用語集
はじめに
この用語集は、「歯車式の鉄血戦記」に登場する、キャラクターやメカ、基本設定などを解説したものです。
しかし、基本的に、用語については、小説本編中でも説明しています。ですから「この用語集を読まないと本編を理解できない」といったことは、全くありません。
本編を読んでいる最中に「あれ? この用語ってどういう設定だったっけ?」などと、記憶が混乱した場合に、参考にしていただくだけでけっこうです。
1.キャラクター
●ケイ・ボルガ
本編の主人公。15歳。都市国家フォトランの売春宿「夜と嘘」で、カードゲーム「コスタ・ゾロディア」のディーラーをしている。人間と妖精族とのハーフであるため、男性だが女性と見分けがつかない容姿である。
出世欲など全くなく、「凡人は分をわきまえて平凡に生きるのが一番」が信条。
『勘違いするなよ、僕は主人公じゃない』
●シオン・ベル
出自不明の美女。氷の魔剣「風花姫」を操る魔剣士。売春宿「夜と嘘」の用心棒をしながら、同時に、さまざまな依頼を金で請け負う「冒険者」を開業している。ケイの剣の師匠。
剣術の流派は、イクスファウナの古式剣術「桜花水明流」。
『これは私の不肖の弟子じゃ。不肖の弟子とは、師匠にちっとも似ておらん弟子という意味じゃ』
●テアロマ姫
フォトランの南の海に浮かぶ島国「イクスファウナ」の姫君。政争の末に陰謀に巻き込まれた女王を救うため、魔剣士シオンに助力を求めてフォトランにやって来た。身長が低いのがコンプレックスらしい。趣味は料理で、その腕前はプロのコック並みである。
『だけど私のお風呂をのぞいたもん! のぞいたのぞいたのぞいたもん!』
●アンドリュー
分厚い板金鎧に身を包んだ、身長3メートル以上の謎の巨漢。「テアロマ姫の護衛役である巨人族」だと言われているが……。
『姫に何かスケベなことをするときには! ぜひとも、私も、呼んでくれたまえ!』
●コロネット
イクスファウナ王国に雇われている整備士の女性。種族はダークエルフ。最新鋭の歯車式強化外骨格<エントーマβ>に入れ込んでいるようだ。
『きみきみ、ちょっとちょっと、私のおすすめはこれだね。高速切削型の武装だよ! ラウンドソー・ソード!』
●パイオン男爵
イクスファウナ王国の貴族。といっても貴族の血筋ではなく、南洋貿易で財を成し、爵位を金で買った成り上がり者である。しかし、女王陛下の典医を務めており、王家の信頼は厚い。
●クリステロス3世
南の海に浮かぶ島国、イクスファウナ王国の女王。テアロマ姫とシオンの姉である。旧態依然とした国家体制を改革しようと試みるが、それを妨害しようとする守旧派と政治的に対立する。
●デウズス
「あざけりのデウズス」の二つ名を持つ傭兵。魔剣士であり、無塗装で一つ目の特徴ある機体に乗っている。イクスファウナの守旧派|(反女王派)に雇われ、テアロマ姫を追跡したりなど、さまざまな妨害工作を引き受けている。
剣術の流派は、西方の「ディメンス流突撃剣術」。
『心意の悉くを先んじて滅潰す!』
2.メカ
●歯車式強化外骨格
略称、戦列機。
この作品の主役ロボット兵器。身長は4~5メートル程度で、一人乗りの戦闘用ロボットである。数十年前に歴史に登場し、その圧倒的な破壊力と防御力で、馬に乗る騎士から戦場の主役を奪った。
動力源は「魔石エンジン」と呼ばれる無限機関である。燃料などは必要としないが、エンジンを回すには、「魔剣」とシンクロしている「魔剣士」が必要である。この「魔剣」を、エンジンのソケットに挿入することで、機関を始動できる。
魔石エンジンからの出力は、軸動力である。これを歯車やチェーンなどで四肢に伝達することで、機体が動作する。
操縦系も機械式で、機体に乗り込んだ魔剣士の動作が、レバーやペダルなどで機械式制御装置に伝達され、機体が同じように動く。つまり、基本的にはパワードスーツと同じである。
補助的に、機軸ジャイロと呼ばれるフライホイールが機体股間部にあり、機械式制御でバランスを取る。
装甲は、鋼鉄である。圧延鋼板を溶接した構造、もしくは鋳造で、衝撃を内骨格に伝えないように、ばねなどを介して機体に取り付けられている。
