13話「暇なので何かさせてください」
【お詫びとお知らせ】
※長い間更新を滞らせて申し訳ありませんでした。
今日から投稿を再開します。
今度はちゃんと完結させますのでご安心ください。
全38話。約125,000文字。最終話まで予約投稿済みです。
※1〜12話まで加筆修正しました。
※下記の登場人物の名前を変更いたしました。
同じような名前のキャラばかりで、頭が混乱して、執筆の妨げになっていたので、変更させていただきました。
・イメリー→ヘレナ
・ウメリー→クラリッサ
・エメリー→イザベラ
・オメリー→カシウス
・カメリー→ブリジッタ
※後半シリアスな話になったので、公爵家の名前を変更しました。
・キラキラビーケイ公爵家→ベルフォート公爵家
アメリー視点
エリオット君と結婚して一週間が過ぎた。
朝はエリオット君と一緒にテーブルを囲みロブスターや牛フィレ肉を食べて、
エリオット君の頭を撫で撫でして学校に送り出して、
公爵家のお仕事のお手伝いをして、
昼間は鴨肉やお魚を食べて、
また公爵家のお仕事のお手伝いをして、
おやつタイム(または、おやつとティータイム)にはテラスやガゼボでマカロンやシュークリームを頂いて、
夕方には帰ってきたエリオット君をお出迎えして、
彼が学園でどんな風に過ごしたのかお話を聞いて、
夕食はエリオット君と一緒に子羊を食べて、
夜は彼に絵本を読んであげる。
その後はメイドさんにお風呂に入れてもらって、髪の毛をとかしてもらって、シルクのパジャマを見てふかふかのベッドで眠る。
何だろう? ここは天国かな?
今までの幸福が一度に訪れたみたい。
今日もエリオット君を送り出した後、公爵家の仕事のお手伝いをして、美味しいランチを頂いていた。
カナール・ロティが絶品!
オーブンで焼いた鴨の皮のパリッとした食感がたまらない。
公爵家が独自に開発したという、果実ソースと合わせるとまたいいんだよね。
こんなに美味しいものをご馳走していただいてるんだから、午後も一生懸命 働かなくちゃ!
「家令さん、午後のお仕事についてなんですけど」
「若奥様は午前中に全てのお仕事をこなしてしまわれました。
今日の午後は庭園を散策などし、ゆっくりとお過ごしください」
えっそうなんだ?
公爵家の領地経営のお仕事は、伯爵家のものよりも難しい。
だけど家令さんもエリオット君も手伝ってくれるから、それほど負担には感じなかった。
仕事の合間に甥っ子たちのお菓子や服を作ったりしなくて良いので、集中して仕事に取り組めるのも大きい。
妹達が突然訪ねてきて、ハンカチに刺繍をしてくれだの、新しいお菓子のアイデアを考えてだの言われない分、ストレスも少ない。
ゆっくりしてと言われても、やることがないと落ち着かないな。
そういえば今日はエリオット君、いつもより早く帰宅するって言ってたな。
彼は学校から帰ってくるたびに「あなたの美しさには遠く及びませんが」と言って薔薇の花束をくれたり、
「アメリーの瞳の色の黒真珠のブレスレットです。あなたに似合うと思って買ってきました」と言って、ブレスレットやネックレスをプレゼントしてくれる。
初日にたくさんドレスやアクセサリーを買ってもらったのに、これ以上物を貰うわけにはいけないんだけど、私がプレゼントを受け取らないと、彼は捨てられた子猫のような顔をするのだ。
あの顔をされると弱いんだよね。
彼は「俺の気持ちですから気にしないでください」と言うが、それでも貰いっぱなしというわけにはいかない。
私にできることで何か恩返しをしたい。
そうだ!
「家令さんキッチンを貸してもらえますか?
それと裁縫道具と絵の具も」
私からも彼に何かプレゼントしよう。
お金がかからないものだけど、喜んでくれるといいな。
「おかえりなさい。エリオット君」
「ただいまアメリー様」
やはり美少年を出迎えられるというのは、何度経験しても楽しいものだ。
彼のふわふわの髪を撫でると、彼は喉を撫でられた時は子猫のように目を細めた。
至福の時だ。
「花屋の前を通りかかった時、愛らしいチューリップが咲いていました。
アメリー様の可憐さには遠く及びませんが受け取ってください」
そう言って彼は真っ赤なチューリップの花束を私に手渡した。
彼はどこでこのような歯が浮くような言葉を覚えてきたのだろう?
