異世界召喚ってそんな良くないよね
「………うう、はあ!」
暗い部屋、冷たい空気、硬い床で恐怖と共に恭弥は飛び起きた。右方には床から天井に伸びる鉄の棒。特に手錠なんかはついていないが、恭弥は牢の中にいた。鉄格子の窓からはひんやりと冷たい空気に日の光りが差し込んでおり、爽やかな朝を迎えているのだが、それとは正反対に、今の恭弥の心はじめじめとした恐怖が差し込んでいる。
それが、分かりやすく
「カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ」
と、歯の根の合わない音として表れていた。
もう、少しで死ぬとこだった………死ぬとこだったんだ………。怖い、怖い、怖い、怖い……何もかもが怖い。
暗い暗い闇夜の世界で起きた惨劇は恭弥の心と記憶に『恐怖』という二文字で鮮烈に焼き付いた。その文字を成している呪印は恭弥の心と身体を捕らえて離さない。
と、そこで右目から一雫の涙が溢れ、次第に両目から止めどなく涙が流れる。
「ううッ、ああああ〜〜〜」
それから、どれくらいの時間だろうか恭弥は涙した。
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涙を流し、目元を赤く腫らした恭弥は落ち着いて状況分析を始める。
「それにしても、どういう状況だよ、これ」
わざと声を出して沈んでいる心を上げさせる。
「まじで誰かないかな」
よっこらしょと立ち上がる恭弥はそこで、自分の身体に視線を向ける。
そして自分の身体が治っていることに初めて気付く。
「えッ!?」
驚きの声が上がる。
そういえば息するのが苦しくないし、普通に立てる。どういうことだ……?とてもじゃないけど、あんな気持ち悪い怪我、すぐ治るようなもんじゃないし、それこそ治癒魔術でだってどうにかなるような怪我じゃない。
気絶する前のことを思い起こす。肺に刺さった肋骨にぐちゃぐちゃに折れ曲がった下半身の骨、自分で見るのだって気持ち悪かった。そんな怪我を一晩で治せるわけがない。最初から負っていなかったと言われた方がまだ納得出来る。
もしかして、昨日の夜の出来事は全部、幻だったのか…?あの『怪物』に追いかけられたことも、変のチェスの駒にが身体に入ってきたことも、『怪物』に殴り殺されそうになったことも、全部幻術だったのか?いや、そうかもしれない!そうだよ!!俺は幻術をかけられていたんだ!!間抜けに幻術にかかったなんて、情けないけど、しょうがないよね、異世界転移して困惑してたんだし。
幻術にかかったということで、不可解な出来事に無理やり納得した。
「それにしても、これからどうする?」
命の危機を乗り越えて終わりではない。牢の中にいるということは気絶した恭弥を誰かがーー恐らく白髪の女の子だろうがーー、ここまで運んだというわけだ。つまり、異世界人と交流することになり、必然的に今後の身の振り方を考えなくてはいけない。
「うう〜〜ん」
難渋する恭弥。
普通に別の世界から来ましたって言うか?でもな〜この世界での異世界人の立ち位置が分からないしな〜〜もしかしたら、今までに異世界からやって来た奴らは極悪非道だったとかで、即殺されるとかもあり得るし……ここは無難に別の世界から来たことは黙っておくとして、でもなんて言えばいいんだ?気付いたら、ここにいましたとか?………………むりむりむり!!ぜってー怪しまれる。
なかなか、定まらない。それもそのはず、いくら魔術師だと言っても親の教育方針で一般人と同じように育てられたのだから、普通の高校生が少し魔術を使えるくらいなのだ。こんな状況に対処出来る最善の方法など思いつくはずがない。
と、そこでコツコツと靴音がする。
監獄というほど立派なものではないが、牢が収められているこの部分に誰かが、入って来たのだ。
その靴音は、やがて鉄格子を挟み、恭弥の前まで来る。
その靴音の正体は白髪の女の子ーーと赤髪の女の子だった。
「悪いんだけど、牢の中から出てもらっていいかな?」
そう、恭弥に尋ねたのは昨夜、恭弥が気絶する最後の光景である白髪の女の子だった。
パールのように白くキラキラした髪をポニーテールにし、ポニーの部分を腰のところまで伸ばし大人な雰囲気を醸し出していた。
特徴的なのは髪の部分だけではない。顔も何処か大人な美しさを感じさせるが、近寄り難い感じを一切させない。
とんでもない美少女だった。
すっげーーーーーーーーー!!こんな美少女すぎるっていうか、目の保養ってレベルじゃない、俺の目が溶けちまう!!
「………」
恭弥が見惚れて言葉を発せずにいると、もう一人ーー赤髪の女性が恭弥に声をかける。
「おい、お前。オルフェリア様が聞いているんだ、さっさと答えろ」
そう、随分とツンツンした物言いをする赤髪の女の子も、これまた、とんでもない美少女だった。
薔薇のように真っ赤な髪をロングに伸ばし、足や腕の部分は筋肉が引き締まっているようだった。それとは対象的に胸は大きく膨らんでいて、引き締まった肢体と相まって普通の人と同じサイズだとしても大きく見えた。顔はクール系で綺麗だった。
いい、すごくいい!!むっちゃ可愛い!やばい、俺のタイプど真ん中!!すげえは、やっぱ!異世界すげえ!!
「…………」
歓喜に打ち震えていると、赤髪の女の子は腰に差している剣の柄に手をかけ、
「オルフェリア様、やはり、こいつは殺した方がいいのでは?」
とオルフェリアという名の白髪の女の子に尋ねる赤髪の女の子。
不穏な言葉が耳に入って我にかえった恭弥は、即座に声を発する。
「すいません、すいません」
咄嗟に出てきたのが謝罪の言葉というのは流石日本人というべきか。
「ええ〜と何でしたっけ?この牢から出してもらえるんでしたっけ?」
「そうだよ。まあ、私達の監視がつくけど、それは許して欲しいな」
そう言ってニコッと笑う白髪の女の子の笑顔はとても花が咲いたようでとても綺麗だった。