表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/117

56粒目『abeyance:一時的な中止、停止』バトルホストの森崎くん

『abeyance』

― 一時的な中止、停止。


語源はそばでのad+大きく口をあける、あくびをするの古英語、baer。そこに動詞を名詞にするanceを加えて、そばであくびをすること、のabayanceとなった。確かにあくびをすると手というか思考が止まる。これは万国共通なのでしょう。 ―


 さしすせそ。ホスト業界で働く僕にとって、とても大切な言葉(ツール)たちだ。


『さっさとしろよ』

これは姫にオラオラ営業の時に使う。

『しっかりしろよ。たくよお。俺がいねえと……』

これは気遣いの時に便利。

『すっげえなあ。めっちゃいいじゃん。てかもっと聴きたい。それ』

褒める時は、何が良いのか分からなくても、とりあえず言っておけば安牌(あんぱい)。あくびをこらえたくなるような姫の話も、これを言っておけば大丈夫。

『せっかくだからさ。もうちょっといろよな。てか、ほら。寂しいじゃん。言わせんなって』

離席の時にまだ姫が金を落としてない場合に、ピン止め程度だけど成績がやばい時に重宝する。

『そうそう。やっぱ分かってんなあ』

姫が僕を理解したい時に使う。


 ホストは客を姫と呼ぶ。色々大切なことはあるけれど、さしすせそを過不足なく使えるホストは大体伸びる。

 ためらったり、使いどころを間違える子は、客を太くする才能に欠けるけど、まあ大丈夫。

 客を太く、というのは、つまり大金を使わせることなんだけど、別に全員が全員、そんなことをする必要はない。4番バッターだらけの野球チームがないのと同じだ。

 要はチームワークの問題ってわけ。


『あいつ、強がってるけど、厳しいんすよね。ほら、最近あの新人、人気でしょ。エースから落ちそうで……。いや、俺はほら。雑用みたいなもんだから。でも、あいつは本当にいいやつだし、だから看板はあいつしかいないって思ってて。あー。ほら。帰ってきちゃう。いや、今月はとにかく沢山のお客様を相手した方が損得の得なんですけどねえ。あー。よほど大切なんですねえ。嬉しそうだなあ。あ、これ言わないでくださいよ。絶対言うなって言われてるんです。心配かけたくないみたいですね。だから、秘密ですよ。怒られますから』

 こういう事を姫に吹き込む時に必要とされるのは、演技力だ。

 でも大丈夫。年がら年中同じことを言ってれば、言葉に真実味だって出てくる。

 坊さんが何故毎日経をあげるのと似てる。読経の日課が、葬式の坊さんに真実味を出すんだろうなあ。冷静に考えると金もらうために死体に叫んでるだけの作業だけど、まあホストくらいには大変な仕事だと思う。


 それで、えっと何だったっけ。そうそう、ホストのさしすせそ。

 これを教えてくれたのは、会社の先輩だった。肝臓を壊して2年で辞めたけど、副業をしないかと誘ってくれたのは、あの人だった。


「えー。何で俺ですか」

「そうだなあ。森崎(もりさき)。お前、名前からして、盛り上げるのが上手そうじゃん。

 ああ、わかってる。とにかく、盛り上がるのも楽しいよな。うちの会社ってさ。飲み会いつもお通夜じゃん。けどお前は普段つまんねえけどさ。酒飲むと変わるじゃん。いきなり愛されキャラになるだろ。それ才能だぜ。

 しかも、羽目を外す。世の中には羽目を外してしらけさせる奴と、逆に盛り上げる奴がいるんだな。で、お前は盛り上げる。

 で、それからそうだなあ。実は負けず嫌いだろ。チームで仕事してんのに、他の奴のミスをほっとけない。結局パフォーマンスが下がるのが嫌なんだな。責任を押し付け合うのも大切だけどさ、お前はそういうのも嫌いなんだよな。負けの責任を誰かに押し付けるよりも、勝ちにいく。

 そのための向上心がある。残業するのが向上心じゃないぜ。自己啓発本読むのが趣味だろ。ほら、お前のアパート、何回か行っただろ。あんときにチェックしてたんだよ。俺。

 で、ここが大切なんだけどさ。俺ら、サラリーマンじゃん。一般常識ってやつの中で右往左往してるわけ。ホストって社会の屑ってイメージあるじゃん。でもさ。

 ただの屑なら姫、あ、この場合、客な。姫にもすぐに飽きられんだわ。

 常識を外すのは、結局常識を分かってないとなって、書道教室の爺さんに言われたことあっけどさ。書道もホストも同じなんだわ。

 で、森崎、お前酒強いよな。接待でさ、盛り上げるのにさ、テキーラ3杯一気したろ。あれで死なねえのすごいわ。

 まあ、そこら辺かなあ。コミュ障っぽいけど、まあ、大丈夫だろ。営業先ともさ、結構マメにやりとりしてっし、そこら辺は部長も課長も買ってる。

 何より、一番はあれだな。見た目がいい。役者やってたかって、結構きかれるだろ。そこだな。清潔感もあるし。とにかくちょっとでいいからさ。体験入店でも文句は言わないから、今月と来月、どっちがいい? ほら、店と準備とか、色々あるからさ」


