22粒目『abbatial:大修道院長の』魔神を狩る者たち③
『abbatial』
―大修道院長の。
abbacyが変化したもの。―
神母マリアの聖日が明けてすぐの深夜に、13の地震がこの国を襲った。
震度はどれも6で、全てがほぼ同時に発生にもかかわらず、おしなべて直下型だったものだから、研究者たちは首をひねった。
通常、地震は1つの巨大な源からうねりが起きて各地に波及する。
しかし13の地震は独立して発生し、局所的な被害を及ぼしただけだった。余震もない。
けが人が多数出たし、建物もがれきと化したが、死者は1人だけだった。
震度のわりに被害は軽微だったが、それでも、この国の人々は不安を感じずにはいられなかった。13の地震で崩れたのは、がれきと化したのは、どれも壮麗な歴史を誇る大聖堂だったからである。
ちなみに死者も教会の関係者だった。
次期の教皇と目されていた人で、この国の最も大きな大聖堂に併設された、大修道院の院長だった。
どれほど位の、あるいは徳の高い聖職者にも、死は訪れる。
が、今回の地震はその訪れ方が奇妙だった。
崩壊した大修道院のがれきに彼は埋まったわけではなかった。
むしろ、修道院はドーム型の聖堂だけが残っていた。
その聖堂の中央で、大修道院長は仰向けに倒れる形で発見された。
十字を切る形で指がおかれた胸の下には血だまりしかなかった。
すさまじい、砲弾のような質量と速度の何かが、大修道院長の半身を吹き飛ばしたと結論付けられたが、何かの正体は不明のままである。