19粒目『abaya(イスラム教徒の女性が着る伝統衣装)』文明滅亡後の自己紹介
『abaya』
―アバヤという、イスラム教徒の女性が着る伝統衣装。黒が普通。この黒は紫外線を吸収し、肌を保護する。サウジアラビアでは外出する女性にはアバヤの着用が義務づけられている。
体のラインを大幅に隠すので、女性も楽かもしれない。色は意外と黒以外もあり、実はファッション性に富む。アラビア版人民服。―
その荒れ果てた道の先に、橙の明かりが灯った。
民家だ。ナナセは立ち止まり、ライターを取り出した。
空はまだ明るい。道の両側は無人の街だが、闇に埋もれている。
街灯はあるが、根本から砕けるか頭部を失うかしている。
手帳と煙草、どちらに火をつけるか迷ったあげく、ナナセは煙草を選択した。
これが最後の1本。名残を惜しむナナセの口元で、小さな光が強弱をくり返す。
「何でこんなんなっちまったのかな」
徹夜で仕事を片付けて、倒れるように眠り、起きたら文明が滅亡していた。
人間は消え失せ、街には破壊の跡がいたるところに刻まれていた。
ナナセは仕事先に電話をかけようとしたが、そもそもスマホ自体が起動しなかった。
ガラスの消えたアパートの窓に溜息をついて、身を乗り出して通りを眺めたナナセの目に入ったのは、横倒しの電灯。
ナナセはアパートを出て、天井の崩壊したショッピングセンターを拠点にして、しばらく生活。
缶詰とペットボトルに頼る日々に飽きた末に、旅をすることにした。
とりあえず海に出ようと、線路沿いに歩くこと7日。ナナセは民家を確認。
人間がいる。この状況で。どういう事情で?
煙草の火に気づいてくれたら良いけれど、とナナセは願う。警戒しないでほしい、とも。
出てきたのは、懐中電灯と共に走ってきたのは、小柄な女性だった。
黒のフードをしている。イスラム教徒の伝統衣装だ。
女性は何かを必死に訴えてきた。
が、ナナセは分からない。だからとりあえず英語で、ナナセは自己紹介をすることにした。