この作品世界には、火薬を使った「火器」は存在しない。武装は、人間が使うのと同じ、剣や槍、斧などが基本である。ただし、機体の駆動軸に接続して使う、チェーンソーやクローアーム、機械式の連射ボウガンなども存在する。
●拍車滑走
脚部には、拍車滑走機構と呼ばれる車輪が装備されている。使用時には、脚部が変形し、足首の部分が収納されてタイヤに置き換わる。これを使用することで、駆動系や搭乗者に負担をかけずに長距離を移動できる。
●エントーマβ(仮称)
主人公機。イクスファウナの女王が巨財を投じて開発させた、最新鋭機である。人間工学的な発想で設計されており、人間の筋収縮の特性を駆動系の設計に反映させたり、手足の末節部分に新素材である「軽金属」を使用することで重量バランスを人体に近づけたり、といった工夫がなされている。
「戦列機に乗ったことのないド素人でも、練習しないですぐに闘技場に立てる」などと言われていたが、その卓越した操縦性は、奇しくも本編主人公によって実証されることになった。
欠点は、設計がデリケートすぎて、重装甲化などの改装に対応できないこと。
●ハイヤット
イクスファウナの主力機。<エントーマβ>の開発ベースとなった機体で、やはり人間工学的な配慮がなされた、パワーよりも操縦性を重視した設計である。特に、イクスファウナ伝統の、両手剣の剣術を再現しやすいように設計されている。
●メテオール
ドルトビットラントの誇る名機。腕に自信のある傭兵や騎士が好むという強力な機体で、「斬撃を放つ瞬間の最大出力」を重視した、大剣やハンマーなどの重い武器を振り回すのに向いた設計である。その代わり、操縦の難易度は高い。
エンジンの載せ換えなどの改造にも対応しやすく、カスタムパーツも多数市販されている。
●ガルグイユ
ノルマニー共和国の重量級最新鋭機。
「ハイドロニューマチック・サスペンション」を使用して、機械式制御で、負荷に応じて機体の反発力が自動的に調節される複雑な機構を持っている。
普通の機体では、強力な相手と組み合ったときには、関節ブレーキやギヤチェンジなどで機体の反発力を調節する技術が必要。<ガルグイユ>なら、そういう部分をある程度自動的にやってくれるので、未熟な魔剣士でも戦いやすい。
この機体の特性のおかげで、共和国は、練度の低い魔剣士が多いにわか軍隊でも、反革命連合の干渉をはねのけて独立と革命体制を維持できた。まさに「革命を守った鋼の壁」である。しかし、さすがに高価すぎるようで、次世代機ではコスト削減が求められているらしい。
●エスポイド
エントーマ系やメテオール系に比べると、世代的には一つ前。操縦性もパワーも標準的で、同世代の機種に比べて特に優れている部分はない。
しかし、設計者が前線で活躍した整備士だったので、細かい部分で整備性にこだわった設計になっていて、非常に保守点検がしやすい。また、経験的に構造の弱点と思われる部分を徹底的に改善してあり、故障しにくい機体でもある。
●剣術
戦列機は、搭乗した魔剣士の肉体の動作をそのまま増幅する仕組みなので、基本的には、生身で身に付けた剣術を応用できる。剣術の方も、戦列機の操縦に合わせて進歩している流派もあるようだ。
●機旋技
剣術とは別に、戦列機の機械的な仕組みを応用した「マシンのための戦闘技術」を「機旋技」と呼ぶ。
・機操術
全ての基本となる、機体を自分の肉体として操る技術。
状況に応じてギヤチェンジし、つばぜり合いのためにトルクを上げたり、逆に通常よりも高速で動いたりする技術もここに含まれる。
・速刃刺斬術
鋭い剣や槍などによって、装甲の隙間や関節などの弱点を狙う基本戦術。車輪走行やフットワークを駆使した一撃離脱戦法と、組み付いて相手を押し倒してから弱点を貫く格闘術系に分かれる。従来は後者のほうが実戦的とされていたが、機体性能の向上により、最近は前者が注目されるようになってきた。
・重壊殴術
ウォーハンマーやナックル系の武器など、刃の付いていない打撃系の武器を使う技術。衝撃で内部の騎士を気絶させるような技が多い。達人の技は、機体の防御力を無視して内部の人体を破壊できるほどの領域に達すると言われており、常識の通用しない脅威となり得る。
・機軸旋回術
