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49粒目『aberrancy:常軌逸脱。異常』ちゃたすま⑤

『aberrancy』


―常軌逸脱。異常。


aberranceと同じ意味。aberrantの名詞形。―


 焦っているという言葉のわりに、老人の声はのんびりとしていたし、表情も常日頃と変わらなかったので、須磨子は、告げられた事実について、ほとんど何も思うことがなかった。

 孤島から出ずに一生を終える。そもそも孤島どころか、城から外に出たことがないので、それの何が悪いのか、分からない。


 須磨子が古城の石牢に隔離されているのは、人間を見ると襲い掛かってしまう性質が原因だ。

 島民を須磨子から守る必要があるし、さらには、島民が須磨子を悪魔のように恐れて、魔女狩りのように、反撃にでる恐れもある。

 老人は家事一般についての能力が欠落しているため、家政婦を雇うが、須磨子が島に来てからは、もう17人交代している。17人とも、須磨子の加害に耐えることができなかった。

 初めの3人までは島の住民で、3人目は辞職の時に泣きながら喚き散らし、退職金を含めた給金の束を老人の顔面にたたきつけた。それから城の門で待っていた夫にすがりつき、須磨子の悪行を延々と言いつのった。

 これには老人も面食らった。島の平均の3倍以上の給金を老人は支払っていたが、この給金には守秘の対価も含まれていたはずである。悪行を知らされた夫は、須磨子の性質を島民に言いふらした。

 だから、4人目からは、島外の本国、英国から雇い入れる羽目になった。

 期間も最長で半年とし、いつ辞めてもかまわない。幼児の世話と家事の代行。ロンドンの家政婦業の5倍の賃金を支払うという、破格の条件だったが、それでも平均2カ月、長くても4か月で、家政婦たちは辞めていった。


 確かに、強化樹脂製の仮面で顔面は保護しているが、幼児に襲われ続ける日々は、感覚的に辛いのかもしれない、と老人は思いつつも、一方で期待もしていた。

 家政婦のうち、誰か1人でも、須磨子が襲うことをしなければ、そこから仮説を組み立てることができる。いや、襲うにしても、何らかの抑止が働けば、攻撃衝動の作用機序を類推することができる。

 老人が家政婦を雇い続けたのは、こうした目論見があった。老人の旧友たちは、そんな彼を非人道的だ、まるで人体実験だ、と非難したが、老人は意に介さなかった。

 時間がないのである。老人は焦っていた。

 焦りを口にすることで、須磨子に変化が現れるのではないかとも期待した。

 が、須磨子は変わらず、いよいよ、ではこの少女の今後をどうするか、考える必要が迫ってきた。

 旧友に託すか。それとも、この古城を隔離施設として、完成させてしまうか。


 悩んでいたある日、老人は須磨子の前で、鼻から出血した。

『赤い』

『ほう。何が赤いのかな。答えてごらん。須磨子』

『鏡を見て』

『ああ。出血しているな。なるほど。これは白血病だな』

『……不思議だなあ』

 老人を見上げて口調を真似る須磨子。

 須磨子に首を傾げる老人。


『ん? 何が不思議なんだい? 須磨子』

『何もないから。本に出てくる人たちは、もっと困る。冷静の反対になる』

 

 須磨子の言葉に老人は絶句した。

 思考が白く弾け、あらゆる須磨子の言動が脳内で再生される。

 老人の喉はつばをのみ、しかしうまく嚥下(えんげ)ができず、むせる。

 ハンカチで口元を押さえると、どろりとした血で布が汚れた。

 

 老人は鏡に向かい、鼻の下と唇を丁寧にぬぐった。

 そうして、改めて須磨子に膝と腰をかがめ、猫背になる。視線の平衡(へいこう)


『今、分かったよ。須磨子。教えてくれてありがとう』

『何が分かったの?』

『君が、異常者なんかじゃないってことさ。スタートラインからして、違っていたんだ。心理的な原因があって、君は行動に異常をきたしていると思っていた。もちろん、君の性質があって、加害という行動がある。でもその性質自体は、違ったんだ。まるっきり違う場所を、僕は探していた。

 見当違いにもほどがある。君との数年間の僕を学生とするならば、Fマイナスをつけないといけないね。つまり落第だ』

『何で?』

『君が異常者ではないから。常軌を逸脱していたのは、僕の方だったんだ』

 肩をすくめて苦笑をしてから、老人は一度、ふう、とため息をついて、額を天井に向け、目を閉じた。

『本当に良かった。僕は真実にたどり着いたし、君は古城(ここ)を出ていくことができる』

『それは、良いことなの?』

『良いことさ。そうだな。本当に良いことだな。でも、何が良いことなのかも含めて、僕は、須磨子、君に説明をしないといけない』

 美酒を口に含んだ時のような、心地よい興奮とかすかな酩酊を感じながら、老人は目を開き、改めて、須磨子に微笑みかけた。

以下、個人的なメッセージです。


遥さんへ。

ということで、続きを書きましたが、須磨子と茶太郎の話は、ここで一旦休止です。

何故須磨子は老人だけを襲わなかったのか、老人の何が異常だったのか。被膜の正体は。

という謎は、再開後に明かされます。

が、ええと……。

物語自体の進行が遅くてですね。起承転結の起承を、異常という単語に関連付けて書くつもりが、起の途中まででいっぱいいっぱいになってしまった。無念。

予定していた別の話を書く必要がありますので、休止という形になりますが、ちゃんと物語は用意しておりますので、できれば楽しみにしていただければ幸いです。(いや、本当は楽しみにしてくれると信じてる!!!!)

と、いうことで、次回はSFの単話になります。なるたけはやく更新したいです。

いや、本当に。ジンクス的になるたけはやく、とかお伝えすると、月単位で間が空いたりするんですが、打ち破れジンクス!!!!

遥さんにサンクス!!!!!

やる気マックス!!!!

と、韻を踏んで次回に続きクリスマス(言いたかっただけです。支離滅裂ですいません。次の更新はクリスマスではありません。いつだろう。できれば明日がいいなあ)

ではでは。

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