24粒目『abbess:女性の大修道院長』魔神を狩る者たち⑤
『abbess』
―女性の大修道院長。
大修道院長のabbotに女性化のessがついた。女性化はgod→godessが有名。神が女神。―
夜中に地震が起きるたびに修道院を脱出する人がいる。
大修道院長のシスター・エッダだ。
闇に沈んだ修道院のベッドが、大地によってほんの少しでも揺さぶられると、シスター・エッダはむくりと起きて、ランプもつけずに静かに身支度を整えて、外行きの外套に身を包み、院の裏口の閂を両手であげて、出る。
それから修道院の本館に向き直って、一礼をし、音を立てないようにゆっくりと閂を下ろす。
僕はそんなシスター・エッダの動作を見るたびに、色々間違ってるんじゃないかな、と疑問に思う。
修道院長なのに院を脱出するのは院則違反だし、違反に謝るなら主なる神だし、‐修道院内では彼女よりも偉い人物はいない‐、神に謝るなら聖堂で祈るべきだし、一礼だって閂を下ろしてからの方が良いと思う。
という感じで一切合切がちぐはぐなシスター・エッダの脱出だが、最近まで、僕は特に深刻にとらえたりはしていなかった。誰だって抑えられない衝動の1つや2つはある。
僕だって覗きはやめられないわけだし。多分彼女には恋人がいて、恋人は院の近くに住んでいて、地震のたびに会いたくなるとか、または会うという取り決めをしているのだろう。
そんなに不思議なことではない。が、僕はある法則に気づいてしまった。
シスター・エッダが院を脱走すると、夜空に13匹の蝙蝠が群れで飛ぶ。
12匹でも14匹でもない。きっちり13匹。
黄色い満月を背景に飛んでいく13の影の行先を、僕は知るよしもない。が、もしかしたら、あいつらはシスター・エッダのペットなんじゃないかな、なんて最近疑うようになってしまった。
または彼女自身が蝙蝠に姿を変えて、飛んでいくとか。
いや、これはさすがにないな。だって、蝙蝠に姿を変える女性なんて、吸血鬼じゃないか。
とりあえず地震がまた来たら、覗き見だけじゃなくて、僕は彼女の後をつけようと決意している。
どこに行くのか。誰に会いにいくのか。ちゃんと確認できたら、修道士となっても中々抜けない、僕の覗き見ぐせが、治りそうな気がする。