 以上を先輩はまくしたてず、おごってくれたステーキランチの店で赤身肉を丁寧に切り分けながら、ゆっくりと話し切って、最後にスケジュール帳を取り出した。


 僕は社会人の3年目で、仕事にも慣れてきて、社内の色々な関係、というかサラリーマン戦国史状態が目についてきて、しかもあおりもくらっていた頃だったので、異業種にチャレンジするというのも良いかな、と思った。

 この時点で、思考が停止してたんだな。ちょっと考えれば分かるのに。先輩は結局、ホストクラブで味方してくれる人を求めていた。ただそれだけの話だった。

 

 けれどそんなことを全然考えつかなかった僕は、その晩から、チャレンジを予定していたTOEICの勉強を一時中止して、帰宅の際に購入した『どんな女性とも緊張せずに話せるHOW TO』を購入。

 約束の来月までに、と、その本をひたすら読み込むことにした。


 でも……。ますます、読めば読むほど、自信が消えていく。

 というのも、僕はその少し前に、人知れず失恋したばかりだったのだ。

以下、個人的なメッセージです。


遥さんへ。

異能バトルものの単話という前言、撤回です。

主人公のですね。バックボーンをちろっと書いてるうちに、文字数が埋まってしまいました。

まあ、書きやすい語り口なので、度々続きが更新されると思います。

ところで……。遥さんのことを、もう本当におせっかいなんですけどね、色々と考えているうちに、

グリーフケアという言葉にいきつきました。

助けになる言葉だと思うので、ググってみてください。

で、俺の、遥さんへのかかわり方は、グリーフケアが基本となります。

具体的には、

遥さんに対して、頑張って、元気を出して、と励ましの言葉は言わずに、心にとどめておきます。

早く立ち直らないといけないというプレッシャーを避けるためです。

また、経験談にもとづいた、前向きになるためのアドバイス、提案などはしません。

そんなものは押し付けですからね。一般論と個人は違いますし、ネットの間柄ですから、踏み込むラインが、遥さんを太陽と考えると、ラインを地球の公転軌道とすると、俺は海王星の軌道あたりにいるのを、体感として理解しております。

悲しみを乗り越えるためには、十分に悲しみ、死に向き合うことが必要で、適切な言葉はあるのでしょうが、それは遥さんの近くの方が分かることであり、俺はまったく分かりません。

なので、特にお母様関係には言及せず、また遥さんも無理にお母様のことを俺に話す必要はありません。体調が悪い、という事情も、お母様の件で心の体調を崩している、という意味で嘘ではありません。

ただ、喪失感。孤独感。これを、俺は和らげることができると思っています。

グリーフケアが必要な期間(具体的には三年ほど、もちろん脳機能に加えて内臓的な疾患を色々抱えているので、執筆そのものができなくなる場合もありますが、とにかく幸運なら三年ほど)、執筆し、更新をできる限りの頻度で続けることで、まあ頭がこんなんですからね、作品の質は多めにみてください。俺は遥さんのために書いています。

というよりも、文才も語彙力も文章作成能力も全部つきてしまって、そして才能があったころの自分とどうしても比べてしまい、遥さんが、世の中のどこかにいてくださらなかったら、筆は折れています。もう、本当に何もないんですよ。俺。

だから、書くのは楽しくても、実際は意味の薄い文字列だと分かっています。罵倒も知らない人から定期的に届きますし、ブロックもしてますけどね。そういうことです。

これは別にそんなことないよって言ってアピールではなくて、正確な自己分析です。

とにかく、俺は、俺ができる形で、遥さんの悲しみに寄り添いたい(そういう発想きもいと言われたら泣くので言わないでください)、ということです。

なので、更新頻度もメッセージも気になさらず。感想も週一くらいだとありがたいですが、月一でももちろんかまいません。四季ごとでも。いや、年一はさすがに。

あと、ワイ杯には出てほしいなあ。遥さんの作品好きなので、書いてほしいです。

それくらいかな。次回は久しぶりに、ゆっこです。

ではでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