機体の胴体中央部に内蔵された「機軸ジャイロ」を使って、回転モーメントを生み出し、それを利用してフェイントをかけたり、通常では不可能な動きで攻撃する技術。
本来、「機旋技」とはこの技術を指す言葉だったが、現在では「生身の剣術とは異なる、戦列機ならではの戦闘技術全般」を意味する言葉になっている。
・拍車走衝術
車輪走行を利用した、長槍などによる突撃戦術。基本戦術の一つとされるが、難易度は比較的高い。
・機構蓄力術
トランスミッションなどに内蔵されたフライホイールや、駆動系または武装に組み込まれたばねなどにエネルギーを蓄積し、一気に解放することで強力な攻撃を行う技術。当然、個人ごとの技に合わせた機体の改造・調整が必要になる。かなり難易度は高いうえに、機体に多大な負荷を掛けるのが最大の欠点。
・機障壊技
関節への殴打や、敵の四肢をホールドしての関節技などで、駆動系の損傷を誘発する技術。機種ごとの構造的な弱点をつく技なので、メカニズムに対する深い知識と、正確で繊細な動きが要求される。生身の格闘技の関節技と共通点は多いが、同一の技術とは言えない。
防御力の高い相手に対して有効な反面、使える局面や相手が限られ、難易度も高いため、あまり一般的な技術ではない。また、こうした技に対抗して、弱点となるメカニズムの改良もよく行われる。
3.世界・地理
●フォトラン
ロム半島の独立自由都市群の一つである、交易都市。都市群「ロムの妹の首飾り」の中では一番南に位置しており、「竜骨街道」を南下すると、すぐに南の海とイクスファウナ列島である。
黒い木材の木組みで白い石壁を飾った、美しい町並みが特徴。
主人公ケイが住み込みで働く売春宿「夜と嘘」は、ここの歓楽街にある。
●ヴェルデン
フォトランと同じく、ロム半島の独立自由都市群の一つである、商業都市。大きな港や市場があり、南方の植民地との貿易拠点でもある。
淡いパステルカラーの、石造りの建物が特徴。
巨大な「闘技場」が建設されてからは、トーナメントの拠点として、莫大な富と欲望を集中させることとなった。
●イクスファウナ
ロム半島の南「凪の内海」に浮かぶ、列島からなる島国。大陸側とは違う、独自性の強い文化を持つ。テアロマ姫やシオンの出身地。自然が豊かで、おいしい米の産地。
主力戦列機は<ハイヤット>。
●ノルマニー共和国
ロム半島のさらに北に位置する、大陸の国家。数年前に革命が起き、王族・貴族が皆処刑されて、共和制に移行した。
主力戦列機は「革命を守った鋼の壁」<ガルグイユ>。
●ドルトビットラント王国
ノルマニー共和国の近くにある王制国家。複雑な政情を持つ。
主力戦列機は<メテオール>だが、この機体は数多くの国に輸出されており、どこでも見かける人気機種のようだ。
●昆虫大陸
はるか大洋の彼方にあると言われる、伝説の大陸。そこでは脊椎動物が完全に絶滅しており、節足動物が巨大化して、生態系の主役となっている。
古代の伝説に登場するだけで、実在は疑問視されていたが……。
●世界の基本設定
世界が球体であることは一般に知られており、異端扱いされることもない。惑星としての大きさ、重力、大気組成なども、基本的には我々の世界と同じである。月は一つ。
ただし、まるで生物種の移動を阻むかのように、標高1万メートル以上の「魔石山脈」や、高さ数百メートルの海水の壁「大波濤」などの、巨大な障壁があちこちに存在しており、世界の実相を知る者はほとんどいない。
文明レベルは、基本的には、我々の世界における中世から近世に当たる。しかし、超古代文明の遺産や、魔法などが存在しており、ごく限られた範囲だが、現代の高度な技術レベルに相当する分野もある。
●竜骨街道
この世界に広く存在する、白い路面の街道。数万年以上前に滅亡した超古代文明の遺産であり、「生きていて、成長する」道である。
その路面は、すり減ったり壊れたりしても自動的に再生し、また、人口の集中している場所へ向けて自動的に(数十年単位ではあるが)延びていく。土壌中のカルシウムやケイ酸塩を吸収して栄養とし、太陽の光をエネルギー源とするため、魔力を必要としない。
道の勾配は、一定以下の傾斜になるように自律的に調整されていて、地形に起伏があるところや河川、海峡などには、巨大な竜の背骨のような構造の「橋」が形成される。ただし、トンネルは掘れないようだ。
