pm5:48
ポーン。
駅の構内に間の抜けたアナウンスが響いた。
列車がもうすぐホームに到着するらしい。
陽が傾き、仄温かい光が差し込み、僕は一瞬目を閉じた。手を目の前に遣り、光を覆い隠す。
この時間に太陽が沈むのを見るのも、今日が最後なんだな。
そう思うと、これから行く場所が少し怖くなる。まだ誰も訪れたことのない、未知の世界。
足元には、光を遮る柱の影が伸びて、僕の足をその場に縫い付けているようにも見えた。動くな、と言われているような気がして、そう思ったことを不思議に思いながらも、影を振り払うようにチープな青い席を立った。
目指すのはホームの一番端。列車が来る側。
そう復唱しながら足を動かしていく。
もう影は纏わりついていないはずなのに、どんどんその歩みは遅くなっていく。
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。
遠くの方から重たい音が聞こえてきた。
「これから僕を殺す」
ようやくその場所にたどり着いたときには、列車は既に十数メートルのところにまで迫っていた。
陽が赤い。
柱は白いペンキで塗装されていて、ベンチは青い。
コンクリは灰色で、ガラスは透明。
僕は?
目と鼻の先の、巨大な鉄の塊の前に身を投げ出せば、その答えは見つかる気がした。僕ではない誰かが見つけてくれる気がした。