彼にとっては 私は姉のような存在。
彼にとってこのプレゼントを渡す行為は、本当に好きな人ができた時のための予行演習なのかもしれない。
そう考えた時、ちょっとだけ胸がチクンとした。
だけどなぜ胸が痛むのか、その理由はわからない。
彼にはお世話になってるんだから、口説き文句の練習台ぐらいにはなってあげよう。
「ありがとう嬉しいよ。部屋に飾るね」
私がそう言うと、彼は天使のような笑顔を見せた。
今の笑顔を絵に描いて額に入れて飾っておきたい。
三年間とはいえ、この笑顔を独占できるのは大きい。
それにしても、この家は居心地がよすぎる。
エリオット君はいい子だし、家令さんもメイドさんも優しいし、シェフの料理はおいしいし。
三年後、エリオット君と離縁してこの家から出ていくことができるかな?
今から少しだけ心配になってしまった。
「そうだエリオット君には私からもプレゼントがあるんだよ。
一緒に来て」
チューリップをメイドさんに渡し、私は彼の手を引いて庭に連れ出した。
「アメリー様と手をつないでしまった……尊い」
エリオット君が小声でボソボソと何か呟いている。
ババアの手はガサガサしてるな……とかじゃないといいな。
実家にいたときならともかく、ここに来て毎日高級クリーム塗ってもらえるので、 私の手荒れもだいぶ改善したはず。
もうガサガサ肌ではないはず……多分。
「じゃーん!
毎日学校の勉強と公爵家のお仕事でお疲れのエリオット君に、寛いでもらおうと思って、お菓子作りました〜〜!」
ガゼボには白いテーブルクロスが敷かれたテーブルと、座りやすい椅子が設置されていた。
テーブルの上には花が飾られ、ケーキスタンドが並べられ、ティーセットが用意されていた。
「もっとも私の用意したのはお菓子だけで、セッティングはメイドさんたちの手伝ってもらったんだけどね」
エリオット君の反応はない。
私が自分の年齢を考えずに「じゃーん」なんて言ったから引かれたのかな?
エリオット君を見るとプルプルと小刻みに震えていた。
「エリオット君?
大丈夫、具合悪い?」
「い、いえそうじゃないです……!
嬉しくて……つい!」
エリオット君は顔を真っ赤にしていた。
彼の瞳には涙もうっすら 浮かんでいた。
どうしよう!? 年下の美少年を泣かしてしまった!
もしかして高位貴族の彼は、家族の手作り料理になれてないのかな?
「わーー!
ごめんね!
エリオット君が泣くと思わなくて……!」
「アメリー様のせいではありません! あなたに手作りのお菓子を作ってもらえたことが、本当に嬉しくて……!」
手作りのお菓子でこんなに感激されるとは思わなかった。
どうしよう。あと二つプレゼントが残ってるんだけど渡しにくいなぁ。
エリオット君のご両親は療養のために家を開けてる。
彼の姉はとっくの昔に嫁いでしまった。
十六歳のエリオット君がこんな大きな家を一人で任されて、大変だったよね。
「エリオット君。
今まで一人で大変だったね。
これからは私がエリオット君の力になるから泣かないで!」
エリオット君を励ます為に彼の手をギュッと握りしめた。
彼は耳まで赤くしていた。手を強く握りすぎたせいで痛かったのかな?
「ありがとうございます。アメリー様」
エリオット君にハグされてしまった。
今までに婚約者は四人もいたけど……ハグされたことなんてなかった気がする。
エリオット君は六つも年下で……。
恋愛対象なんかじゃなくて……。
弟みたいなもので……。
彼の顔は目の保養にはなるけど、それは動物を可愛がるみたいなもので……。
それなのに彼に抱きしめられて、どうしてこんなにドキドキしてるんだろう?
これだってきっと、彼にとっては家族に対する愛情表現みたいなものなのに……私だけドキドキしてるなんて恥ずかしい。
エリオット君は背が高くなったんだな。私と頭一つ分ぐらい違うや。
腕もたくましくなったみたい。
抱きしめられて気づいたけど、胸板も厚くてしっかりしてる。
エリオット君も男の子なんだよね。
最初に出会った時のあどけなかった少年じゃないんだよね。
そんなことわかっていたはずなのに……。
こうして現実を突きつけられると動揺を隠せない。
「エリオット君……苦しいよ」
本当はそんなに強く抱きしめられてないから苦しくはなかったんだけど、そうでも言わないと離してもらえなさそうで……。
これ以上彼に抱きしめられていたら、おかしくなりそうで……耐えられなかった。
「あ、すいません!
つい感極まって……!」
「あーうん、分かってる。
私は大丈夫だから、気にしないで……!」
エリオット君の顔が見れない。
今顔を上げたら、真っ赤になってるのが知られてしまうから。
読んで下さりありがとうございます。
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