるのはもう少し先だったようですね」
私には家令さんが何を言いたかったのかよくわからない。
この家の隠語か何かだろうか?
翌日、朝食の席で会ったエリオット君は普段の冷静さを取り戻していた。
だけど私と目が合うと頬を絡めてさっと逸らしてしまう。
七歳までおねしょしてたとか、そういう恥ずかしい秘密を知られた相手と目を合わせるのは、辛いよね。
私は彼をそっとしておくことにした。
朝食の後、公爵家の仕事を済ませ、彼の部屋で作戦会議をすることになった。
妹や弟は生まれながらの二枚舌。
盗作を追求したところで、言い逃れされてしまうに違いない。
そうならないためにも、奴らを罠にはめ、墓穴を掘らせなくてはいけないのだ。
「俺は両親に会いに行きます。
今のままではあなたを守りきれませんから」
エリオット君のご両親である公爵夫妻は、体を患い王都近郊にある別荘で療養している。
彼の目には、今までに見たことのない決意の色が宿っていた。
そういう目をした時の彼は年よりも大人っぽく見えて、私は不覚にもかっこいいなと思ってしまった。
いや、彼は美少年だし元々かっこいいんだけども……どっちかと言うと可愛い部類で……って誰に言い訳してるんだけど私は。
「これから忙しくなるね。
エリオット君とあまり一緒にいられなくなっちゃうね」
私がそう言うと彼は瞳をうるうるさせた。
「絶対絶対絶対一日に数分でも、アメリー様と一緒にいられる時間を作りますから!」
そういう顔をするとやっぱり子供っぽいんだよね。
「この件が片付いたらたくさん時間ができるから、だから泣かないの」
私は彼の頭をポンポンと撫でた。
昨日彼の頭を撫でた時、彼に手を握られてしまったことを思い出し、すぐに引っ込めた。
あの時彼は真剣な目をしていた。彼は私に何を伝えようとしていたのだろう?
あの時の彼の表情を思い出すと少しだけ胸がドキドキした。
◇◇◇◇◇◇◇
それからは忙しい日々が続いている。
私は午前中に公爵家の仕事を済ませ、午後はエリオット君の友人の家で作品作りに明け暮れた。
エリオットくんの家もかなり大きかったけど、彼の友人の家はさらに大きかった。
そんなに大きな御屋敷のに本邸ではなく、別邸だという
エリオット君の友人はどれだけお金持ちなのだろうか?
彼の友人は忙しいらしく、最初に挨拶しただけで、ほとんど現れることはなかった。
エリオットくんの話では、彼の友人の家の使用人はかなり信頼がおける人達なので、彼女たちが作品作りに立ち会ってくれるだけでも、私が一から作品を作った十分な証拠になるという。
エリオット君は友人に私を紹介する時、「俺の大切な人なんで、絶対絶対絶対絶対に手を出さないでくださいね!」 と念を押していた。
恥ずかしいので、そういうことはやめてほしい。
彼の友人はエリオット君と同い年ぐらいの男の子だった。
彼くらいの年齢の子が、私ぐらいの年齢の女性に興味を示すなんて思えないんだけどな?
それよりエリオット君が言った「俺の大切な人」という言葉が気になる。
「俺の大切な姉上の友人」という意味だろうか?
というか、それ以外考えられない。
でも彼の友人の顔、どこかで見たことがある気がするんだよね?
うーん、どこだったかな? 思い出せないな。
エリオット君が同年代の友人に敬語を使ってるのも気になるけど、そのうちわかることだから、今は考えないようにしよう。
今は作品作りに集中しないとね!
パーティーに来た皆を唸らせる物を作らなくちゃ!
私が作品作りに明け暮れている頃、エリオット君はと言うと、王都近郊にある彼の両親のいる別荘に、毎日のように通っていた。
彼には学校もあるので、学校が終わってから通うので帰りは深夜になった。
週末は泊まりがけで公爵夫妻のもとに通っていた。
無理をして体を壊さないといいけど。
そしてパーティーの前日、私の作品は完成した。
刺繍も、詩も、絵も今までで最高の出来だった。
お菓子についてはパーティー当日にもいくつか作らなくてはいけないので、まだ気を抜けない。
パーティーの前日、深夜に帰宅した エリオット君は満面の笑みを浮かべていた。
彼は「やっと両親から了承を得られました! これであなたを守れます!」と言っていた。
エリオット君は何の為にご両親のもとへ通っていたのだろう?
でもきっと彼がそこまでしたんだから とても大事なことなのだろう。
私はエリオット君を信じることにした。
こうして私達は、エリオット君の友人の家で開かれるパーティー当日を迎えた。
家を出る時に家令さんから「いってらっしゃいませ。旦那様、奥様」と言われた。
その言葉の意味に私が気づくのはもう少し後のことだ。
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