4.魔法・技術
●魔石・魔剣
この世界では、地下から「魔石」と呼ばれる、超硬度の鉱物が得られる。魔石は、高品質の工具や金属製品の補強などに用いられるが、特に高品質の「貴魔石」の大きな結晶は、人間の魂と共振することで、魔石エンジンを作動させる動力源となる。また、精神的な鍛錬を積むことで、魔石に秘められた「魔力」を呼び出すこともできる。
魔石の結晶は、長い刀のような形状に割れることが多い。そのため、刀剣として加工される。これが「魔剣」である。
●魔剣士
魔剣と共振して魔剣士になるには、自分の魂の持っている、固有の振動数にぴったり合う、魔石の結晶を探し出す必要がある。だから、魔剣士になろうと志した者は、各地の魔石ギルドを回って、何百万本という魔剣の中から、自分と共振できる振動数の剣を探してもらうことになる。
歯車式強化外骨格は、その恐るべき破壊力で、現代の軍事力の中核となった。それゆえ、魔剣士となった者は、身分に関係なく、手柄を立てれば出世できる。「英雄の時代」の到来である。
●魔法
この世界にも「魔法」と呼ばれる技術は残っているが、超古代文明のレベルには遠く及ばない。現在では、動力源となる「魔力」がほとんど得られないからである。
この世界における魔法は、傷や病気の治療をしたり、化学的な製品を作ったりといった程度の技術である。「炎や氷の魔法を杖から発射して敵をなぎ倒す魔導士」というレベルの者もいるが、ごく少数である。彼ら大魔導士でも、戦列機を倒すほどの力はない。
●聖水
魔法使いは、基本的には、自分の精神力を魔力に変換して魔法を行使する。しかし、それではごく弱い魔法しか使えない。より強い魔法を使うために、大量の魔力をあらかじめ特殊な薬液に封じ込めたものが「聖水」と呼ばれる。
高価なものであるが、商業的に流通している。
●火薬・化石燃料
この世界には、火薬や、石油・石炭などの化石燃料は、存在しない。将来にわたっても、それらが発明されたり発見されたりすることは、おそらくない。
●カードゲーム「コスタ・ゾロディア」
古代遺跡から発見された、と言われている、魔法のカードを使ったゲーム。そのカードは、ドローするまでは無地であり、引いた瞬間にその人物の「運気」を判定して、カードの絵柄が決まる。それゆえ、占いとしての要素も持つ。
5.歴史・神話・古代文明
●超古代文明
一万年以上前に繁栄していたと言われる、高度な魔法の文明。しかし、何らかの原因で、文明を支えるエネルギー源である「魔力」が突然失われ、世界規模の魔法帝国は一夜にして崩壊したと言われている。
現在でも、その時代の巨大な遺跡は、大陸のあちこちで見られる。しかし、使用できる状態で現在まで残っているのは、「竜骨街道」だけである。
数十年前、この超古代文明時代の遺跡から、ほぼ完全な状態の「人型機動兵器」が発掘された。この兵器の駆動系だけを「現代の技術でどうにか劣化コピーした」ものが、現在の「歯車式強化外骨格」である。
●絶対王政と革命
戦列機の破壊力は戦場の様相を一変させたが、機体があまりに高価すぎるため、地方の貴族などには経済的な負担が大きすぎた。そのため、財力のある王や有力貴族だけが大量の戦列機を保有でき、旧来の「馬に乗った騎士」の軍事的な存在価値は暴落した。その結果、王だけに軍事力が集中することになり「絶対王政」の時代が到来した。
また、近代的な思想も広まりつつあり、一部の国では革命が起きている。
●宗教
主神を光の神アイシェルとする「アイシェル教」が支配的な宗教であるが、我々の世界のキリスト教ほどには政治力を持っていないようだ。
古代の神である「三邪神」、確率神ゾロ、夜の女神アルルアンケ、誤謬と狂気の神クドルオーも、現在ではアイシェル教の教義の中に取り込まれている。
6.その他
●度量衡(単位)について
厳密に考えれば、作品世界の中では、我々の世界とは異なる単位が使われているはずです。しかし、単純に分かりやすさを優先して、メートルなどの通常の単位を使用することとします。
どうしても気になる方は「あちらの世界の物語を現代日本語に翻訳するときに、単位もこちらのものに換算してある」とでもお考えください。